【新型ホンダ・NSX試乗】ますますジェントルになり、上質な走りを手に入れた2019モデル。だからこそ気になる「ミスマッチ」

日本を代表するスーパースポーツ、ホンダ・NSXがマイナーチェンジしました。発売が2019年5月なので2019モデルといっていいでしょう。

初代NSXは2シーターボディにミッドシップエンジン、リトラクタブルヘッドライトというトラディショナルなスタイルでスタートしていますが、2016年に導入された2代目NSXはV6エンジンに3つのモーターを組み合わせたハイブリッド方式を採用するなどした先進的なモデルです。

初代のNSXも(ミッドシップのスーパーカーとしては)非常に乗りやすいモデルでしたが、最新モデルはさらに乗りやすいモデルとなっています。これは2代目登場時からそういうコンセプトですが、今回の改良でその傾向はさらに高まりました。

エンジン&モーターの最高出力、最大トルクの変更はありませんが、出力特性は変更されました。最終的に到達するピーク値は同じなのですが、加速はより滑らかな傾向となりました。もともとがコントローラブルな出力特性であったので、それに磨きをかけたという雰囲気です。

コーナー立ち上がり時の加速感も滑らかさが出ていると言いますが、劇的な進化ではなくそれを感じ取るにはかなりの速度とそれに対応したアグレッシブなコースが必要でしょう。

では進化が感じられないかといえばそんなことはありません。何よりも大きな進化を感じるのがハンドリングです。サスペンションで大きな変更があったのは前後のスタビライザーで、フロントが26%、リヤが19%の剛性アップが行われました。つまり、ロールをより抑える傾向への変更です。そのほかにはリヤのコントロールアームブッシュと、リヤハブが剛性アップされています。

じつはタイヤも進化しています。ブランドはコンチネンタルで変更がありませんが、従来のスポーツコンタクト5Pからスポーツコンタクト6への変更です。グリップを向上したことからコントロールアームブッシュの剛性をアップしたのでしょう。タイヤのグリップを上げて、アームブッシュがそのままでは変化量が大きくなってしまいます。

磁性流体を用いて減衰力をコントロールしているダンパーは、コントロールを滑らかに行うセッティングとなり、路面追従性を向上しています。初期ロールの伸び側減衰力はダウンされ、よりタイヤを押しつける方向性へのセッティング変更です。

SH-4WDのセッティングも変更され、ハンドリングの素直さは増しています。オンザレール感覚はさらに向上して、アクセルを踏んでいけば素直にコーナーをトレースします。荒々しく暴れるリヤタイヤをコントロールしながら走っていたような過去のスーパーカーとはまるでことなるジェントルな走りがそこにはあります。

デートドライブで使ってもまったく問題のないドライブフィールです。普通に流しているときはビックリするくらいに静かです。EV走行となれば、さらにその静かさは際立ち、まるで映画の演出でエンジン音を消されたようなシーンがやってきます。

ちょっとしたエンターテイメントを楽しめるのがNSXのよさなのですが、ひとつ大きな問題があります。助手席の女性への花束はどこへ置くのか? です。ここまでジェントルに仕上げてしまったスーパーカーはそこの部分が不可欠でしょう。パッケージングは走りに徹してしまっているのです。パッケージングとジェントルでコンフォータブルな走りの部分がミスマッチなのです。

トランクをちょっと小さくしてもいいから、シート後ろにちょっとしたスペースが欲しいのです。スポーツ性だけを考えるならこのパッケージングで十分ですが、それならばジェントルな部分はもう少し省略してもいいのではないのでしょうか。

(文・写真/諸星陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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