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■大手サプライヤー「ヴァレオ」の実験車両でレベル4を体感した
●内閣府の主導で進む自動運転実証実験
2021年10月19日~20日、東京の臨海地区にて、SIP-adus 実証実験プロジェクト 第二回試乗会が開催されました。
SIPというのは、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が進める戦略的イノベーション創造プログラムのことで、その柱のひとつとしてadus(自動運転)へ注力しているのです。
その狙いは、日本の国際競争力を高めることにあります。自動運転でのイニシアティブをとり、日本の基幹産業である自動車産業が世界をリードし続けられるように、産学官が連携して自動運転に関する研究を進めています。
そうした動きは保安基準や法整備という面でトップランナーといえる状況で、実際に世界初の自動運転レベル3を搭載した市販車であるホンダ・レジェンドが生まれています。
SIP-adusの象徴ともいえるのが、東京の臨海地区で行われている自動運転の実証実験です。
お台場エリアの3D高精細マップを作り、信号機の情報をクルマに伝えるインフラを整え、そうして自動運転レベル4相当の実験車両が走り回っています。リアルワールドで実験することで、自動運転に関する様々な課題が明確になり、進化を加速させることが期待されています。
さらに実験も拡大しています。高速道路のゲート情報や合流支援情報を車両に伝えることで、市街地から自動車専用道路までシームレスにつながる自動運転車を実現しようとしています。
●視野障害をもカバーする自動運転
加えて、お台場エリアでの経験をもとに仮想空間にモデルとして再現することで、コンピュータシミュレーションによる安全性評価もできるようなプログラムも始まる予定です。後者については2022年度の事業化も目標としています。
また、SIP-adusの活動の中で、視野が狭くなっているドライバーへの対策を啓蒙するといった動きも生まれています。緑内障などで視野が狭くなっている人は、意外に多いということですが、徐々に進行することもあって自覚症状がなく、それが事故につながることも珍しくありません。
ドライビングシミュレーターを使って、視野に課題があるかどうか確認することは重要です。症状が軽ければ視線移動を増やすことで視野をカバーできるでしょうし、あまりにも危険なレベルで視野が狭くなっているようであれば免許返納という判断をすることもあり得るでしょう。
こうした視野障害というのは、緑内障によって起こしているドライバーが多く、緑内障は非常にポピュラーな疾病です。自動運転テクノロジーによって、そうした肉体的な問題点をカバーするというのも、これからの世の中では求められるのかもしれません。
●量産技術を応用した自動運転レベル4に乗る
さて、今回の試乗会で注目していたのは、大手サプライヤーValeo(ヴァレオ)が用意した「Drive4U」という実験車両でした。
自動運転の実験車両というと高価なセンサーを使っていると思いがちですが、ヴァレオの「Drive4U」は基本的に量産品のセンサーだけを使っています。つまり、量産可能で現実的な予算で作れるかもしれない自動運転レベル4車両といえます。
はたして、そうしたリアリティのある自動運転レベル4車両は、どのような走りを見せてくれるのでしょうか。
「Drive4U」に搭載されているセンサーは次のようになっています。
・3Dレーザースキャナー6台
・フロントカメラ1台
・サラウンドビューカメラ4台
・ミリ波レーダー4台
3Dレーザースキャナーは、一般的にはLiDARと呼ばれているものですが、今回の実験ではレーザースキャナーと信号機情報だけを用いて自動運転を実現しているのがポイントです。
では、その走りっぷりはどうなのでしょうか。助手席、後席に座って確認した様子をお伝えしましょう。
ダッシュボードに置かれたディスプレイには、レーザースキャナーの情報をどのように処理しているかを可視化する映像が出るようになっていましたが、車両、歩行者、自転車と、それぞれを箱状に置き換えて認識しているようです。実際の様子と照らし合わせても高い精度で認識していることが確認できました。
驚いたのは信号待ちのときです。停止していればいいはずなのに、クルマが少しだけ右にステアリングを切って前進します。プログラムのバグかと思いきや、路肩を走る自転車を避けるために動いたということです。市街地での実証実験により、周囲の車両と調和した動きができるところまで進化しているのです。
また、前方の信号が青から黄色になったときの振る舞いも見事なものでした。自車速度、停止線までの距離、周囲の車両、停止した場合の減速Gなどの状況からスムースに止まれそうなら瞬時に停止と判断して止まります。もし、急ブレーキが必要になるようであれば止まらずに、そのまま通過することもあるといいます。
動画を見て頂ければわかるように、先行するバイクが黄色信号で交差点を通過しても、自車はしっかりと判断して停止しています。そのときのブレーキングでもノーズダイブを感じない、非常に上手な運転だったこともお伝えしておきましょう。
というわけで、レーザースキャナーだけでも、ほとんどクルマに任せていられるレベル4の自動運転は実現可能ということが実感できたのですが、だからといってヴァレオは同社の3Dレーザースキャナーだけで自動運転が可能という主張はしていません。
この実証実験における狙いは、ロバスト性の確認にあります。高次元の自動運転においてはカメラとミリ波レーダー、LiDARをフュージョン(併用)して、安全性、確実性を担保することが理想ですが、なんらかの理由で特定のセンサーが使用不可になることも考えられます。
そのときに、一種類のセンサーだけで安全に運行することができれば、車両全体として見たときのシステム堅牢性が確保できます。ヴァレオの実験車両は、そこまで考えて3Dレーザースキャナーだけで、どこまで走れるかを確認しているのです。
いまの段階で、センサーを一種類に絞って、自動運転を進めるのは実験レベルとしてはチャレンジングですが、ユーザーの安全を重視する自動車メーカーであれば考えづらいといえます。もし、そうしたメーカーがあるとすれば、時期尚早ですし、その姿勢が信頼できるかといえば、そうとは言えないのが2021年での判断ではないでしょうか。