【自動車用語辞典:トランスミッション「概説」】エンジンの弱点を補う歯車の仕組み

■走行条件に応じた適切な出力をタイヤに伝える

●代表的なトランスミッションは5種類

エンジンの発生するトルクと回転数を走行条件に応じて増減 (変速) して、適切な出力をタイヤに伝達するのがトランスミッション (変速機) です。歯車やプーリーを組み合わせた複雑な機構で構成されるトランスミッションの仕組みや特徴について、解説していきます。

●なぜトランスミッションは必要なのか?

トランスミッションがないことを想定すれば、トランスミッションの必要性がわかると思います。例えば、1速だけだと発進はできますが、エンジン回転が上がりうるさいだけでスムーズな加速はできません。5速だけだと、そもそも発進ができません。

発進や登坂のような大きなトルクが必要な場合は、トルクを増大するために減速比が大きいローギヤが必要です。一方で、高速では燃費を良くするためにエンジン回転速度を下げる減速比の小さいハイギヤが必要です。

●EVにトランスミッションは不要

EVは、トランスミッションがなくても基本的には問題なく走行できます。なぜでしょうか?

エンジン車のトルク特性は、トルクバンドが狭い山形の曲線を示します。一方モーターのトルクバンドは広く、回転数に対して反比例の関係になっているため、基本的にはトランスミッションが不要なのです。

●トランスミッションの種類

現在、自動車で使われている代表的なトランスミッションは、以下の5種類です。

1) MT (マニュアル・トランスミッション)

ドライバーがクラッチとシフトレバーを操作し、歯車の組み合わせを変更することによって変速します。クラッチは、変速時に一時的に駆動力を断続する役目を担います。

最大のメリットは、動力伝達効率が95%以上と高く、燃費性能に優れていることです。日本では、新車販売の2%にも満たないMT車ですが、構造がシンプルで低コストなため新興国で、またダイレクト感を好む欧州で普及しています。

2) ステップAT (オートマチック・トランスミッション)

遊星歯車機構の各歯車にある多板クラッチを油圧制御することによって、自動的に断続し、スムーズな変速を行います。

変速操作が不要で簡便ですが、内部構造が複雑なため多段化すればさらに重量が増し、コストも高くなります。

3) CVT (連続可変トランスミッション)

1対のプーリーに金属ベルトを掛け、プーリーの半径を連続的に変化させて無段階で減速比を変更します。

比較的シンプルな構造で変速比が大きくとれるため、エンジンの燃費の良い運転領域が使いやすい利点があります。ただし、金属ベルトとプーリー間の摩擦によって駆動力を伝達するため、歯車よりも駆動損失が大きいことが課題です。

4) DCT (デュアルクラッチ・トランスミッション)

2系統の歯車機構と多板クラッチを備え、奇数段(1、3、5速)と偶数段(2、4、6速)それぞれのクラッチを交互に断続することによって、シームレスに変速します。

自動変速ですが、MTのようなダイレクト感のある変速フィーリングを体感できます。構造はMTなので、動力伝達効率が高いため燃費が良く、欧州車では徐々に増えています。

5) AMT (オートマチック・マニュアル・トランスミッション)

MTをベースに、クラッチ操作と変速をアクチュエーターによって自動化したトランスミッションです。

MT同様、構造がシンプルで軽量、動力伝達効率が高いことが最大の利点です。
ドライバー自らが変速操作するMTに対して、アクチュエーターが変速するときの変速ショックに違和感があり、日本では欧州ほど評価されていません。


燃費規制や電動化に対応するため、トランスミッションの役割がますます重要になってきました。本章では、多種多様なトランスミッションについて、仕組みや特徴を個別に解説していきます。

(Mr.ソラン)

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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