試乗は御殿場にある道幅が狭く荒れた「長尾峠」で行いました。取材した日は雨が降り、路面コンディションはウェット。さらに霧が出てかなり見通しの悪い状態でした。試乗するにはあまりよくない条件です。
ですが、S660はこのような峠が大好きなクルマ。やや過敏なところが顔を覗かせつつも、車体の小ささ、ミッドシップというレイアウトも相まって、まるでミズスマシのように気持ちよく峠道を下っていきます。S660 Modulo Xに乗り換えると、このミズスマシぶりがさらに加速。明らかにノーマルよるも早く峠を下っていけます。
しかも減衰力設定を最も硬い状態にしても、ノーマルより乗り心地がよいことに驚きます。微振動が減ったためか視界が広くなったように感じるので、安心感がまるで違います。
そしてブレーキがとてもコントローラブルなので、安心してコーナーに侵入できますし、ノーマルに比べて車の挙動がわかりやすいですから「これ以上は無理をしてはいけない」とクルマが教えてくれます。ですので安全に速く、快適に、という夢のような走りが楽しめます。
何より驚いたのはS660の美質である「Quick & Light」がより際立っていること。ハンドルを切った時の切れ味が鋭く、スパッと車の向きが変わるのは快感そのもの! ノーマルのS660に戻ると「こんなに鈍かったかな?」と錯覚するほどです。これほどまでにクイックで楽しい車は、ちょっと思いつきません。
荒れた峠を走った後、近くにあるワインディング道路「乙女峠」を走行しました。
ここで感じたのは、直進安定性の高さ。試乗日は横風が強かったのですが、ノーマルのS660ですと時折ふらついていたのですが、Modulo Xはタイヤが路面に接地している感覚をしっかりと感じ取れ安心感があります。綺麗に舗装された道路での乗り心地を一言でいえば「しっとり」。不快な振動を上手に抑える柔らかさと芯の強さを感じます。
どこかヨーロッパのプレミアムコンパクトカーに似ており、パートナーを隣に乗せても嫌な顔はされないことでしょう。
クルマ好きが作ったスポーツカーで、しかも開発責任者が若いゆえか、時折走りに若さを見せるS660。S660 Modulo Xは3年という時を経て円熟し大人になったような印象を受けました。
先日行われた全日本スーパーフォーミュラ第4戦富士大会の会場で、サポートレースであるN-ONEオーナーズカップに参戦するS660の開発責任者である椋本氏とお話しをする機会がありました。
S660 Modulo Xについて尋ねてみたところ「実はまだ乗っていないんですよ。乗ってみたいんですよね」とのことで、やはり気になっている様子。椋本氏の手を離れて誕生したS660 Modulo Xにどのような感想を抱くのか、とても興味があります。
S660の美質である軽快さはそのままに、しっとりとした乗り心地の良さと、一段階上のコーナーリングスピードを手に入れたS660 Modulo X。現在のオーナーはもちろんのこと、いろいろなクルマを乗ってきた方にこそ、この車に触れてほしいと思います。軽自動車やコンパクトカーに対するイメージが変わること間違いナシです。