【自動車用語辞典:トランスミッション「DCT」】2つのクラッチを使ったマニュアル感覚のAT

■MTの伝達効率のよさとATの利便性を両立

●奇数ギアと偶数ギアをシームレスに締結

伝達効率の良いMTと、自動で効率的な変速ができるATの両機能を持ち合わせているのが、DCT (デュアルクラッチ・トランスミッション)です。日本での採用は限られますが、欧州では高い人気を持つDCTの機構や特徴について、解説していきます。

●DCTの構造

DCTは、MTベースなので動力伝達効率が高く、ATのように変速制御を自動化して操作を不要としたトランスミッションです。

奇数段(例えば、1-3-5速)と偶数段(2-4-6速)に分割された2系統の歯車機構の入力軸と、入力軸を切り替えるための2系統の多板クラッチで構成されています。2本の入力軸は、多板クラッチON-OFFにかかわらず歯車を介して、1本の出力軸に統合して出力するようになっています。

2系統の切り替え用クラッチは、湿式の多板クラッチです。
湿式クラッチはオイルに浸っており、断続がスムーズで、摩擦熱をオイルで冷却できるため耐久性に優れ、DCTでは主流となっています。

各段の歯車制御は、ソレノイドバルブによってシフトフォークを動かすことで歯車を切り替えます。前段の多板クラッチと連動して、俊敏な変速を実現しています。

●変速の仕組み

発進時の変速の仕方について、簡単に説明します。

まず奇数段クラッチをつないで1速で発進します。このときクラッチのつながっていない偶数段の2速の歯車は、かみ合わせを完了して待機状態です。

車速が上がった時点で、奇数段クラッチが切れると同時に偶数段クラッチがつながり、瞬時に2速へ変速します。このとき、クラッチがつながっていない奇数段は3速の待機状態です。

このように、奇数段と偶数段をシームレスに駆動力が途切れることなく、変速できます。

●DCTのメリット・デメリット

DCTは、MTベースの歯車機構なので伝達効率は優れていますが、自動変速のための油圧系の損失があり、総合的にはMTの95~98%に対して90%前後まで下がります。

ただし、DCTは駆動力が途切れることなく瞬時(0.数秒程度)に変速できるため、運転者の変速技術に左右されるMTよりも、場合によっては燃費が良い場合もあります。

俊敏な変速は、中高速運転ではダイレクト感のある走りを実現しますが、一方発進や極低速走行ではトルコンがないので、クラッチ断続時に多少のショックが発生する場合があります。

複雑な機構なので、コストは他のトランスミッションに比べ高くなります。

●日本での採用は限定的

日本では、DCTの採用はホンダのHEV「i-DCD」と一部のスポーツ車に限られます。
欧州では、ダイレクト感と燃費の両立ができるDCTは人気がありますが、日本ではショックのないスムーズな加速と燃費を両立するトルコン付きCVTやステップATが普及しています。渋滞が多くストップ・アンド・ゴーの頻度が高い日本では、ダンパー的な役割のトルコンが必須かもしれません。


欧州や中国で人気のDCTですが、今後日本で普及するかというと、答えは「NO」だと思います。
ベースであるMTの新車販売比率がすでに2%を切っている日本市場では、MTの改良線上に位置するDCTが、今後普及する可能性は小さいと思われます。

高速走行の定常や加減速運転が中心の欧州に対して、渋滞などのノロノロ運転の低速走行が多い日本の交通事情では、ちょっとしたギクシャク感でも致命的になってしまいます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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