【自動車用語辞典:トランスミッション「CVT」】1対のプーリーでギア比を自在に変更できる変速機

■ストップ・アンド・ゴーに最適な連続可変トランスミッション

●小・中型車を中心に普及率が伸びている

CVT(連続可変トランスミッション)は、日本のノロノロ運転や渋滞時のストップ・アンド・ゴーに最適なトランスミッションであり、小・中型車を中心に普及率を伸ばしています。

エンジンとの統合制御で低燃費を発揮するCVTの機構やメリット・デメリットについて、解説していきます。

●CVTの仕組み

一般的なCVTは、一対の入出力プーリーに金属ベルトを掛けて、駆動力を伝達します。入出力プーリーの有効径(ベルトの巻きかけ半径)を変えて、変速比を連続的に変化させます。

金属ベルト(プッシュベルト式)は、数百枚の金属コマを重ね、両側から薄い鋼板の輪を重ねたもので挟んで構成されています。

プーリーの断面は、V字構造になっており、油圧制御でベルトのかかる面がV字の斜面を昇降します。この結果、プーリーの有効径、すなわち変速比が連続的に変化します。

プーリーは、入力側(ドライブ側)のプーリー幅を変化させると、ベルトに引っ張られて出力側(ドリブン側)のプーリー幅も変化し、幅広い変速比が実現できます。

●CVTのメリット

一般的には、CVTもステップAT同様、前段にトルコンを配置します。トルコン効果と相まって、発進はスムーズで、駆動力が途切れないため変速ショックがなく、加減速がスムーズです。

エンジンには、「燃費の目玉」と呼ばれる熱効率の良い領域が存在します。「燃費の目玉」付近を通るように、変速比を任意に選択できるため、燃費が向上します。小型車や日本のように市街地中心の走行に向いています。

また歯車を使った他のトランスミッションと比べて、部品点数が少なく、シンプルな構造で軽量小型です。

●CVTのデメリット

初期のCVTでは、多くのドライバーが加速時に先にエンジン回転が上がってから加速する「ラバーバンドフィール(ゴムバンドのようにレスポンスが悪い)」に、違和感やレスポンスが悪いと感じていました。歯車でなく、プーリーとベルトで変速するCVT固有の現象ですが、最近は制御で問題ないレベルまで改善されています。

プーリーとベルトの摩擦力で動力を伝えるため、高い油圧で押し付ける油圧ポンプの駆動損失、さらにプーリーとベルトの接触面を滑りながら変速するので、伝達損失が発生します。定常状態で10%程度、変速時には40%程度の損失が発生します。

ステップATより、コストは高くなります。プーリーの高精度加工や特殊な金属ベルトなどがコストアップの要因です。

●CVTの矛盾する要件

そもそも、CVTには、駆動力を伝えるときには滑らせない(摩擦力が大)、一方変速時にはベルトを滑らせる、という矛盾があります。

高出力エンジンでは、動力を伝達するための強い摩擦力、高い油圧が必要となることから、駆動損失が増大します。したがって、CVTの高出力・大排気量エンジンへの適用は、厳しいのです。


変速比を連続的にある程度自由に設定できる(より燃費の良い領域を使用できる)という点で、CVTは理想的なトランスミッションと言えるかもしれません。

日本では、小・中型車はCVT、大型車はステップATという棲み分けができていますが、弱点である動力伝達効率がさらに改良できれば、大型車にもCVTが食い込んでくるかもしれません。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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