パワーユニットとともに現代のF1の鍵を握る空力。今号で何より興味深かったのが、F1最新風洞実験事情が掲載された記事でした。
■正しく早く、大量に
各チームは日々、ライバルを出し抜こうと、風洞実験で新アイテムのテストを繰り返しています。その中で本誌が注目しているのは、なんとあの日本を代表する自動車メーカーの実験室だったのです!
「なかでも注目すべきは、トヨタがドイツ、ケルンに置くモータースポーツ前線開発基地、TMG(トヨタ・モータースポーツGmbH)にある風洞実験可視化システムだ。正式名称を粒子画像流速測定法(PIV)といい、風洞実験室内部のエアロフローを克明かつ詳細に可視化する。PIVは、TMGオリジナルのテクノロジーではなく、その起源は冷戦時代の超音速航空機やミサイルの空力開発にまで遡る」
このTMGのPIVシステムは、トヨタが09年シーズン終了後にF1プログラムを停止した後はカスタムユーズ用に開放されており、使用料さえ払えばかつてのライバルチームも自由にこのハイテク設備を使用することができるのだそうです。現在では業界標準として定着し、フェラーリ、ウィリアムズ、フォース・インディア、マクラーレン、トロロッソらが頻繁に利用しているとのことです。
ではなぜ、TMGのシステムがこれほどまでにポピュラーになったのでしょうか。その理由が本誌に書かれていました。
「理由のひとつは、連続モーション・システムを完備していることにある。これまでの風洞実験では、実測とモデルのヨーやピッチなどの微調整を繰り返していたが、その都度、実験を止めなければならなかった。連続モーション・システムがあれば、モデルの角度など物理的条件を自動で変更し、その間も測定を止めずに空力パフォーマンスを記録できる。一度の風洞実験で得られるデータが飛躍的に増加したのだ」
そして風洞実験室とともに進化しているのが風洞用パーツ。本誌によると09年当時、風洞実験に使用するパーツは、ほとんどがカーボンファイバーか、精密加工された金属で制作されていたのだそうですが、現在では3Dプリンターが用いられ、製作時間が一気に短縮されたのだそうです。
これについて、ルノーのアドバンスト・デジタル・マニュファクチャリング・マネージャーのパトリック・ヴェルナーは以下のように語っています。
「3Dプリンターがない時代は、モデルにドリルで穴を開けて、そこにセンサーをタッピングしていた。今ではさまざまな形状のモデルが自在に制作できる。しかも、モデル内部に複雑なチャンネルを設けることだってできるから、センサーの装着方法と装着点数に革命的な変化が起こったんだ。空力専門家にとっては、まさに夢が叶ったようなものだよ。センサーの数が増えて、装着したい部位にピンポイントで装着できるので、一度の風洞実験で得られるデータが断然多くなった」
F1メカニズムの本って、専門用語がたくさんあり文章を読んでいるだけでは理解できず、途中で嫌になってしまうことがほとんど。でも、このF1速報別冊「F1メカニズム最前線」はマシンやパワーユニットの写真がたくさん掲載されており、しかもそれぞれに分かりやすい解説が付いているので、メカオンチな私でも「そうか、このことか!なるほどね~」と理解することができました。
F1メカニズムに詳しい方はもちろん、苦手な方にも、ぜひ読んでもらいたい一冊です。私もシーズンオフ中に熟読して、開幕戦が始まる頃にはレベルアップしたF1女子になれるように勉強するぞー!
(yuri)
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