【自動車用語辞典:エンジン「基本構成」】エンジンの排気量やシリンダー数、シリンダー配列はどうやって決める?

■求められる性能やコスト、搭載性から総合的に決定される

●排気量や気筒数、気筒配列を決める要素とは?

クルマのコンセプトやサイズ、それに見合ったエンジンの目標性能が設定されれば、最適な排気量や気筒数、気筒配列が決まってきます。排気量や気筒数、気筒配列はどのようにして決められるのか、解説していきます。

●1気筒あたりの適正な排気量は?

クルマのコンセプトやサイズ、目標性能などによって、エンジンの排気量が決まります。排気量が決まれば、次はエンジンの気筒数や1気筒あたりの排気量(ボア×ストローク)などの基本構成が決まります。

ガソリンエンジンの場合、高い熱効率を得るために1気筒あたりの排気量を400〜600ccに設定することが重要です。1気筒あたりの排気量が大き過ぎるとノッキングしやすく、燃焼期間が長期化します。また、排気量が小さ過ぎると熱損失が大きくなり、いずれの場合も熱効率が下がります。

軽自動車のように総排気量(660cc)が小さい特殊なエンジンでは、振動の問題から単気筒や2気筒にできないので3〜4気筒とし、1気筒あたりの排気量はやむを得ず適正な排気量より小さくしています。

※豆知識…小型車(1.0〜1.4L)では、かつては振動に有利な4気筒が主流でしたが、最近は3気筒エンジンが増えています。低振動技術が進んだため1気筒あたりの排気量を増やす3気筒化によって機械損失を下げ、熱効率を上げて燃費を向上させるのが狙いです(4→3気筒によって、部品数が減り、コストが下がる効果もあります)。

●直列エンジンとV型エンジン

エンジンルームの広さには限りがあるため、搭載するエンジンは極力コンパクトにする必要があります。直列エンジンの場合はエンジンの長さが搭載上の課題であり、またクランクシャフトが長くなるため剛性面でも不利です。

クルマにもよりますが一般的に直列では6気筒が限界です。そのため、最近は直列6気筒でなくV型6気筒を採用する例が多くなっています。8気筒となると、直列ではさらに搭載が困難で、V型が一般的です。

V型の最大のメリットは搭載性です。幅は広がりますが長さが短くなり、コンパクトです。しかし、シリンダーヘッドが2分割になるなど、部品点数が増えて、構造が複雑でコストが上がるというデメリットがあります。

●気筒数と振動特性

4ストロークエンジンでは、吸気・圧縮・燃焼・排気行程の4行程の中でトルクを発生するのは燃焼行程だけなので、トルク変動が発生します。気筒数が多くなると、1回転中にどこかの気筒で燃焼行程が発生するため、トルク変動による振動が小さくなり、回転が滑らかになります。

最も多く採用されている直列4気筒では「2次振動」が問題です。2気筒ずつ対称的な動きをしてバランスが取れているようですが、実はピストンが下向きに動く速度より上向きに動く速度の方がわずかに速いので、その差が振動を発生させます。

●エンジンを揺さぶる「偶力振動」

一方、3気筒などの奇数気筒では、クランクシャフトの中央位置を中心にピストン配置を対象にできないので、エンジン自体を上下に揺する「偶力振動」が発生します。奇数気筒数の大きなデメリットです。

V6・V8気筒でも、1次・2次振動は釣り合いますが、偶力は発生するため、バランスウェイトが必要です。

※豆知識…直列6気筒エンジンは、「完全バランスエンジン」と呼ばれます。燃焼間隔が120°のため、ピストンの慣性力と偶力が互いの気筒で打ち消し合うため、2次振動、偶力振動も抑えることができるのです。


気筒数や気筒配列は、性能、振動、コスト、搭載性など総合的に判断して、設定されます。スバルとポルシェが採用する個性的な水平対向エンジンについては、別頁で解説します。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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