■日産最後の純エンジン搭載4ドアGT
スカイラインNISMOはGT-R、フェアレディZと並び、日産にとって最後となるハイパワーの純エンジン搭載車になると思う。4ドアGTという意味だと100%間違いなく最後のモデルです。
テストコースという条件ながら試乗してみたけれど「素晴らしい!」。考えてみたら日産は「901運動」でFRの世界一を狙い(目標はポルシェ928でした)、R32スカイラインで極めている。
その時のテストドライバーがまだ在籍しており、スカイラインNISMOも仕上げている。ハイパワーFRの難しさって、安定性と楽しさの両立を狙うことに尽きると考える。安定性だけ狙えばアンダーステア傾向に仕立て、タイヤが滑った直後に横滑り防止装置でパワー絞ればいい。ただそれだと「何のためのハイパワーFRなのよ!」面白くもなんともないクルマになってしまう。
901運動の面白さは、楽しさと安定性を高い次元で狙うところにあった。しかも当時は、横滑り防止装置なんて世の中に無し! したがって、クルマの素性の良さで安定性を追求しなければならなかったワケです。まぁ当時のR32スカイライン、最高出力215馬力の2リッターターボで、205/55R16というタイヤ性能だって今より低い。アクセル開けて流れ出す速度域は低かった。
スカイラインNISMOときたら3リッターツインターボの420馬力! リアタイヤなんか265/35R19もある! 滑り出す速度域は圧倒的に高く、しかも滑り出した時のパワーときたら圧倒的。難易度からすれば4.5リッターV8を搭載していたポルシェ928どころじゃない。足回りだけでなく、エンジンのパワー特性(ドッカンパワーだと怖い)も極めて重要になってくる。
●さすがFR世界一を目指した日産
そんなこと考えつつスカイラインNISMOに試乗してみたら、限られた速度域という条件ながら「やっぱり上手ですワな!」強いて言えば、ダンパーの動きが少しばかり渋くて上質感という点で物足りないくらい。ハンドリングやパワーの出し方など文句なし! さすがFR世界一を目指した日産だけありますね、と感じた。1000台限定ということながら、買えた人は満足度高いだろう。
一方、クリッカーで試乗レポートを書いた工藤貴宏君によれば、スカイラインNISMOは100オクタンのハイオクでエンジンをセットアップしたという。御存知の通り、ハイパワーエンジンってオクタン価でパワーやトルク特性が変わってきてしまう。私が以前乗っていたEJ20ターボエンジンを搭載するインプレッサWRX(GDB)のグループN車両は、ノーマルエンジンのままECUだけ交換する。
ECUは競技でよく使われるモーテックという銘柄。日本のハイオクガソリン(2010年当時は99オクタンくらいあった)でセッティングしてタイへ持って行き、現地の96オクタンを入れたらヘロヘロ。フルブーストになるあたりでノッキングするし、アクセルレスポンスも明確に悪化した。同じく100オクタンのFIA燃料指定の86R3にハイオク入れたら、低速トルク無くなった。
100オクタンでセットアップしたエンジンに、JIS規格でハイオクとされる96オクタンを入れたら、おそらくエンジンパワーは明確に落ちるし、トルク特性だって変わってくる。そんなことから、誰でもいつでもスカイラインNISMOの素晴らしさを味わえるようにするなら、”市販で最も条件の悪いハイオク”でセットアップして欲しかったと思う。
こう書くと「日本のハイオクは100オクタン」でしょ、みたいな人も出てくると思う。悲しいかな、今や日本のスタンドで売っているハイオクのオクタン価は不明。複数の自動車メーカーのエンジン開発担当者に聞くと「ハイオクの規定ギリギリというケースはけっこうあります」。石油精製所から出てくる段階で98~99.5オクタンあるらしいが、流通段階でオクタン価下がってしまう? 日本のハイオク、スタンドでのオクタン価を公表してない。
スカイラインNISMOに96オクタンのハイオクを入れたらどうなるのだろう? 広報車には一般的に流通していないと思われる100オクタンのハイオクが入っているのだろうか? ぜひともスタンドで販売されているハイオクを入れてスカイラインNISMOに試乗してみたい。そもそもスタンドで限りなく100オクタンに近いハイオクを売って欲しいと強く強く思う。
(文:国沢 光宏/写真:井上 誠)