リッター32.4kmを達成した新型ワゴンRのSエネチャージの意外な効果は?

スズキは、これまでのエネチャージを進化させたSエネチャージを開発、ワゴンRに採用しました。

従来のエネチャージというのは、減速時の回生エネルギーを専用のリチウムイオン電池に蓄えて、電装品などの電力に使うというシステムです。現在、ほとんどのスズキの軽自動車に採用されているだけでなく、スイフトやソリオといった小型車にも採用されています。

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ハイブリッドとエネチャージの違いは、モーターを使って駆動力として伝えるかどうか、でした。エネチャージはそのシステムの中にモーターを持っていないので、ハイブリッドではなかったのです。
しかし、進化したSエネチャージはどうでしょう? ジェネレーターに代えてモーターを一体化したジェネレーター=ISGを採用しました。これによって、最大6秒間のパワーアシストが可能になりました。モーターの出力は1.6kWで、パワーの面でもそれほど大きくありませんが、ハイブリッドであることに間違いはありません。

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同じようなシステムを採用しているセレナは、Sハイブリッドと呼んでいます。モーターとしての出力は1.8kWで、パワーアシスト時間は最大で約4秒。セレナは発進時にアシストするのに対して、Sエネチャージは中間加速でアシストするので、少し考え方が違いますが、基本的な構造は同じです。もっといえば、ISGのサプライヤーは現在、世界に1社しかないので、日産もスズキも同じようなパーツを同じメーカーから購入しています。

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でも、スズキはうたい文句としてハイブリッドとは呼ばず、あくまでSエネチャージと呼ぶのです。ハイブリッドというだけで、無批判に買ってもらえそうなチャンスを潰してでも、スズキはSエネチャージと呼びたいということなのです。

 

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パワーアシストは、CVTのクラッチに使われているトルコンのロックアップクラッチがONになってから作動します。15km/h以上という説明を受けましたが、普通に発進していくと25km/hくらいでやっとパワーアシストに入ります。ドライバーが明らかに加速したいという状況、アクセル開度が8分の3から8分の5くらいの領域で、モーターがアシストしてくれるわけです。それ以上深くアクセルを踏み込むと、大幅にシフトダウンして加速させるので、モーターはあまり役に立たなくなります。

6秒というタイムリミットは、実は一度アクセルを戻して3秒すれば、再度アクセルを踏み込んでやれば、再度6秒のアシストタイムに入ります。バッテリーの容量ではなく、耐久性を重視した結果、この6秒が決まったようです。

正直なところ、そのパワーアシストが燃費やドライバビリティに大きく効果があるとは、
思えませんでした。Sエネチャージの大きなメリットは、じつは他のところにあったのです。

■静かなアイドルストップからの再始動。クルマの質感が高まった印象。

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アイドリングストップはかなり一般的になってきました。最新モデルで装備していないクルマを探す方がむしろ難しいくらいです。しかし、通常のセルモーターを使って再始動する場合、結構大きな音が響くことになります。金属的で、かなり高い音。エンジンの音よりもかなり大きな音なので、市街地に響きわたっていたのです。

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セルモーターというのは、冷えたエンジンを無理やりたたき起こす役割を与えられています。半固体のようなオイルを強引に押しのけてエンジンを回し、始動させる必要があるわけです。それで強力なモーターのパワーをギヤを介してフライホイールを回すことで、寒い朝でもエンジンは始動するのです。

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しかし、アイドリングストップ機構というのは、エンジンが温まった状態で初めて作動するのです。つまり、その再始動時には、それほど大きなモーターのパワーは必要ありません。もっと静かな、小さなモーターで十分なのです。

ワゴンRのSエネチャージは、通常のセルモーターとは別に、スターターモーターとジェネレーターを一体化したISGが採用されています。基本的には発電機ですが、エンジンを再始動させる時のスターターとして、さらにモーターアシストとして機能します。

このISGはベルトによってエンジンと結ばれていて、その作動音はとても小さくなっています。キュルキュルキュルキュルという、耳障りな音は発しないのです。

Sエネチャージの持つ最も大きな価値は、この再始動時の静かさでしょう。ブレーキをリリースしていくと、ISGが作動してエンジンの回転を500rpmまで高め、すんなりと始動してくれます。通常のセルモーターでは300rpmで、そこからエンジンは燃焼した力を使ってアイドリング回転まで加速する必要があります。わずか200rpmですが、その差は小さくないのです。

再始動には、斬新なアイディアも盛り込まれています。

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よくアイドリングストップしていて、不意にエンジンが再始動してしまうことがあります。ブレーキを踏んでいる右足が緩んでしまい、誤認識して再始動するわけです。Sエネチャージではブレーキを戻す勢いではなく、ブレーキが戻った位置にトリガーを設定しています。つまり一定以上、ブレーキペダルを戻さないと、再始動に移行しないのです。

また再始動してしまったとしても、わずか時速1kmの走行をしてやれば、アイドリングストップが可能になっています。わずか30cm前進させてやればOKなので、信号待ちだとしても不可能ではありません。

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減速時も含めてアイドリングストップが作動する領域は、大きく拡大しています。より幅広く、そして誤認識しないように、Sエネチャージは進化しているのです。

(岡村神弥)