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■明快なテーマで常に変化を続けるN-BOXのデザイン
2023年8月3日、今年秋に発売予定の新型N-BOXに関する特設サイトが公開されて話題になっています。その多くの声に共通しているのは「デザインは変わってない」というものですが、いやいやとんでもありません。
そこで、今回は初代から新型までのエクステリアデザインの変化をチェックしてみたいと思います。
●しっかり使える道具感と高い機能性を示した初代
2011年に発売された初代は、当時、軽自動車市場で苦戦を強いられていたホンダが、「日本のスタンダードを作る」ことを標榜した「Nシリーズ」の第1弾として登場しました。
それはかつての「MM思想」をいま一度見直し、センタータンクレイアウトを中心に、エンジン、シャシーを刷新するほどの力作だったのです。
Nは「Norimono(のりもの)」のN。単なる機械ではなく「人が乗るためのもの」というコンセプトに沿い、Nシリーズのデザインは環境を威圧しないシンプルさで統一されました。
その上で、「私の利便性」というキーワードが示すとおり、初代N-BOXのエクステリアは極めて機能的な表現になっています。
たとえば、前後のホイールアーチには明快な円弧のラインが引かれ、これはフロントバンパーから連続しています。これによって強固な「土台」が築かれ、その上にキャビンが載る機能的な構成です。サイド面に余計なラインは引かれず、硬い表情の面が道具感を打ち出しました。
フロントも、左右フェンダーからの流れを素直にまとめた機能的表現で、グリル類も最低限の表情に抑えられています。カワイイ系でもなく、かといってオラオラ系でもない、その絶妙な「使える車」感が初代の特徴であり、ヒットの理由でもあったのです。
●2代目は生活を豊かにする上質な乗用車らしさを
想定を越えた大ヒット作の2代目をどうするのか? Nシリーズのブランディングを手掛ける、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏と開発陣が打ち出したコンセプトは、「家族の幸せ」でした。使う人のライフスタイルを見据え、生活を豊かにするグッズ類も展開しています。
そこで提示されたデザインのキーワードは「洗練と上質」。初代のシンプルな道具感に対し、より乗用車らしさを表現するという発想で、具体的には「硬い面」から「柔らかな面」への変化です。
明快なラインで囲まれていたホイールアーチは、境界線を減らした優しい抑揚ある面となり、上級車のような質感を獲得。また、ドアハンドルの高さには強いキャラクターラインを新設、ボディ上下を分割することで過剰な高さ感を抑え、伸びやかな乗用車らしさを強めたのです。
制約の強い軽自動車規格の中で、これだけ豊かな面表情を実現したことは、もっと評価されるべきかもしれません。
●生活にリズムを作る仲間としての車とは?
2代続けてのヒットに対し、新型の開発陣が提示した商品コンセプトは「ハッピー・リズム・ボックス」。ずっと大切、もっと楽しくを目指して価値を磨き、幸せな生活リズムをつかむという、まさに今の時代にフィットさせた発想です。
個人的には「ボックス」という表現に、かつての「クリイティブ・ムーバーシリーズ」や、ビートのキャッチコピーである「ミドシップ・アミューズメント」などと同じ空気を感じます。新型は「街になじみ、調和する」デザインを目指しましたが、自動車というより仲間というイメージです。
そこで、新型は過剰な主張がなく、ボディをシンプルなカタマリ感で見せる造形としました。ボディは先代の抑揚を減らして平滑な面としましたが、初代のような道具的な表情ではなく、もっと繊細な、あたかも陶器のような質感に。
キャラクターラインも針で掘ったかのような微細な表情とし、リアピラーにつなげることでノイズを減らしています。
また、円形の表情を加えたブラックのランプや、ドット模様のグリルなど、グラフィック的なアプローチも新提案で、ひとつのカタマリとして分割線を極力抑えたボディによくマッチしています。このあたりは現行のステップワゴンにも通じる、最新のホンダデザインと言えるでしょう。
ヒット作が「ほぼ変えない」モデルチェンジで失敗する例は数え切れませんが、その理由は「単に変えない」ことを目指すためかもしれません。それに対し、N-BOXの成功は、そもそも「Nシリーズ」自体のコンセプトがしっかりしていることに加え、各世代が提示するテーマも明快だからです。
「デザインは変わっていない!」という声は、各世代のデザイナーがN-BOXらしさを堅持しているためで、飽きられずにヒットを継続するのは的確な「変化」が施されているからだと言えます。