ハイゼットカーゴと同じライトバンなのにダイハツ新型「アトレー」の走りは乗用車並み【新車リアル試乗6-2 ダイハツアトレー 走り編】

■カテゴリーは商用車でも、その実力は乗用車

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新型アトレーの実力はいかに?

リアル試乗・アトレーの第2回目。

今回は新型アトレーの走りのお話で、いつもと同じコースをたどってきました。

しょせんはハイゼットカーゴと同じライトバンにすぎないアトレーですが、やはりいまどきのクルマ、乗用車と遜色ない実力を見せてくれました。

●走り

一部例外を除き、一般にこの種のボディ型のクルマはエンジンが前席下にあるため、通常のクルマよりもエンジン音が大きく、ボディがドンガラであることの反響音もあって、室内騒音は高いのが通例です。

このアトレーで最初にエンジンを始動して「おっ」と思ったのは、その気構えからするとエンジンの音が通常のクルマ並みでしかないということでした。

もちろん、エンジンが自分の真下にあるので、上級車並みに静かというわけにはいきませんが、先々回に取り上げたワゴンRスマイルが、バルクヘッド向こうにエンジンが載るクルマの割に透過音が多かったのに対し、こちらアトレーは、エンジンが前席下にあると思えば静かといった感じ。キャビンの目に見える部分のほとんどがトリム材で覆われていることにも助けられているでしょう。耳に障らない音質なのも静かさを抱かせる一因となっているようです。

これがトリムを取っ払ってでも荷室を拡げたいハイゼットカーゴになるとサイドトリムが簡素になって各部鉄まる出しになり、ましてや低廉寄りの機種では成型天井ではなくなるため、反響音は増えてトータルでの騒音は高くなるはずです。

鉄丸出しのカーゴではない、室内側ホイールハウスをもトリムで覆っているアトレーなのに唯一惜しいと思ったのは、夜間、休止中の工事現場を走ると、タイヤが蹴った砂利がホイールハウス内で踊りまわるカツカツ音がダイレクトに聞こえたことでした。ここに吸音材を1枚サービスするだけでカツカツは消えると思います…旧ジムニーシエラの後輪トリム裏に施したデッドニングで吸音材を貼り付けた筆者の経験より。

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145/80R12タイヤ。ライトトラック(LT)用なのに、指定圧は高めなのに乗り心地はよかった
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運転席ドアを開けたセンターピラー部に貼られている、タイヤ指定圧を記したコーションプレート

街乗りや高速路では、なかなか重厚な走り味を見せました。145/80R12タイヤの指定圧は、前輪2.8kg/cm2、後輪3.5kg/cm2とかなり高めで、これはスズキエブリイワゴン/バンも同じですが、特に、空荷でより乗り味が硬くなると覚悟していた後輪も含め、しなやかに段差を乗り越えます。ましてや、LTタイヤ(ライトトラックタイヤ)なのに…タイヤ圧の高さに起因する硬さを感じないのは、サスペンション設計がうまいのでしょう。

ただ、街乗り40~60km/hほどの速度域ではどうにも落ち着きのない挙動を示し、何だか常に車体が前後揺れ(ピッチング)していました。タイヤのせいではなく、サスセッティングの問題でしょうが、このへんのチューニングはもうひとひねり必要かと思います。

背の高い、全高1800mm超えのクルマのくせに(!)、ミッドシップ搭載なのが効いているのか、高速路でちょい早めの車線変更を試みると、横傾き(ロール)は少なめで、そこいらのハイト軽よりも安定感、安心感ともにこちらのほうが上と感じたほどです。背は高くても、相対的に重心が低いことが奏功しているのでしょう。

街乗りで起こしていたピッチングが、高速シチュエーションでは顔を引っ込めていました。たいていのクルマでは、主に高速走行での話ですが、アスファルトの継ぎ目を越えたとき、前輪揺れは1発で収まるのに対し、後輪は2~3回揺れることが多いのですが、このアトレーは街乗りでたえずヒョコヒョコするいっぽう、高速路では前後とも1発収束したのが、他のクルマと少し異なる特性です。

●いよいよ登場! 新開発・FR用ベルト式CVT

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新開発の、縦置きFR用CVT(無段変速機)

