世界最高峰の耐久レースWEC、1台走らせるのにいくらかかるか、アルピーヌに聞いてみた【2023年WEC第6戦富士】

■レースってお金がかかるんでしょ? では、なににかかってるんでしょう

●アルピーヌは2023年LMP2クラスを2台6名のドライバーで走らせています

オレカ・07をベースとしたALPINE ELF TEAM35号車
オレカ・07をベースとしたALPINE ELF TEAM35号車

レースというと、お金がかかるイメージがありますよね。個人的な趣味で楽しむレースでも、自動車メーカー同士がしのぎを削るワークスマシンの戦うチャンピオンシップでも、桁の違いは大きくあってもそれぞれに出費を覚悟しなければならない、という印象です。

ル・マン24時間レースもシリーズ戦に含まれているもっとも有名な自動車の耐久レースであるWEC(世界耐久選手権)では、どれほどの金額をかけてマシンを走らせているのでしょうか?

今回、2023WEC第6戦、富士スピードウェイで決勝6時間の耐久レースに参戦中のALPINE ELF TEAM(アルピーヌ エルフ チーム:以下アルピーヌ)でお話をお聞きすることができました。

アルピーヌは2023年WECで、最高峰のハイパーカーより、ひとクラス下のLMP2というクラスで参戦中です。車両重量920kg、最高出力はLMP2では500psに制限されていて、V型8気筒の最後の自然吸気エンジンで戦っています。

2台でエントリーしており、35号車のドライバーがアンドレ・ネグラオ(ブラジル)、メモ・ロハス(メキシコ)、オリバー・コルドウェル(イギリス)、36号車が、マシュー・バキシビエール(フランス)、ジュリアン・キャナル(フランス)、シャルル・ミレッシ(フランス)という布陣です。

●ガソリン満タン65リッターを40分で消費します

左がドライ用、右がウェット用のタイヤ。グッドイヤー製です
左がドライ用、右がウェット用のタイヤ。グッドイヤー製です

さて、全体の話の前に、消耗品などはどれくらい使っているんでしょうか。

アルピーヌLMP2マシンの燃料タンク容量は65リッター。満タンでおよそ40分くらい走ることができるとのこと。ですので基本的には、給油を行うピットイン2回につき一度はタイヤ交換とドライバー交代をするようなサイクルでレース展開するそうです。

ちなみに使用燃料は一般的な石油から作るガソリンとは違い、植物由来の成分を多く含有したバイオ燃料を公式燃料として使っています。

このバイオ燃料は、ワイン用のぶどうの搾りかすから作られるバイオエタノールを主成分としたものだそうで、鉱物系に対して、温室効果ガスの排出量が65%以上も少なくなっているといいます。しかし、もちろんこれも、普通のガソリンよりはいまのところ相当に高価だと言われています。

レース規則による使用タイヤ制限は、6時間レースの場合で練習走行で12本、予選と決勝で18本のタイヤが使用できると決められています。これはドライ用タイヤにたいするものでウェット用は使用制限がありません。使用制限は、コストを下げるのと、環境負荷への低減のためと言います。

そして、アルピーヌでは、それらに関わるメカニックが8人、エンジニアが4人で運営しているとのこと。

カーボンのブレーキローターはその重さたったの2kg!
カーボンのブレーキローターはその重さたったの2kg!

レーシングマシンは、使用するパーツの多くがカーボン製という高価な素材であることが知られています。車体やボディはもちろん、ブレーキディスクもカーボン製です。カーボンブレーキディスクはその重さがたったの2kgなんだそうです。

スペアのフロントカウル。お値段1500万円也!
スペアのフロントカウル。お値段1500万円也!

ちなみに、そのフロントカウル単品で、およそ1500万円と言います。それだけでスーパーカーが1台買えてしまいますね。

さて、そのように高価な部品で多くの人員によって走らせているアルピーヌのLMP2クラスマシンですが、その1台を走らせるのに必要な金額は、ワンシーズンでなんと4億円! やっぱり高いな、と感じたでしょうか。

●ハイパーカーではなんと1台あたり30億円!

しかし驚くなかれ、アルピーヌは来年度の2024WECから、最高峰の「ハイパーカー」クラスへチャレンジすることを公式に発表しています。

その場合は、メカニックが10人、エンジニアは8人が必要となるのだそう。LMP2ではピュア燃料エンジン車ですが、ハイパーカーではハイブリッドとなります。そのためのハイブリッド技術に対してエンジニアが倍必要なのだそうです。

ハイパーカークラスのTOYOTA GAZOO RACINGの8号車
ハイパーカークラスのTOYOTA GAZOO RACINGの8号車

そして、ハイパーカーをワンシーズン走らせるには、1台あたりでなんとなんと2000万ユーロ、約30億円くらいかかっちゃうんだそうです。

庶民には4億円も30億円も高いな〜という気がしますが、ひとクラス上、というだけでそんなに差があるとは思いませんでした。なにごとも、極めようとすると、倍以上のものが必要となるわけですね。しかしこれは、コストだけではなく、テクニックやメンタルの面などでも、倍では達成し得ない大きな開きがあるのだろうな、ということが想像できます。

そう考えると、世界一の舞台で戦っているのが、ジャンルを問わずすべて尊いものに思えてきませんか?

(文・写真:小林 和久)

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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