ハイブリッド専用車でも上質セダンはできる。欧州プレミアムを目指した新型インサイトのデザインの意図とは?

●シンプルな造形の「本質は細部に宿る」。造り込まれたインサイトのデザイン

初代からクーペ、ハッチバックとボディを変化させてきたホンダ・インサイトは、新型で正当派のセダンとなりました。インサイトとしてのデザインの特徴はどこにあるのか、担当デザイナーに話を聞いてみました。

── まず最初に。新型はキャビンとサイドウインドウ、リアフェンダーをシビックと共用していますが、そのうえで造形上のキーワードはあったのですか?

「はい。ひとつは「エレガント&ダイナミクス」です。ベースのシビックよりアッパークラス、具体的には50代の層を想定した上質さを狙いました。また、ハイブリッドはもはや普通の存在として、あくまでも本物のセダン目指し、「真セダン」というキーワードも立てています」

── そのセダンとして、明快な3ボックスでもなく、流行の4ドアクーペとも少し違う。このシルエットの意図はどこにありますか?

「セダンとして後席の快適性を考慮したパッケージを行い、そこにホンダらしい走りのカタチをどう表現するか、です。もちろん時代の流れに沿ったトレンドも意識していますが、ロー&ワイドのダイナミックなスタイルがいまのホンダということですね」

── フロント周りではグリルの桟を筆頭に、横方向の動きが強いですね

「北米仕様ではグリルをカタマリで見せているのですが、国内仕様ではより上質な大人の表情にしたかったのです。グリルは格子状ですが、横桟に「刀身」をモチーフとしたメッキを施すことで精度感を出しました。また、ランプに延びたメッキも精度の高さを表現したものになっています」

── ランプもグリルも横バーで占められると、顔の表情が無機質になりませんか?

「そこは面質に変化を出すことで表情を作っています。ランプに延びるメッキバーがメイン、グリルの桟がサブという強弱の組み合わせで、先のテーマであるエレガントさやダイナミックさを表現する変化です」

── カタログで「優美」と謳われているボンネットフードのラインですが、このクラスとしてはずいぶん強い表現にしましたね

「新型では欧州プレミアムのような佇まいも狙っていて、ノーズにかなりボリューム感を持たせています。その量感との兼ね合いで、内側からそれぞれグリル、ルーフ、フェンダーにつながる3本のラインを意図的に「流している」のです」

── フェンダーラインは前後で分けて引かれていますが、ボディの一体感がなくなりませんか?

「一体感を持たせるために、ボディの基本は大きな「樽」形状となっていて、四隅の大きな塊がボディを支える骨格として考えています。また、フェンダーの膨らみは内圧をしっかり感じさせ、そのピークにラインを引くことで、線に必然性を感じるようにしています」

── では最後に。カタログや公式サイトには「本質は細部に宿る」という言葉が強調されていますが、これは造形テーマでもあったのですか?

「いえ。今回はあくまでもシンプルな造形を目指していて、大きな構成からしっかり固めています。シンプルと言っても無意味な面や間延びしたボディはNGです。今回は1/1モデルを作るのが異例に早く、その後の磨き込み、精度アップにかなりの時間を使いました。そうしたミリ単位の精査の中に「細部」という表現があったということです」

── そこがベースとなったシビックとの違いということでしょうか。本日はありがとうございました。

[語る人]
株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター
デザイン室 1スタジオ 主任研究員 田中幸一 氏

(インタビュー・すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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