■創業からのチャレンジ精神で「空」や「宇宙」などへの進出を表明
いわゆる「空飛ぶクルマ」への参入で話題を集めているホンダ。
この電動垂直離着陸機「Honda eVTOL」だけでなく、ASIMO(アシモ)を開発してきたホンダらしく、バーチャルな移動を可能にする「Hondaアバターロボット」(分身ロボ)、宇宙領域への挑戦、月面でのチャレンジ(循環型再生エネルギーシステム、遠隔操作ロボットへの技術応用)、ロケットなど壮大な計画を明らかにしています。
テスラを率いるイーロンマスクは、「スペースX」ですでに宇宙領域に挑戦しています。ホンダは社名に「自動車」が付きませんので、今後も創業からのチャレンジ精神を発揮し、多様な分野に進出する決意といえそうです。
さて、電動垂直離着陸機「Honda eVTOL」には、ホンダが今まで培ってきた多くの技術が投入されるようです。
ホンダジェットの航空機技術はもちろん、ホンダF1、ハイブリッドカー、EV、自動運転車などがその一例。電動化技術を生かしたガスタービンとのハイブリッドを採用。ハイブリッド化の狙いは、航続距離の伸長で、今後増えると予想される都市間移動のニーズを満たすとしています(航続距離は約400kmを想定)。
さらに、「Honda eVTOL」をコアに、地上モビリティとの連携により新たなモビリティエコシステムを創造するという構想を掲げています。
ロボット分野では、次世代に向けて、時間や空間の制約に縛られず、バーチャルに自己能力を拡張する「Hondaアバターロボット」の実用化に向けた開発を進めているそう。人の分身となるアバターロボット。
最大のメリットは、リモートでありながら、あたかもその場にいるようにモノを扱えるなど、人がその場にいなくても作業や体験ができること。
そうしたアバターロボット実現の核となるのが、Hondaが強みとするロボティクス技術による多指ハンドと独自のAIサポート遠隔操縦機能です。
多指ハンドを通じて人のために作られた道具を使いこなし、AIのサポートにより、複雑な作業をより直感的な操作で早く正確に行えることを目指したそうです。
これまでのロボティクス研究を通じて長年の課題であった、小さなものをつまむなどの繊細さと、固い蓋を開けるなどの力強さを「人並みに」両立できる手を多指ハンドとして実現しています。
また、多指ハンドが一連の動作の中で物をスムーズに把持したり、細やかな力の制御で道具を操ったりできるように同社独自のAIサポート遠隔操縦機能の進化にも注力しているそう。
なお、2030年代の実用化を視野に、2023年度中の同ロボットの技術実証開始を目指しています。
宇宙領域も月面チャレンジも膨大な開発費用が掛かりそうですが、チャレンジを表明しています。宇宙領域をコア技術を生かした夢と可能性へのチャレンジの場として、研究開発を加速。具体的には、燃料電池や高圧水電解技術を生かし、月面での循環型再生エネルギーシステムの構築を目指す構えです。
また、先述した多指ハンドやAIサポート遠隔操縦機能、高応答トルク制御技術などの月面遠隔操作ロボットへの応用。
ホンダらしいのが、若手技術者の発案によるという「燃焼・流体・制御・誘導」技術などの応用による「再使用型の小型ロケット」の研究開発も掲げています。
トヨタやブリヂストンもすでに月面チャレンジに取りかかっています。月面には水が存在するといわれており、その利用によるさまざまな可能性が注目されています。
ホンダもこれまで蓄積してきた、燃料電池技術と高圧水電解技術を生かした月面での循環型再生エネルギーシステムの構築を目指し、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究を行っているそうです。
この燃料電池技術と高圧水電解技術を組み合わせ、再生可能エネルギー由来の電力を使い、水を電気分解して水素、酸素として貯蔵。その水素と酸素から燃料電池技術を用いて発電することで、電力の供給が可能になります。
また、酸素は月面に滞在する人の居住用としても、水素はロケットの燃料としても活用可能で、循環型再生エネルギーシステムの構築により、さまざまな有人活動への貢献を目指すとしています。
宇宙飛行士の危険を最小化したり、地球にいながら月にいるかのような体験を可能にしたりする、月面での遠隔操作ロボットでは、先述のアバターロボットで開発中の多指ハンドや、AIサポート遠隔操縦機能、衝突軽減のための高応答トルク制御技術など、同社のコア技術の多くの応用が見込まれるそう。
すでに、JAXAの宇宙探査イノベーションハブでの研究テーマとして採択され、今年2月に共同研究がスタートしています。
ロケット分野は、ホンダらしい若手技術者の発案がきっかけだそう。ホンダがこれまで培ってきた、燃焼技術や制御技術などのコア技術を生かして小型ロケットを目指すもので、すでに開発に取り組んでいるとのこと。
人工衛星は、温暖化や異常気象といった地球環境を観測したり、モビリティのコネクテッド化に有効な広域通信を可能としたりするなど、ニーズが拡大しています。
一方で、その打ち上げ需要に対してロケットが不足している状況。課題を解決するために、低軌道向け小型人工衛星の打ち上げを目標として小型ロケットの開発を推進。
また、自動運転技術の開発などを通じて培ってきた制御や誘導技術を生かし、打ち上げ後にロケットの一部を着陸させ、再使用することも想定した研究を行っているそうです。
いずれの分野も技術のみならず人材や予算、時間などが必要で、クルマやオートバイ以外のモビリティ分野でも世界をリードできる日が来るのか今後も注目です。
(塚田 勝弘)