割安でも失うものなし? ボルボ・V60のハイブリッドなら「ローパワー版」が実はベストな選択だった

試乗してみてパワー以外の走行フィーリングで印象的だったのは、とにかく滑らかだったこと。もちろんPHEVはメーカーを問わずほとんどのクルマが滑らかな走りですが、エンジンがかかる際のスムーズさとか、かかっているときのエンジンの主張の少なさ(静かで耳障りではないエンジン音に起因する)とか、ハイブリッド車では上手に仕立てないとギクシャクするブレーキの違和感のなさとか、そういう部分がしっかり作られている印象。

ボルボもハイブリッドの作り方がこなれてきたことを実感しました。

ちなみに、ボルボは(本国デビューが)2019年以降の新型車は「全モデルを電動化する」と宣言しています。なお、電動車というのはEV(電気自動車)だけを意味するのではなくモーターを組み込んだ車両のこと。小さなモーターを組み合わせた「マイルドハイブリッド」も意味合いに含まれるので、ニュアンス的には今後のボルボの新型車においてエンジン単体のクルマは存在せず、何らかの形でモーターを備える(もしくはモーターだけで走る)ということですね。もちろんEVも開発中で2021年までには5台のEVをデビューさせるそうです。

とはいえEVが急激に普及することはないでしょうから、しばらくはPHEVを含むハイブリッドがボルボの主力となるでしょう。そんな背景を知ると、近年のボルボがPHEVに力を入れている理由が理解できるわけです。

そんななか、ボルボのPHEVの特徴は「暴力的なまでに速い」ということ。ボルボと言えば“ゆったり走る草食系”だったのは過去の話。最近はスポーティなハンドリングに凝っていて峠道が楽しかったりします。エンジンが318psだったり253psだったりするわけですから、「ハイブリッドだから遅い」んじゃなくて「ハイブリッドだから速い」っていうのがボルボのPHEVの特徴といっても過言ではない。ぜんぜん草食系じゃないでしょ?

実は、今回試乗した「T6 TwinEngine AWD」はボルボの全ラインナップとしても初採用のパワートレイン。お伝えしたように「T8 TwinEngine AWD」に比べるとエンジンスペックは落ちているのですが、とはいえ動力性能は十分。制御の変更で出力を落とすかわりにリーズナブルな価格設定にしているから、お買い得というわけですね。

もちろん、エンジンパワーが違うのだからその結果として加速性能に違いが生まれているわけですが、それで不都合があるかといえば一切なし。そもそも318psが過剰なパワーというだけで、258psでも十分に力強いことは今さら説明するまでもないでしょう。山道を全力で駆け抜けるというならともかく、日常領域でその違いを実感するシーンは皆無。258psで何の問題もないというのが、トップモデルである「T8 TwinEngine AWD」に対する新設定「T6 TwinEngine AWD」のもっとも重要なポイントじゃないでしょうかね。

とにもかくにも、今回の試乗でわかったことは高価な「T8 TwinEngine AWD」じゃなくたって「T6 TwinEngine AWD」で十分でしょ!ってこと。「最強スペックでないと嫌」という人以外は、価格とのバランスを考えて積極的に「T6」を選ぶべきだと思います。

ちなみに、現時点ではボルボのPHEVは急速充電対応ではなく、外部充電は200Vからの普通充電。満充電にかかる時間は2.5時間から3時間ほどで、バッテリーだけで最大45km程度走行ができます。もちろん、必ずしも外部充電する必要はありません。充電しない場合は、普通のハイブリッドカーとして走るまでです。

(工藤貴宏)

この記事の著者

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工藤貴宏

1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジンのマツダCX-5。
AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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