石油を一切使わないタイヤ、ダンロップから2013年に発売へ!

かねてからダンロップタイヤを扱う住友ゴム工業では、タイヤの原料から石油をなるべく使わない方向で研究開発を進めてきましたが、いよいよ来年2013年、それが実際に発売されそうです。

2008年にはその素材の97%を石油外由来の成分からなる「エナセーブ97」を発売しています。

一般的なタイヤの成分のうち、石油由来が締める割合はおよそ54%であり、このうち51%を石油外にすることでも大変なことです。

しかし、ダンロップとしては、すべての成分を石油外由来の成分とするため、研究を重ね、昨年2011年のモーターショーでそのプロトタイプを発表、ついに2013年に発売する目処が立ったというわけです。

タイヤの主な部分は炭化水素でできています。石油は太古から動物が炭化水素となって地下深く眠っているもので、採掘を続けるといつかは枯渇します。石油以外に原料とする成分は、天然ゴムを含む植物などを主としたバイオマス成分です。

この植物を主体とする炭化水素を改質して、タイヤの素材に適したものとするのがダンロップの技術です。

最終的に消却処分されるとしても、石油由来ではガソリンなどと同じく化石燃料としてのCO2を発生し石油枯渇まで増え続けますが、植物由来ならば今この周りにあるCO2と同じくまた一度タイヤの中に封じ込めて再生可能というわけです。

それでも、2008年時点では、あと3%の部分が石油由来でした。その中身は老化防止材、加硫促進剤、カーボンブラックが残っていたのです。

老化防止材、加硫促進剤は芳香族の化合物です。もともと炭化水素を多く含む石油から生成するのは比較的容易です。今回、バイオマス成分からある鉱物の反応促進剤を利用して芳香族を作り出す実用的な方法が確立しました。

また、紫外線による劣化、クラックなどを防ぐカーボンブラックは、要するに炭素ですから石炭成分の不完全燃焼で簡単に作れます。植物原料ではすぐに燃えてしまい、炭素分が残らなかったわけですが、これを材料や燃焼方法を吟味することで炭素を取り出すことが実用できることになりました。

この残り3%の素材を製造するプラントを立ち上げ、生産できるのが2012年、その素材を使って実際に100%石油外成分のタイヤを大量生産できるのが2013年というわけです。

わずか3%とも言えますが、これも石油に頼らない素材で作るということは、石油化学産業であるタイヤ業界にとって、とても大きな3%なのです。

 

また、ダンロップでは、4D NANO DESIGNと呼ぶ、新材料開発技術を持ってタイヤの素材研究開発を行っています。

SPring-8や地球シミュレータなどをそのために使っています。

SPring-8は、放射光(電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波)を使って、様々な物質の原子、分子レベルの構造を調べることができるもので、地球シミュレータ(スーパーコンピュータ)によって計算され、開発中の材料の分子的な構造を調べることができます。

こうして、ナノ(0.000 000 001m)のレベルまで可視化しながら、それを3次元の構造に時間軸を加えて4次元で材料研究を進めているのが4D NANO DESIGNというわけです。

これらの技術があったお陰で、低燃費タイヤながらウェットグリップを確保したり、画期的なスタッドレスタイヤの素材などが開発され、市販に結びついているのです。

さらにこの先は、スーパーコンピュータ“京”を用い、更なる複雑なシミュレーションや予測が可能となっていくとのことです。

黒くて丸いタイヤ、どれも似たように見えますが、その中に織り込まれた研究、開発、生産など、様々な技術は各メーカーによって千差万別です。そう思ってタイヤを見てみると、どれもがただの黒くて丸いだけじゃないように、なんとなく見えてきませんか?

(小林和久)

 

 

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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