【自動車用語辞典:駆動方式「MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)」】エンジンをボディ中央に置き後輪を駆動する運動性能重視のレイアウト

■F1やLMPカーなどレーシングカーが数多く採用

●運動性能に優れるも車室はタイトに

MR方式は、車体中央近傍にエンジンを搭載し、後輪を駆動させる方式で通常2シーターなのでF1などのレースカーやスーパーカー、スポーツ車に採用されています。

理想的な前後輪の重量配分で優れた走行性能をもつMR方式の構成と特徴について、解説していきます。

●MR方式の構成と特徴

MRは、前輪と後輪の間にエンジンを搭載し、後輪を駆動するシステムです。一般にはエンジンを後輪車軸の前方に搭載したリアミッドシップですが、エンジンを前輪車軸の後方に搭載したフロントミッドシップもあります。

前後輪の重量配分を等分設定し、さらに重量の重いエンジンやトランスミッションなどを極力車両近傍に配置することによって、中央重心を実現しています。クルマの重量を中心に集中させると、コーナリング時の車体ヨー(水平方向に回転しようとする動き)を減少させることができます。

●MRのメリット

車体重心が中央近傍に設定できると、旋回運動が速く、収束性能も良くなります。MRの最大の特徴は、ステアリング操作に対して、レスポンスが良く運動性能が優れていることです。FFはアンダーステア、FRはオーバーステア傾向になりやすいですが、MRはコーナーに素直に沿うニュートラルステアになります。

駆動輪である後輪のトラクションが強いため、加速力が強く、安定性にも優れています。また、前輪が操舵、後輪が駆動と前後輪の役割が分担されているので、高出力エンジンにも対応できます。

FFのようにフロントに多くの機構が集中せず、FRのようなプロペラシャフトが不要なので、駆動系がシンプルになるメリットもあります。フロントが軽いため回頭性に優れ、またフロントにエンジンがないのでフロントを低くでき、スタイリッシュなデザインが実現できます。

●MRのデメリット

エンジンを通常のクルマの後席付近に搭載するため、車室や荷室に十分なスペースが確保できず、2シーターになるので普通の乗用車には適しません。また運転者とエンジンが近いので、エンジン音や熱の遮断対策が必要です。

基本的にはコーナリング特性は安定したニュートラルステアですが、限界を超えるとコマのようにスピンするリスクがあります。運転には、中上級の運転技術が必要です。

●意外なクルマがMRな場合も

F1やLMPカーなどのレーシングマシンは、ほぼすべてMRです。一方で高性能とは無縁の軽トラや1ボックス車でMRを採用しているケースがあります。これらは、空車時と積載時の前後重量配分の変化を少なくするために採用しています。


MR車の代表格は、フェラーリとランボルギーニですが、日本ではホンダ・NSXやホンダ・S660、過去にはトヨタ・MR-Sがありました。例外はありますが、MRの採用は、居住性より走行性能を重視するレースカーやスポーツカーに限定されます。

(Mr.ソラン)

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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