エアコンの効きに差はある? 車内温度を素早く下げる方法とは?【真夏の汗だく実験で探ってみた】

■ドアを開けたら「モワッ!」の解消法と、内外気切り替えによるエアコン効果を探る

●気温35度の猛暑日に内気循環と外気導入で内外切り替えの効果を検証

夏真っ盛り。コロナ禍下とあって、クルマの利用頻度が上がっている方も多いかと思います。

筆者が小学生だった1980年代、人は温度計が30度を超えただけで「さ、さんじゅうど!?」とビックリしたものですが、今のこの時期、外気温が35度を超えるのはザラで、ひどいときには40度に突入しようかという日も出てきます。

中古車クーラーなしのクルマが長かった我が家が、初めてエアコン付きの中古車を購入したとき、贅沢な気分になり、、筆者には自動車の冷房が贅沢品に感じられ、自前のクルマの「A/C」ボタンを押す際にはいまだに後ろめたさを覚えるのですが、現在のように、暑さに意識が朦朧として運転がおろそかになるくらいならためらいなく「A/C」を押すべきで、いまやエアコンは贅沢品ではなく、ブレーキ並みの重要保安部品といってもよさそうです。

main scorching heat
クルマは声を出さなければ顔色も変えないが、炎天下では、本当はこのような思いをしているのだと思う。

この時期の車内温度の上がり様は、尋常ではありません。車内はサウナ並みに高温となり、空気ばかりか内装部品のあらゆるものがやけどの心配をするほど熱くなります。

そこで今回、乗り込む際の、あの熱気を早く追い出す方法、エアコンを入れた際の外気導入と内気循環のそれぞれによる温度変化の違い、エアコン&エンジンOFF後の車内温上昇の度合いなどがいかなるものなのかを、計器盤上面の温度変化とともに試してみました。

●実験1・車内の熱気逃がし

炎天下のクルマに乗り込む際、憂鬱になるのはあの熱気です。まずは熱い車内気を外に追い出してから入れるというのが常識となっていますが、では、どのように入れ替えるのが効果的なのでしょうか。次の4とおりで試してみました。

車内温度が50℃近辺に達したとき…、

1. 助手席の窓ガラスを全開にして運転席ドアを1回/秒のペースで開閉(●)
2. 助手席のドアを全開にして運転席ドアを1回/秒のペースで開閉(+)
3. 前席左右のドアを全開にして放置(▲)
4. 前席左右+バックドアを全開にして放置(■)

上記の4通りを試し、温度変化が少なくなった時点でテスト終了とします。

thermometer
温度計を通した糸を前席左右のアシストグリップに結び、写真のようにして車内音を測る。

車内温度は200℃まで測れるガラス製のものを前席にぶら下げて測り、計器盤上面温度はデジタル温度計を使って測ります。

1.は、いつ頃だったか、「伊東家の食卓」というテレビの番組で紹介していたのを覚えており、長い間「ほんとかいな」と思っていたので1番目に持ってきました。

2.は1.の別バージョンです。1.2.とも、運転席ドアを1秒1回のペースで開閉、10秒ごとに、温度計で車内温の変化を記録します。

3.は動きを与えない方法。ドアを開放するだけで果たしてどれほど空気は逃げるのか? あるいは逃げないのか? 窓なりドアなり開けただけで本当に空気が入れ替わるのかという懐疑心をいつも持っていたため、ここではドアを開けっぱなしにしてどうなるかを試してみました。

4.は3.にバックドアを加えたものです。

試した車両は旧ジムニーシエラで、色は白。マニュアルエアコンで、オートエアコンのように「25度」「30度」といったセッティングはできないこと、そもそも普遍性の低いクルマであること、1300cc車といえど、しょせんは軽自動車ボディにして、縦置きエンジン・FR母体の4WDによるミニマムキャビンであること、何でもひとりで行わなければならない悲しさで、実験内容に不備な点があることなどをご了承ください。

result 1
スタート時の温度にばらつきがあるのは勘弁してほしい。
result 1 graph
初めの1分後は各々ばらつきが生じる。3.と4.は、外気が入るためか、わずかながら車内温が上昇する。

1.~4.を行い、結果を表とグラフにまとめたものがこちらです。

【考察】 

driver's door patapata
2.の助手席ドアを開けて運転席ドアを開閉する方法がいちばん効果的だった。

1.と2.、3.と4.とではかける時間が異なるのですが、労力はかかるものの、短時間で車内温度を下げるには2.の方法が効果的で、何だか、良い結果を売るにはきちんと体を動かさなければ(労力をかける)という精神論が、ここでも表されているような思いがしました。

full open
バックドア開閉如何が影響することはないようだ。けっこう変わると思ったんだけどなあ。

いっぽう、3.と4.のほったらかし実験はおおかた予想どおり。4.のほうが開口部が多くなるため、3.とは何らかの違いが出るかなと思ったのですが、しょせん、猛暑の中ではバックドアの「開」か「閉」かが、明確な差を生み出すようなことはありませんでした。

