【自動車用語辞典:トランスミッション「変速比と減速比」】目標性能を実現するために組み合わされる歯車の比率

■加速性能や燃費を決める大切な数値

●近年は総減速比を下げて燃費を伸ばす傾向

トランスミッションの変速比やクルマの減速比、総減速比は、クルマが目標とする動力性能や燃費性能を実現するように設定されています。変速比と減速比、総減速比の設定の考え方について、解説していきます。

●なぜ変速は必要なのか

EVは、モーターのトルクバンドが広いため、基本的にはトランスミッションがなくても、実用上問題ありません。一方エンジン車は、トルクバンドが狭いためトランスミッションが必要です。

発進や登坂のような大きなトルクが必要な場合は、ローギヤを使います。トランスミッションによって減速されても、入力されるエンジン出力 (トルク×回転数)は変わらないので、減速されるとその分トルクが増大します。一方、高速ではハイギヤを使います。変速によって相対的にエンジン回転数を低下させて燃費を向上させます。

また、高速走行中に追い越し加速するときはMT車ではシフトダウン、AT車ではキックダウンして変速段を下げて加速力を強化して対応します。

●変速比と減速比、総減速比とは

変速比(ミッションギア比)とは、各ギア段のエンジン回転数とトランスミッション出力回転数の比です。トランスミッションでエンジン回転数がどれだけ減速されるかを示します。

例えば、あるギア段の変速比が2ということは、エンジン回転数が2,400rpm(回転数/分)のとき、トランスミッションで1/2に減速されてトランスミッション出力回転数は1,200rpmです。

さらに、タイヤに至るまでにデファレンシャルギアによる減速があります、これを減速比(デフ比)や最終減速比(ファイナルギア比)と呼びます。

例えば減速比が3ということは、上記設定でデフによって1/3に減速されるため、タイヤの回転数は400rpmです。

以上、トランスミッション変速比2、デフ比3の設定では、エンジン回転数2,400rpm→トランスミッション1,200rpm→タイヤ回転数400rpmとなります。

トランスミッション変速比と減速比の積を総減速比と呼び、これはエンジン回転数とタイヤ回転数の比を表します。

カタログには、これら各段の変速比と減速比、総減速比が表記されています。あるエンジン回転数でのタイヤ回転数、すなわち車速(πxタイヤ直径×タイヤ回転数)が算出できます。

●変速比の設定

一般に最低速段の変速比は、必要な発進加速や登坂能力で決まり、最高段数は走行抵抗に打ち勝ち必要な最高車速が得られる変速比に設定されます。それらの中間の変速比は、それぞれの中間段の走行性能と燃費性能をバランスさせて設定されます。

最近は特に燃費が重視され、ステップATでは多段化が進み、7速や8速のトランスミッションも珍しくはありません。変速段数が増えれば、発進加速を犠牲にすることなく、定速走行のエンジン回転数を低く抑えることができ、燃費を向上させることができます。また変速ショックが小さくなり、スムーズな走行と静粛性が得られます。

●同じ車速でも回転数を低くする傾向に

長年クルマに乗っている人は、最近のクルマは同じ車速でもエンジン回転数が低いと感じることが多いのではないでしょうか。
これは、総減速比を低く設定して、エンジン回転数を下げ負荷を上げて、「燃費の目玉」に近づけて、燃費を良くするのが狙いです。


燃費重視のクルマは、トルク不足や加速不足を指摘されることが多いですが、これはエンジンの出力不足というより、走りを犠牲にして総減速比が低い設定になっていることが要因のようです。

走りと燃費を両立するには、やはり減速比調整に頼るのではなく、エンジン本体の燃費を改良するしかありません。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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