なぜ? F1日本GP、ビアンキ選手のクラッシュ6つの疑問

<3>なぜレース中にトラクターがコースに入ったのか

スーティル選手のクラッシュの時点でセーフティカーを入れるべきだったのでは。 こうした意見も多々見受けられますが、レース中、コース内にトラクターが侵入し、クラッシュ車両の排除作業を行うことは、現在のFIAの規則下では、なんらおかしなことではありません。 一方、規則では問題ないからと言って、それですべてが片付くかというと、それは間違いだといえるでしょう。
黄旗振動区間の問題を先に述べましたが、オフィシャルの作業は、このルールをドライバーが厳粛に守ることを前提として実施されています。 反対に、オフィシャルは、作業中に後続車両が突っ込んでくることも想定しながら作業をするようにも教育されています。 なぜなら、それが現実だからです。 では、作業中にマシンが突っ込んでくることが想定できているのであれば、腰の高いトラクターをコースに侵入させて作業をすると、そこにマシンが潜り込む大事故となる可能性は想定できなかったのか。。。 ここが悔やまれるポイントでしょう。
今回の事故が起きたダンロップコーナー付近は、ひどい雨が降るとアクアプレーニング現象が起こりやすい地点であることはサーキット関係者もFIAの役員もよくわかっていたはず。 つまり、黄旗が出ていても、時としてドライバーが予期せずコントロールを失ってしまい、同じようなクラッシュが続けて発生し得ることは、経験的にもわかっていたはずなのです。 今回の教訓を糧に、トラクターのような重機を使ってマシンを排除しなければならないケースは、必ずセーフティカーを入れてから作業を行うといったようなルール改正が必要なのではないでしょうか。
また、規則で定められていなくとも、今回の事例で言えば、スーティル選手がクラッシュした時点で総合的に判断し、セーフティカーを導入する判断ができなかったのでしょうか。 レース運営者は、どうすれば安全に作業ができたのか、また、今回の事故はどうすれば防げたのか、次の安全のために、今一度確認していただきたいと考えます。

<4>なぜ、スーティル選手とビアンキ選手だけがあの地点でクラッシュしたのか?

雨脚が強くなった直後、2台のマシンが同じようにコントロールを失い、クラッシュしました。 これはどうしてでしょう。
F1速報WEBのM記者によれば、今回の日本グランプリの時点で、上位陣のマシンと、下位のマシンとの間には、20%程度のダウンフォースの差があるというのです。 ダウンフォースとは、空気の力でマシンを路面に押し付ける力であり、この力が強いほどコーナーリングのスピードが上がると言われています。
逆に言えば、ダウンフォースが少なければ、コーナーリング時に4つのタイヤにかかる荷重が少なくなり、ダウンフォースがあるマシンと比べれば不安定になることが想定されます。 ここまでコンストラクターランキングが11チーム中9位のマルシアチームと、10位のザウバーチームは、チームの運営資金が上位チームと雲泥の差があり、マシンの開発が上位陣からかなりの遅れをとり、ダウンフォースの差は20%も付いているというのです。
こうしたチーム力の差、そして、苦しいマシンで、その能力以上を引き出そうとするF1ドライバーならではのテクニックと意欲。。。 今回のクラッシュは、こうした事情も事故原因の一つといえそうです。

<5>時間とともに雨脚が強くなることが天気予報からわかっていたにもかかわらず、レース開始を早めなかったのはなぜ?

当日は台風が接近しており、夜に近づくほど風雨が強くなるという天気予報でした。 したがって、レースをより安全に運営するためには、レース開始時間を早めることも選択肢の一つとしてあったはずです。
10月初旬。強い雨。 レース終盤の視界の確保に懸念が生じることは、鈴鹿に関わったことのあるF1運営者の多くが想像できたことでしょう。 しかし、実際は予定通りの午後3時からレースはスタートしました。 なぜでしょう。
噂として言われているのは、世界中に配信されるテレビ放送の問題で、時間をずらすことができなかったということです。 生放送を予定している局は、CMスポンサーの問題もあり、レース開始時間の前倒しはなかなか承諾しないでしょう。 また、未確認ではありますが、F1放映権を持つ関係者が午後3時スタートを頑なに主張したという情報も伝わっています。 いずれにしても、レースの安全性よりもテレビ放送やその収入が優先されたとすれば、それは憂慮される事態であると言わざるを得ません。