【自動車用語辞典:燃料噴射系「副室式ディーゼル」】主燃焼室の他にもうひとつの燃焼室を持つディーゼルエンジン

■1990年代までは主流だった燃焼室形状

●燃費と信頼性に欠け現在は途上国向けに

現在ディーゼルエンジンは、コモンレール噴射の直噴エンジンが主流ですが、1990年以前には副室ディーゼルエンジンが主流でした。

現在、主燃焼室の他に副燃焼室設けた副室エンジンの採用例はほとんどありませんが、副室ディーゼルエンジンとその噴射システムについて、解説していきます。

●副室ディーゼルエンジンとは

現在主流の直噴(DI:Direct Injection)エンジンは、高圧で多段噴射もできるコモンレール噴射を組み合わせて、燃費と排出ガスを低減して高出力も実現しています。

主燃焼室の他に副燃焼室(副室)設けた副室(IDI:Indirect Injection)エンジンは、直噴エンジンが開発される以前の旧世代のディーゼルエンジンです。副室エンジンでは、副室内に燃料を噴射して着火させて、副室の燃焼ガスが絞り(主室と副室の連通管)を通じて主室内に噴出して燃焼が完了します。

●副室ディーゼルエンジンの構成

副室エンジンには、副室の燃焼形態の違いで2種類あります。

・渦流室式
主燃焼室の上部に球型またはまゆ型の副燃焼室(主燃焼室容積の60~80%)を設けて、吸入空気は圧縮行程中に渦流室に押し込まれ、強い渦流を発生します。上死点前に噴射した燃料は、ほとんどすべて渦流室内で燃焼して、主室側に噴出してピストンを押し下げます。

・予燃焼室式
予燃焼室の容積は主燃焼室容積の30~40%程度で、予燃焼室で噴射した燃料の一部を燃焼させます。着火後に燃焼ガスと燃料の混合気が噴流となって、主室へ噴出して燃焼が完了します。予燃焼室は、着火装置のような役目を果たします。

予燃焼室の方が比較的穏やかな燃焼になりますが、高回転化には向かないなど一長一短があります。通常は、高回転型の渦流式が商用車と乗用車に採用されていました。

ディーゼルエンジンの燃焼室の違い
ディーゼルエンジンの燃焼室の違い

●副室ディーゼルエンジンのメリットと致命的な問題

1990年以前は、直噴エンジンに対応できる微粒化と分散性に優れた高圧噴射弁がまだ開発されておらず、副室エンジンが主流でした。また日本では、当時もディーゼル車の数は限られており、一部の商用車に搭載されていましたが、乗用車ディーゼルはほとんどありませんでした。

限られた副室内で燃料を噴射するので、低圧の噴射弁でも確実に着火できます。現行のコモンレール噴射では200MPaを超える噴射圧仕様もありますが、副室の噴射圧は最高で40MPa程度です。また副室内は空気量が少なく燃焼圧と燃焼温度が低いため、ディーゼルノックが発生しづらく、NOx生成量が少ないという特徴がありました。

しかし高温の燃焼ガスが絞り部を往来する、また燃焼室表面積が大きいため、絞り損失と熱損失が大きいという弱点がありました。結果として、直噴エンジンに対して5~10%程度燃費が悪化します。また、シリンダーヘッド内に副室を設けるために、耐久信頼性を確保するのが難しく、高回転化には限界がありました。

燃焼音が小さくNOx排出量が少ないというメリットはあるものの、燃費が直噴エンジンに比べて劣ること、さらに4弁エンジンでは副室を設けるスペースが確保できないことが致命的でした。2000年頃には、一部の新興国向け以外は市場から姿を消しました。


直噴ディーゼルエンジンが出現した2000年頃は、まだ完成度が低くディーゼルノックによる騒音が大きく、排出ガス性能も満足できるレベルではありませんでした。高出力用エンジンには直噴エンジン、低出力用エンジンには副室エンジンと棲み分けしていた時期もありました。

その後10年も経たないうちに、コモンレール噴射システムと直噴エンジンが急速に進化したため、副室ディーゼルエンジンは世界市場から消え去りました。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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