今回のハイゼットトラック/カーゴ、アトレーの技術面の目玉は、ダイハツが「新開発のFR用CVT」と謳う自動無段変速機。ハイゼットシリーズであることからするとMR(ミッドシップエンジン・リヤドライブ)用CVTといいたくなりますが、これはあくまでも搭載する車両の都合であって、エンジンとトランスミッションを結合した状態で見るとFR用が正しい表現です。

筆者は「FR用CVT」と聞いたとき、何かうまい方法を見つけて軽量化、メカ簡略化を図ったトロイダルCVTを用いたのかと思ったのですが、ふたを開ければ従来のベルト式CVT。

おおかたの軽、小型どころか、いまや大型FFにまでベルト式CVTが行き渡った中、軽ではほぼこのタイプだけに残されていたステップ式ATに「小排気量」「重い」という弱点がつきまとい、もはや限界に達していた? 燃費改善を、エンジン縦置きFR用CVTで一挙解決。旧型最終モデルのアトレーワゴン・ターボ付の4ATで、2WDも4WDも15.2km/Lだったカタログ燃費が、新型では2WDが19.7km/L、4WDで19.0km/Lにまでなりました。いずれもJC08モードでの比較。

これがWLTCモードとなるととたんに数値が情けなくなり、新型のWLTC総合値は2WDも4WDも14.7km/L。ターボエンジンの4WDにして車重1020kgであるアトレーRSと近いスペックを持つ、同じダイハツのロッキーXの4WD(ターボ付ガソリン車・車重1040kg)とを、単に重量面だけでWLTC総合値を比較したとき、ロッキーが17.4km/Lであることを思うと、アトレーももうちょいがんばってほしいと思うのですが、小排気量&フル積載時の発進性を考慮し、変速比をロー寄りにするとエンジンはひっきょう高回転気味になり、燃料を消費するのは致し方ないでしょう。

変速幅は4.380~0.826とかなり広いのと、12インチタイヤであることも影響しているでしょう。実際、発進時の変速比はかなりロー寄りで、アクセルを踏むとまずはエンジン回転が2500rpmほどにまで一挙上昇。これを「ラバーバンドフィール」、ゴムを伸ばしたような…と評して嫌うひとがいますが、筆者は、ATはCVTでもステップATでも燃費がよければどちらでもと考えるほうなので、この特性が別段嫌いでもなければ気になることもありませんでした。

ましてやラバーバンドなのは発進時だけで、いったん走りだしてしまえばアクセルの踏み込みにリニアに速度上昇するし、多くはこれで満足するものと思われます。

ひとつ要望は、登降坂制御の明確化。

取扱説明書では、CVTの坂の上り下りでの登降坂制御の存在をにおわせていますが、これが効いているのかいないのかわからないものでした。いまのクルマはドライバーにおせっかい感を抱かせることなく、うまい登降坂制御を行っていますが、このアトレーはその働きを明確にしてもいいのではないかと思いました。もうちょい出しゃばってくれてもいいョ。

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CVTのシフトレバー。 フロアシフトを切り取ってそのままインパネ垂直面に取り付けただけのような姿だが、本文中に述べる理由で操作性はよかった

過去、筆者はフロアシフトでの形そのままにインパネシフトにしたATレバーの操作性に難癖をつけましたが、同じインパネシフトなのに、アトレーの操作性は良好でした。

というのも、PRNDSBという5ポジションのうち、DからSはボタン押しなしのフリーで、SからBはボタン押しという構成であったため、特に山間道下りでエンジンブレーキを効かせるのにDから下げたいときは、目で見なくとも見当をつけて手をやり、レバーを上からぶったたけばいいという良さがありました。より強力に効かせたいときはボタン押しでBへ…このように書くとエンジンブレーキのときだけ優れているように見えますが、各シフト間の操作力が軽めなのも、日常の操作感向上に寄与しています。

最近、自動運転を視野に、シフトまでをもボタン式にする気配。筆者も数種のクルマで試したことがありますが、あれはどうなのかな…

●エンジンはターボ付きのみ

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前席座面を引き起こすと現れるKFエンジン

エンジンは直列3気筒658ccのKF型のみ。最高出力64ps/5700rpm、最大トルク9.3kgm/2800rpmをひねり出すターボ付きで、高速路でクーラーONにしてもパワーの落ち込みは少ないものでした。

