80~90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第21回は、かつてのブランド名を引っ提げ、合理性や機能性とは異なる存在感で勝負した高級イタリアン・コンパクトに太鼓判です。
■ライバルよりも小さく、上質に
70年代半ばにアウトビアンキを自社の一部門としたランチアは、ヒットしたA112の後継車として超コンパクトで快活なクルマを望む声に対し、新たなシティカーを計画。1985年に登場した「小さな高級車」がY10です。
企画段階で行われた市場調査により後席使用頻度の低さに着眼、コンパクトカー市場でヒットする親会社のフィアット・ウーノよりも小さくしつつ、十分な室内空間を想定。ルーフを後方まで伸ばした個性的なプロポーションを生み出しました。
ウエッジのきいた高めのベルトラインと、比較的低い位置に引かれたキャラクターラインは幅の広い豊かなショルダー面を創出。ラインのないスッキリとしたボンネットフードに加え、プレスドアを用いることでボディ全体が極めてシンプルな面構成に。
フロントは格子状のグリルがエレガントな顔を作る一方、スッパリ切り落とされたリアはシンプル&モダン。低めの縦型ランプはA112を彷彿させ、同時に広いリアパネルに落ち着きと座りのよさを感じさせます。
素材色のバンパーに安物感はなく、ホイールアーチと一体化することでボディの要素を減らす効果を見せます。とくにリアはフェンダーの張り出しが目立たず、サーフェス化されたボディの面一感が一層強調されます。
■これ見よがしでない高級感
インテリアでは、インパネの形状自体はコンパクトカーらしい機能的なものですが、ダッッシュボードの下段からドア内側にかけてアルカンターラが贅沢に張られ、上質な雰囲気を醸成。一部のグレードではシートにも同素材が使われました。
Y10のデザイン開発に当たっては、ピニンファリーナやイタルデザインといった有名工房も参加しましたが、最終的にはフィアットのデザインスタジオ案が採用されました。
ウーノやプジョー205など同時期のヒット作に対し、さらにコンパクトなパッケージ自体も贅沢ですが、必要以上に飾り立てるのではなく、独自のプロポーションや美しい面構成により「小さな高級車」を目指したところが、成熟したメーカーたる所以と言えるでしょう。
●主要諸元 アウトビアンキ Y10ターボ (5MT)
全長3392mm×全幅1507mm×全高1420mm
車両重量 860kg
ホイールベース 2159mm
エンジン 1049cc 直列4気筒OHVターボ
出力 84ps/5750rpm 12.5kg-m/2750rpm
(すぎもと たかよし)