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クルマに課せられた点検義務は、フロントガラスのステッカーでもわかる通り、12ヵ月点検(法定点検)と24ヵ月点検(車検)です。しかし、自動車ディーラーからは、6ヵ月点検と18ヵ月点検のお知らせが届きます。この6ヵ月刻みの点検は一体何の意味があるのか、元自動車ディーラー営業マンが、解説していきます。
■6ヵ月点検とは何をしているのか
「トヨタ・プロケア10」、「日産・安心6ヵ月点検」、「ホンダ・安心快適点検」のように、各メーカーで名称の違う6ヵ月点検は自動車ディーラーが推奨している点検です。法律で定められたものではなく、点検を受けなければならない義務はありません。
点検の内容としては、トヨタ・プロケア10を例にとると、10ヵ所に分かれています。プロが見る10ヵ所の点検で「プロケア10」と呼んでいます。具体的には、ブレーキの踏みしろ点検、オイル液類の点検、室内点検(シートベルト、ウォーニングランプ)、バッテリー点検、ワイパー点検、ベルト類点検、ライト類点検、タイヤ点検、エンジン点検(かかり具合、異音)、下回り点検の10項目です。メンテナンスパック加入者には、このタイミングでオイル交換が行われます。
基本的には分解整備の必要のない、目視による点検作業となり、所要時間は30分程度です。
●交換部品がほとんどない点検
6ヵ月点検で交換する部品は、エンジンオイルのみというメーカーがほとんどです。12ヵ月点検では、エンジンオイル、オイルフィルター、エアコンフィルター、ワイパーゴムなどの消耗部品が交換されますが、これは消耗部品の推奨交換時期が1年のものが多いためです。実際には、クルマの使い方によって部品の傷みは変わってきますので、必ずしも1年で交換しなければならないわけではありません。エンジンオイルに関しても、よほどの長期間にならない限りは走行距離で管理するのが常であり、期間で区切る必要性は感じられません。
では、この点検は何のためにあるのかというと、クルマを「動き続けて当たり前」と考えるユーザーに向けた保険的性格の強いものです。クルマのことを常に気にして調子を細かく感じ取ることのできるユーザーには、あまり必要がない制度とも言えます。
前回、オイルはいつ換えたかわからない、タイヤの空気圧なんて気にしたことがない、でも日本のクルマなんだから乗りたいときにいつでも元気に動くでしょ? と思ってクルマを使用しているユーザーは多くいます。そんなユーザーのために、絶対大丈夫! と確信が持てる時期に、エンジンオイルを交換し、致命的なクルマの損傷などを確認するための点検、それが6ヵ月点検です。
●ディーラー側にも大きなメリットが
半年に1回、お客様との接点が必ず作れる6ヵ月点検は、ディーラー側にも良いことがたくさんあります。
点検入庫の回数が増えることでクルマの細かな不調に気づき、部品交換を進めることができ、サービス売り上げの向上になったり半年ごとに接点を作っておくことで、囲い込みにもつながります。
中でも、最もディーラーが重要視するメリットは、「車両販売につながる活動ができる」という点です。6ヵ月点検は整備士側の目線ではなく、営業サイドの目線にある点検と言っても良いでしょう。
特に車検6ヵ月前の、18ヵ月(もしくは30ヵ月)点検は、最もクルマの買い替えが起こるチャンスの時期でもあり、この時期に必ず点検スケジュールが組まれているため、営業マンは自分から電話をかけて商談のアプローチを行わなくても、代替を促進したいお客様は自動的に点検に訪れます。その点検タイミングに合わせて自分のスケジュールを管理しておき、点検の待ち時間である30分の間に、購入意思の確認を行ったり購入意欲の焚き付けを行うようにすればいいのです。
実際にディーラーでの営業経験からも、車検を機にクルマの買い替え検討を行う人は多く、車検時期にあくせくしなくて済む6ヵ月前に営業アプローチをすることで、販売台数も伸びていました。ディーラーサイドが決めた6ヵ月点検の裏側には、営業活動中心の思惑が大きく含まれているのです。
●まとめ
訪問販売が少なくなり、お客様に来店してもらうことが増えたディーラーの営業活動の中で、6ヵ月点検を上手く利用することが営業活動の基本軸とも言えます。クルマの調子を確認しに行く6ヵ月点検ですが、同時に営業マンと自分(オーナー)の人間関係を確認しに行く機会にしてもいいでしょう。クルマのため、今後のカーライフを充実したものにするために、ユーザー側も6ヵ月点検を活用することが重要になってくるはずです。
(文:佐々木 亘)