ただ、暑い車内に入るのがいやだからと、炎天下の中で何十回もドアをパタパタさせたり、3分も5分もドアを開け放して、クルマの横でじっと待つという人は少ないと思います。

何か行うとしても、暑い中でかけられる時間はせいぜい1分程度ではないでしょうか。まあ、この結果はあくまでも参考までにということにし、がまんができる程度ぐらいにまで温度が下がった時点で乗り込んでしまうというのが現実的だと思います。

グラフ上方の1点鎖線は、4通りの実験での計器盤上面の温度変化を示したもので、同じマーク同士で関連させています。ひとりで行った都合上、始めと終わりしか温度測定ができませんでしたが、車内の熱気を逃がしたなりの分しか温度は下がりませんでした。

この炎天下なら、換気したところで熱いものは熱いわけで、計器盤など、密閉された空間で直射日光を受け、芯まで熱くなっているはずなのに、むしろ熱気を逃がしたくらいで表面だけでもよく下がるなと思ったほどです。

また、夏は朝から昼にかけて気温が上がり、夜に向かうにつれて下がる…年間を通じてみれば、四季に応じた大小の温度変化を常に受けており、昔のクルマの計器盤が割れていた理由がわかるような気がしました。昔は多くのクルマが計器盤上面にスピーカーがついていましたが、高級車のセドリックさえヒビが入り、スピーカーのポツポツ穴がつながっていたものです。

●実験2・内外気切り替えはどれほど効いているのか?

この熱気逃がし実験、炎天下での実作業、数値のまとめ&考察、そしてここまでの解説文…まあ内容が地味なこと!

皆さんが興味あるのは、むしろエアコンONによって温度がどう変わるかでしょか。

正直にいうと、熱気逃がしは8月5日(木)、エアコン実験は翌日6日(金)に、同じ場所、正午前後の同じ時間帯に行いました。ラッキーなことに、天気予報で気温も同じ35度であることをしっかと確認した上ですので、条件は同じとお考えください。

行ったのは、次の3とおりです。

車内温度が50度近辺に達したとき…、

1. A/C ON、上半身送風+内気循環+ファン最強、全ドア&窓は全閉(●)
2. すべてをオフにし、全ドア&窓全閉のまま、温度上昇の度合いを記録(+)
3. 再度50度近辺に車内温が戻った後、そのままA/C ON、上半身送風+外気導入+ファン最強に(▲)

という流れです。いずれも5分ごとに温度を計測、前の実験と同様、温度変化が少なくなった時点でテスト終了とします。

この順序にしたのは、2.の温度上昇を観察するとき、温度がいちばん低い状態から始めたかったためです。この1.~3.はすべてクルマに乗りっぱなしで行いました。その理由は最後に説明します。

result 2 graph
1.と2.の間の空白は無視してほしい(本文参照)。それにしても、すべてをOFFにしたときの、短時間での温度上昇の早いこと! 閉じ込められたときのことを思うとゾッとする。
result 2
炎天下の室内は、印象では60~70℃、計器盤上部は100℃近いと思っていたのだが、数字にすると50℃台、70℃台とは意外と低いと思った(いや、暑くて危険なことにはちがいないのですよ!)。

その結果が次の表。同じくこの変化をグラフにしてみました。

内気循環時のエアコン停止から車内温上昇スタートまで、1分間の空白がありますが、これは合間の記録と撮影の手間によるものですので無視してください。以降の記録の間隔は同じ5分ごとです。

【考察】

air control panel recirc
上半身送風、温度は最低、内気循環でとっととエアコンをONにする。

内気循環(●)は、外気導入(▲)時に対してせいぜいファンの音がやかましくなるくらいで、炎天下での車内の冷え方に差は感じないでいたのですが(過去のクルマも含めて)、このように測定&数値化すると、やはり効いていることがわかります。

instrument panel upper at recirc temp 60c after 5minutes
計器盤上面は60℃に。これは車内気も去ることながら、冷たい風が通る内部からの冷気温伝達の可能性もある。
recirc thermo 37.5c after 5minutes
5分後には早くも37.5℃にまで下がった。

内気循環テスト開始から5分後の温度は、外気導入時の42度に対して、内気循環時は一挙30度台の37.5度に! 今まで「内気循環」をどこかバカにしていたところがあったのですが…ゴメンナサイ!

