HONDA NSR500(NV0A)がもてぎを走る!【快音】

去る6月22日、ツインリンクもてぎにて行われた「ホンダコレクションホール収蔵車両走行確認テスト」の模様をご報告します。

先の東日本大震災の影響で順延となっていた全日本ロードレース選手権の開幕戦ですが、来る7月最初の週末に、もてぎにて開催を迎えます。そこで、予選が行われる7月2日(土)には「ツインリンクもてぎ 元気と笑顔の復活デー!」と題したイベントが催され、その中で往年のレーシングマシンのデモ走行が行われることになったのです。そのための事前チェックを目的に、今回の「走行確認テスト」は行われたのでした。

テスト当日は強烈な日差しが照りつけ続けて、気温も35度以上に。6月とは思えない、というか、8耐を思い出させてくれるひよりになりました。そして午前9時から走行テストがスタート。3台のF1と5台のレーシングバイク、合わせて8台のマシンの走行が次々に行われました。

その内訳は以下のとおりです。

1)1990年 RS125R(NF4)
市販状態=完全ノーマルで、なんと新車。コレクションホールの倉庫に眠り続けてきた車両で、エンジンに火を入れたのも今回が初めてだったとのこと。

2)2004年 RS125R(NX4)
偉大なるGP125市販レーサーの最終進化型。車両生産は2009年まで行われた。

3)1967年 RC181
マイク・ヘイルウッドのライディングより、1966年に最高峰500ccクラスのタイトルをホンダに初めてもたらしたマシンを、明くる1967年シーズン用にアップデートさせたバージョン。ちなみにエンジンは空冷並列4気筒DOHC16バルブ、499.7ccで、最高出力は当時としてはケタ違いにハイパワーの85psを絞り出した。

4)2000年 VTR1000SPW
ジョイ・ダンロップが2000年マン島TTのメインレース、フォーミュラワンTTを制したマシンのレプリカ。この年のマン島でのダンロップは、ウルトラライトウェイト(RS125R)とライトウェイト250TT(RS250R)でも優勝していて通算3度目のハットトリックを達成。しかし、それから約1カ月後、エストニアでのレース中に事故死を遂げた。

5)1984年 NSR500(NV0A)
独創のアップサイド・ダウン・レイアウトを採用した、現存する唯一の初代NSR500。

6)1965年 RA272
ホンダが1.5?時代のF1に討って出ていった2年目のマシン。空冷V型12気筒DOHC48バルブ、1495.28cc、最高出力230PS/13,000rpm。1.5?でも12気筒だから、単室容積は125ccとバイクなみ。リッチー・ギンサーのドライブで、メキシコGPにてホンダ初優勝を飾った。今回走行したのは、チームメイトのロニー・バックナムが駆った車両。

7)1967年 RA300
3?時代2年目のマシンで、最高出力440PS/12,000rpmを発生する2993.17ccの空冷V型12気筒DOHC48バルブを、ローラ製シャシーに搭載。イタリアGPで伝説的な接戦&僅差のレースをジョン・サーティースが制して、ホンダにF1通算2勝目をもたらした。

8)1991年 マクラーレンMP4/6・ホンダRA121E
水冷V型12気筒DOHC48バルブ、3497cc、最高出力735PS以上/13,500rpm。第二期ホンダF1の立役者アイルトン・セナが最後のタイトルを獲得した、ホンダ最後の12気筒F1エンジン搭載車。このホンダコレクションホール収蔵車両は、日本GPでゲルハルト・ベルガーが駆り、最後にセナにトップを譲られる形で優勝したときのマシン。

コレクションホール収蔵車両の走行確認テストがメディアの取材を受け付ける形で行われたのは久しぶりのことだったのですが、今回僕が出向いたのは、『RACERS』Vol.8で全バラまでやらせてもらった”あのマシン”が走行するところをこの目で見ておきたかったからでした。もっと言えば、’84年、世界グランプリの現場でフレディ・スペンサーのNV0Aを実際に触っていたメカニックである岩田邦宜さんから聞かされていた「Vアングルが112度になったNV0D以降とはもちろん違うし、同じ90度VのNV0BやNV0Cとも違う、NV0Aだけのきれいな音」を、ぜひこの耳で聞いておきたかったのです。

さて、お目当てのNV0Aですが、まずはリアタイヤを回すスターターでエンジンに火を入れてウォームアップ。その段階では、’80年代前半の市販2ストバイクを思い起こさせる、爆ぜるような軽めの音をたてていました。
3分かけてエンジンを暖め、水温を上げたところから、おもむろにブリッピングを開始。そこで聞こえてくる音は、位相同爆のNSR500とはもちろん違うし、それ以前の等間隔爆発のものともやっぱり違う。ドスがあんまり効いてなくて、フォンフォンと吠えるような感じに聞こえました。

そして宮城 光さんがまたがり、スタート。エンジンは特に不具合なく、順調に回っています。その音は、予想以上に高周波。そして、実にきれいな音でした。「これが岩田さんの言っていた音か」と、ついに実感を持って理解することができました。

宮城さんによれば、「エンジンの回り方がちょっと重たい」ということで、キャブレターのジェッティングが少し濃かったようですが、なにせ現存する唯一のNV0A。多少のことは仕方ないでしょう。
それでも、コーナーの立ち上がりでパワーバンドに入ってくれば、フッとフロントが自然に浮いてくるほどの走りっぷり。若き日のスペンサーが全開にして走らせ、それから四半世紀が経ったところで『RACERS』の取材のために全バラにしてもらったマシンが、快音を響かせて走り回る様子を目の当たりにでき、涙がちょちょぎれそうでした。

このNV0Aを含め、今回走行した5台のレーシングバイクの面倒を見られていたのは、岩田さん、橋本省二さん、亀田勝太さんと、みなさん『RACERS』Vol.8でお世話になった方々。「私はどっちかと言うと、こっちの方が好きなんですけどね」と、RC181を押しながら橋本さんが言えば、「僕は’97年まで全日本GP125にライダーとして出ていて、NF4、NX4と乗り継いだので、こうしてRS125Rを触っていても自然に手が動く感じですね」と亀田さん。みんな、三度のメシよりモータースポーツを選んじゃう「好き者たち」なのでした。
それから、大したもんだな?と改めて思わせてくれたのが、この日走行した8台をすべて走らせた宮城さん。NV0AからRA300に乗り換えて……という具合に、F1だろうがGP500だろうがきっちり走らせてしまえるのは本当に素晴らしい。F1なんて、この日用意された3台は全部違うシフトパターンですからね。宮城さん自身は、「ホンダの歴史に残る財産を、こうして乗り尽くすことができるんだから、僕は世界一の幸せ者ですよ」とおっしゃるのでした。

今回「走行確認テスト」が行われた車両のうち、1.5?F1のRA272を除く7台は、冒頭で記したとおり、全日本ロードレース選手権の開幕戦が行われる7月2日(土)に、「ツインリンクもてぎ 元気と笑顔の復活デー!」のイベントの一環としてデモ走行します。2輪は”タディ”岡田忠之さんと”ノビー”上田 昇さんが担当で、宮城さんはこの日はライダーじゃなくてドライバーとして登場し、4輪の2台のF1を走らせる予定です。7月最初の週末はぜひツインリンクもてぎに足を運んで、日本が誇るモータースポーツの歴史に触れていただければ、と思います。

「Racers」 http://www.sun-a.com/magazine/detail.php?pid=5019

「Racers」ブログ http://racers.cocolog-nifty.com/blog/

(イマイ)