後ろスレスレにまで迫る暴走トラックの接近を想定して100km/hからの加速を試みると、ターボにものいわせ、1500cc車並みの加速性能を見せました。ターボも街乗りでは街乗りなりに、高速路なら高速路なりに働きますが、ジキルとハイドのような豹変ぶりを見せないのが、最近のターボのうまい点です。できればターボ稼働をメーターランプで示してくれるとありがたいのですが。

なお、100km/h時、80キロkm/h時の、Dレンジ、Sレンジでの各エンジン回転数は、写真のとおりです。

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ハイゼット55ワイド スライドバン(写真は1977年型)

余談ですが、エンジンといえば、音質がいかにも「ダイハツ!」の音。筆者が幼少の頃(昭和50年代前半)、隣の家のおじいちゃんが、「ハイゼットワイド550」に乗っていました。その頃からいまに至るまで、ダイハツ軽のエンジン音質は、このハイゼットワイド550時代から変わっていないように思えます(あくまでも私見)。

むかし直列2気筒SOHCキャブレター、いまは3気筒DOHC、電子制御燃料噴射にしてターボ付き。エンジン技術者も意識しているはずはないのですが、時代を変えても音質だけは同じというのがおもしろいところです。

いまほど車種数が多くなかったというのもありますが、幼い頃は耳に残る雑音が少ないだけに、家の前を初代シビックにアコード、2気筒レックス、水平対向レオーネ、サニー、カローラなどが通れば、そのエンジン音から家にいながらにして車種を当てられたものです。いまのクルマはエンジン音に個性がなくなったばかりか、EV移行でエンジンそのものを廃止しようという趨勢(ほんとうにできるの?)。その中にあって、ダイハツ車のエンジンだけは、音に昔の味わいが残っていると思っています(しつこいが、あくまでも私見)。

●ハンドルと小まわり性

パワーステアリングは電動モーター式。サラダ油でぬらした小指ででもスルスルまわるいっぽう、車速が上がるにつれてしっとり重みを増し、高速路では適度な遊びもあって安心できる操舵感に変わります。高速でも重めにならないクルマがありますが、高速でのアトレーは他社車の場合よりもちょい重め。ちょうどいいセッティングでした。

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ハンドルの回転角は、右は2回転と30度。左は少し少なくなり、2回転と5度となる。いずれも筆者の目測
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そのときのタイヤのようす

ハンドル回転数は、左まわしが2回転と5度、右まわしが2回転と30度ほど。いずれも筆者目測ですが、右と左とで少々異なっていました。そのときのタイヤの傾きは、写真をごらんください。

傾きといえば、先々代、先代もこんなだったっけ? と思ったのは、ハンドルそのものの傾斜度合い。前回のアトレー試乗第1回で、計器盤がトラック的と述べましたが、筆者実測370mmのハンドル輪っかというか、パッド面がけっこう上を向いていて、操舵姿勢もどこかトラック的になります。かといって角度を変えようにも、チルト機構はないときた。慣れたら気にならなくなりましたが、できればチルト機構があれば、より多くのユーザーに対応できるでしょう。

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いつも撮影に使う敷地内では、切り替えしなしで1周できた。他のクルマではこうはいかないので、今回は1周する様子を撮り、合成してみました

最小回転半径は4.2m。といってもこれは前輪外側タイヤの軌跡の径で、実際の回転半径は、旋回時のバンパー外がわ角(かど)が描く軌跡径の大小がものをいうわけですが、もともと12インチタイヤでタイヤ切れ角が大きいこと、フロントオーバーハング(前輪中心からフロントバンパー先端までの距離)が極めて小さいことから、Uターンでも1発でまわれます。Uターン時、たとい1回でも切り返しがあるかないかの差は決して小さくありません。

今回、撮影に使っている敷地内で、切り替えしなく1周する写真も撮りましたので参考にして見てください。他のクルマではこうはいきません。

●フロントシートバック角にルームミラー…要再考のドライビングポジション

他のダイハツ車は知らず、少なくともこのアトレーに関しては、ドライビングポジションの再検討をしたほうがよさそうです。

見直してほしい点は2つ。

まずフロントシート。着座感がどうの、上半身の背もたれへの収まりがこうのという以前に、シートバック角度に問題あり。

クルマを借りると筆者はまず、シートスライド&リクライニング角、ハンドル高さ(アトレーにはない)、各ミラーを合わせた後で走りだすのですが、シート背もたれがちっとも合わせられないことに気づきました。

