【自動車用語辞典:ステアリング「4輪操舵(4WS)」】前輪だけでなく後輪の舵も切れる操舵機構

■小回りやヨーの抑制などさまざまなメリットが

●最近再び復活の兆し

4WS(4輪操舵)は、前輪と同様に後輪にも操舵機能を備えているので安定した旋回性能を確保できます。

かつてのブームから一旦下火となり、最近また復活の兆しがある4WSの仕組みや特徴について、解説していきます。

●4WSとは

前輪だけでなく後輪も操舵する4WSは、ドライバーが前輪を操舵し、後輪はクルマがいろいろな情報から適切に操舵するため、安定した旋回性能が確保できます。

具体的なメリットとしては、逆位相制御によって小回りができる、ヨーを抑えながら旋回ができる、トーイン制御によって安定性を高められるなどがあります。

旋回の安定性を向上させるシステムとしては、ブレーキ機構ベースの横滑り防止ESCと4WDベースで左右輪のトルク配分を適正に制御するトルクベタリングがあります。それぞれ一長一短がありますが、搭載が義務化されているESCとトルクベタリングに比べると、4WSの採用例は少ないです。

●逆位相操舵と同位相操舵

後輪操舵には、前輪と逆方向の逆位相操舵と、前輪と同方向に操舵する同位相操舵の2つの方式があります。前輪のような大きな操舵角(最大40°程度)でなくても、後輪の操舵は2~5°程度でも効果は大きいです。

低速では、逆位相操舵(最大5°程度)にして旋回半径を小さくできます。車庫入れや狭いコーナーでの旋回時には、小回りが利くので便利です。車速とともに逆位相舵角を徐々に小さくして、車速40km/hぐらいで舵角を0°にします。

車速40km/hを超えると、同位相操舵(最大25°程度)にします。高速走行での後輪の横滑りが抑えられるので、濡れた路面でも安定した旋回ができ追い越しも楽になります。

●4WSの種類

1980年代後半には、各メーカーでさまざまな機構が実用化されました。その機構は、「機械式」、「機械式+電子制御式」、「電子制御式」の3つに分けられます。

機械式の代表例は、ホンダ・プレリュードに搭載された4WSです。

前輪を操舵するフロントステアリング・ギアボックスと後輪を操舵するリアステアリング・ギアボックス、それらを連結するセンターステアリングシャフトで構成されています。前輪を操舵するギアボックスの回転を取り出し、後輪を操舵します。逆位相と同位相の切替えができます。

機械式+電子制御式としては、マツダの4WSがあります。

機械方式と同様に、前後にギアボックスがあり、その間をステアリングシャフトで連結しています。前輪の操舵角はステアリングシャフトを介し、機械的に後輪のギアボックスに伝達されます。機械方式に電子制御を加えた方式で、制御バルブを介してパワーシリンダーの油圧を制御して、後輪の切れ方向と切れ角を制御します。

電子制御式としては、1985年の日産・スカイラインで採用されたHICAS(電子制御油圧作動式)があります。

フロントギアボックス内の横力検知バルブによってクルマの横Gを検知すると、HICASのパワーシリンダーに油圧を送ります。油圧に対応したパワーシリンダーの伸縮によって、後輪を操舵させる構造です。HICASは、同位相制御のみでした。


1980年代後半に多くの4WSが実用化されましたが、1990年代後半には高性能のマルチリンク・サスなどの出現によって、その存在感は薄れました。

最近になって、運転支援技術との連携を考慮した場合、ブレーキを使うESCよりもレスポンスの良いステアリング制御の4WSの方が扱いやすい、レーントレース制御に適しているという点から、4WSが見直されています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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