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■欧州では小型車向けの廉価なATとして普及
●ダイレクト感があり燃費にも優れる
AMT (自動MT)は、MTの構造そのままで変速操作とクラッチ操作を自動化したトランスミッションです。日本での採用例は少ないですが、欧州では廉価なトランスミッションとして小型車を中心に採用されています。日本でなぜ採用されないのかを含めて、AMTの機構や特徴について解説していきます。
●AMTとは
AMTは、MTの燃費性能とATの利便性を狙い、MTの構造そのままで変速操作とクラッチ操作を自動化したトランスミッションです。広義のAMTには、デュアルクラッチ・トランスミッション (DCT)も含まれ、区別するためにシングルクラッチ式ATと呼ばれることがあります。
また変速操作は運転者に任せて、クラッチ操作のみ自動化したタイプ (セミAT)もあります。
クラッチ操作および変速操作は、一般には電動油圧式アクチュエーター、または油圧を使わないモーターアクチュエーターで行います。油圧式は応答性に優れ、モーター式は小型、低コストです。
●AMTのメリット
基本はMTなので、ダイレクト感のある走りとともに、動力伝達効率が高いため燃費が優れています。クラッチと変速操作部が自動化されていますが、構造は比較的シンプルで軽量、低コストです。
また大半の部品がMTと共通化できるため、開発・製造コストを抑えられます。MT比率が高い欧州では、その効果がより大きくなります。
●AMTのデメリット
最大の問題は、変速フィーリングが悪いことです。これが、日本市場で受け入れられない最大の理由です。
MTでは、クラッチを切って変速して次にクラッチをつなぐまでの間に、エンジンの駆動力が0.数秒間途切れる時間があります。加速中に一瞬推進力がなくなる「トルク抜け」が起こるので、ドライバーは減速感を感じます。MT車の場合は、自分で変速するので身構えることができるので慣れますが、AMTの場合は予期せぬタイミングで変速が起きるので、それをギクシャク感、ショックとして感じてしまいます。
欧州では、渋滞が少なく、比較的高速の定常走行が多いのであまり気になりません。むしろ、運転の小気味よさを感じ、燃費メリットを享受しやすくなります。
一方日本では渋滞が多く、ストップアンドゴーや低速走行が中心なため、変速時のギクシャク感が目立ち、ユーザーには許容できないのです。
●日本の採用例
欧州では多くの廉価車に採用されていますが、現在日本でのAMT採用例は、スズキの軽モデルに限られます。(ヴィッツの欧州仕様車ヤリスには、AMTの設定あり)
スズキは、「AGS (Auto Gear Shift)」と呼ぶAMTを多くの軽自動車に採用しています。MTをベースに、油圧アクチュエーターとの接続部分とパーキング機構部分を変更し、AMT化しています。
クリープ機能(トルコン付きミッションのように、アクセルを踏んでいなくても、わずかな推進力を持たせた機能でスムーズな発進をサポート)やヒルホールドコントロール(坂道でブレーキ油圧を数秒間保持して後退を回避)を採用して、AMTの発進にかかわる弱点を解消させています。
安価で軽量低コストのAMTは、軽自動車など小型車に向いているという見方はありますが、今のところ日本ではスズキ以外で採用されるという情報はありません。
MT車の感覚を基準にしている欧州ではAMTが許容されても、CVTやステップATの自動トランスミッションに慣れている日本では、今後も許容されにくいのではないでしょうか。
(Mr.ソラン)