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リヤシートの背もたれのほうこそ、運転姿勢に角度がしっくりくる
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フロントシート。背もたれは調整したのではなく、これが固定第1段目なのだ。寝かせすぎ

いちど背もたれを前倒しし、後ろに戻して最初に固定されるときの背もたれ角が寝すぎているのです。たいていのクルマは、1発目の固定角は80~90度ほどなのですが、計ったらアトレーは約68度でした。これじゃあ、お茶の間でくつろいでテレビを見るときのソファの角度で、おかげで乗っている間じゅう、背もたれに接しているのは腰部だけ、腰から上は離れっぱなしで、なおのことトラック的な運転姿勢を強いられました。

それでいて「後部スペースの半分以上は荷室でなければならない」という商用車規定の悲しさから、リクライニング機構もスライド機構も持つことができないリヤシートの背もたれ角はジャストフィット。前後シートを入れ替えてか、まんがの怪物くんのように手足が延びるなら後席に座って運転したいほど、背もたれを寝かせすぎるフロントシートでした。

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位置が高すぎるルームミラー

もうひとつはルームミラーの位置が高すぎること。たいていのクルマは、目の球だけ動かしてのチラ見で事足りますが、このクルマでは寝かせ過ぎのシートバックに上半身をゆだねても自立気味にしても、顔を上方に上げなければならないほど高く、ルームミラーに目をやるのが億劫になるほどです。左右角、上下角以外に高さ調整もできる2ピボット式かと思いきや、覗いてみたら、ミラー裏に支点があるだけの1ピボット式でした。

メーカーによって違いはあれど、新型車(マイナーチェンジでも)は、1次試作、2次試作、号口試作、品質確認車という数ステップの試作を経て量産に踏み切りますが、前席シートバック角にしろルームミラー位置にしろ、その間、実験部も開発リーダーも気づかなかったのか? 途中で誰も口出ししなかったのか? と思うほどで、これは改良やマイナーチェンジといわず、今日造るクルマから対策を施してほしいと思いました。

半導体不足による納車遅れが深刻な中での発表から1年経ったクルマの割には、この新型を街で見かける頻度は高いほうだと思います。その前後に発表されたクルマでもアトレーほど見ないクルマはザラ。つまり、この状況下にしてはよく売れているほうだと思うのです。いつものように、後々ライトの回を設けるつもりですが、こちらは大拍手を贈りたいほど出来がよかっただけに、このドライビングポジションのちぐはぐさで新型アトレーを買い控えるひとが出てくるとしたら実にもったいないし、せっかく売れている(ほうだと思う)クルマなのに、ダイハツにとって損だと思います。

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前席周辺の、各部の地面からの高さ
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後席周辺の、各部の地面からの高さ

前席、後席ドアを開けたときの、周辺各部の高さは写真のとおりです。

着座位置は通常のセダンなどに比べれば高めですが、ひと昔前のフルキャブ1BOXに比べればフロア高さは低くなっています。軽に限らず、フルキャブ1BOXは、乗りこめば着座位置はもちろん、足場が床ごと高く、これが身体の小さい幼少時に肩ぐるまをしてもらったときに似た、新鮮な見晴らしの良さがあって好きだったのですが、いまは乗降性の向上で床を低くするのがトレンドですから、こちらのほうが多くのひとたちに喜ばれるでしょう。

というわけで今回はここまで。

次回「スマートアシスト編」でまた。

(文:山口尚志 モデル:城戸ひなの 写真:山口尚志/ダイハツ工業/モーターファン・アーカイブ )

【試乗車主要諸元】

■ダイハツアトレー RS〔3BD-S710V型・2021(令和3)年12月型・4WD・CVT・レーザーブルークリスタルシャイン〕

●全長×全幅×全高:3395×1475×1890mm ●ホイールベース:2450mm ●トレッド 前/後:1305/1300mm ●最低地上高:160mm ●車両重量:1020kg ●乗車定員:2名(4名) ●最小回転半径:4.2m ●タイヤサイズ:145/80R12 80/78N LT ●エンジン:KF型(水冷直列3気筒DOHC・インタークーラーターボ) ●総排気量:658cc ●圧縮比:9.0 ●最高出力:64ps/5700rpm ●最大トルク:9.3kgm/2800rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:38L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):14.7/13.3/15.7/14.7km/L ●JC08燃料消費率:19.0km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トレーリングリンク車軸式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格182万6000円(消費税込み・除く、メーカーオプション/ディーラーオプション)