■ちょっとヨーロピアン
それは一目惚れだった。見た瞬間に恋に落ちてしまったのだ。
その日からボクは一方的に好意を抱き、ついにはあこがれた相手と一緒に生活するようになった。大好きな彼女のこと…ではなく、コルベットのことだ。
もちろん、彼女のこともコルベットと同じくらい…いや、それよりももっと愛しているけれど。たぶん。
「私とクルマとどっちが好きなの?」
なんて彼女は聞いてこない。けれど、きっとボクがコルベットを溺愛する様子を見て内心はそう思っているんだろうなと感じる時がある。おそらく呆れているんだろう。だって、惚れちゃったんだから仕方ないじゃん。
「コルベットって、ヨーロッパのスーパーカーなんでしょ? フェラーリとかランボルギーニみたいな」
そんな彼女の印象は、クルマに詳しくない一般的な人が抱く認識とずれていないと思う。だけど事実ではない。
コルベットはGM(ゼネラルモーターズ)というアメリカのメーカーを代表する超高性能スポーツカーだ。欧州のスーパーカーではない。
にもかかわらず、欧州のスポーツカーのような存在感を持っている理由は、そのデザインだ。キャビンフォワードの、いかにもスーパーカーらしいスタイリングが、普通のクルマとは全然違う。
●クセになりそう
ただ、よく見るとしっかりアメ車らしいのがコルベットの特徴。昨今のヨーロピアンスーパーカーは滑らかな曲線主体だけれど、コルベットのデザインはエッジを効かせたシャープな直線だ。それは切れ味鋭い刃物のようであり、ステルス戦闘機のようでもある。
そして何より、アメリカンコミックのヒーローのよう。アメリカ人はヒーローが大好きだ。それがコルベットのデザインにも影響しているのは間違いない。もちろん、欧州のスーパーカーにはアメコミのヒーローの香りは微塵もない。
エンジンは6.2LのV8 OHV。まさにアメリカンだ。スペック至上主義の人は「いまどきOHVなんて」と鼻で笑うことだろう。
でも、そんな人には教えてあげたい。このエンジンがどれだけ刺激的で、どれだけ心を揺さぶるかを。
エンジンを回したときの空気を切り裂くような音と刺激、そして心を震わせる躍動感。リアルの世界では、理屈よりも共感のほうが価値があると思う。
現行世代のコルベットは、伝統的なフロントエンジン・リヤドライブを捨ててミッドシップに生まれ変わった。それは超高性能スーパーカーの仲間入りを意味する変化だけど、このデザインを見るとアメリカの心を忘れていないことが伝わってくる。
「まったくもって何を言っているんだかわからないわ。でも、この刺激はクセになりそうね」
「クルマに詳しくない私でも、普通じゃないのはよくわかる。この非日常感がいいのかしら。私の激辛好きと同じ感覚なのかな」
刺激的なクルマと、刺激的な激辛。そこには相通じる部分があるのだろうか? もはや、なんだかよくわからなくなってきた。
でも、彼女が楽しんでくれているなら、それでいいや。