言葉のとおり、室内の熱い内気を計器盤奥のエバポレーターで冷やし、室内に送った冷気をまた取り込んで冷やしを繰り返す…。まさに「内気」を「循環」、車内気だけで完結させているのですから、温度が下がるのが早いのは当然です。

air control panel fresh
内外気切り替えを外気導入にし、他は同じ条件のままエアコンON。

いっぽう、外気導入は、外から取り入れた熱い空気をエバポレーターで冷やす手法です。内気循環に対して効率は悪いということができます。

instrument panel upper at fresh temp 49.1c after 5minutes
計器盤上面は49.1℃。内気循環時の60℃よりも低いが、測定の仕方が悪かったかな。
fresh thermo 42c after 5minutes
外気導入時のエアコン作動5分後の車内温は42℃。ない基準感じと比べて下がりようが緩やかであることが実際に測ってみてわかる。

「内気循環」は、初めのうちはともかく、ある時点から「過去に冷やした空気をまた冷やす」の繰り返しになりますが、「外気導入」で冷やすのは常に外から取り込んだ熱い空気。

これをエンドレスで行うため、「内気循環」に比して、冷えるまで時間はかかるし、効きは劣ります。理屈ではわかっていたことですが、測定・数値化することで明確に理解することができました。

さて、「外気導入」「内気循環」をどう使い分けるか。

基本は「外気導入」で使ってください。「内気循環」は急速に冷やしたいとき、冬なら急速に暖めたいとき限定です。というのも、「くもりとり」の記事で解説したとおり、「内気循環」は同じ空気が車内に滞留することになるため、ガラスがくもりやすくなるのです。また、空気中の二酸化炭素の濃度が上がり、眠気がやってきます。

あらためてわかったのは、「外気導入」でのエアコン作動初期でも、吹出口からの冷感が身体にスポット的に得られるなら、室内全体が暑くてもがまんできるということでした。「外気導入」での10分後には、車内温は40度になりましたが、そもそも53度からスタートしているため、40度でもその数字のイメージとは裏腹の快適さを感じることができます。

●車内温上昇について

「内気循環」「外気導入」の間の「車内温上昇」をあえて最後にまわしました。

air control panel all off
すべてをOFF、エンジンも停止。このまま車内で過ごすという暴挙に出る。

これはエンジンを停止してクルマを降りた後の温度上昇の度合いの観察です。引き続き車内で過ごします。

thermometer 44c at all off after 5minutes
5分後には44℃にまで達した。
thermometer 37c at all off after 1minutes
すべてをOFFにした後の温度上昇はあっという間だ。たった1分後にはもう37℃になり・・・、

内気循環にして車内を冷やし(ここでは34.5度)たのにもかかわらず、すべてをOFFにした1分後には37度にまで上昇、5分後には44度に! 50度に達したのは13分後でしたが、この温度上昇の早さには驚きを通り越して恐ろしくなりました。

instrument panel upper at all off temp 55.2c after 5minutes
計器盤上面は55.2℃に達する。
instrument panel upper at all off temp 70.1c after 20minutes
20分後には70.1℃に! 1日のうちで気温が最高になる14:00以降の記録なので、内気循環テスト開始時の73℃よりは低いが、それにしても・・・

計器盤上面に至っては、スタート時に42.4度だったのが、5分後には55.2度、最後20分後には70.1度にまで到達しました。空気よりも物体のほうが受ける熱の量が大きく、ましてや直射日光を受ける部分ですから当然なのですが、うかつに触るとやけど…というのもよくわかります。

meter
いまのメーターは電気式で、裏は電子基板になっている。暑い中、よく作動するな・・・
navi
ナビは電子の集合体。液晶表面もかなり熱くなる。裏の収容部だって放熱には不利なほど狭い。暑い中、よく作動するな・・・

この実験を行う中、あらためて感心したことがあります。車内の何もかもがこれだけ熱を帯びる中、普段使用する電装品…ナビゲーションやパワーウインドウ、メーターなどがよく正常に作動しているなということです。特にナビやメーター内の液晶。

degital thermometer
最初に使ったのがこちら。車内に置いていたら真っ黒になったのであわてて外に出した。これを見ると、ナビやメーターの液晶は、暑い中でもよくこわれないなと思う。
アナログ計は目盛りが足りなくてふりきっちゃうし・・・これもだめだ!

実は今回の実験、当初屋内用の液晶表示の温度計を使用したのですが、高温下では真っ黒になってしまい日をずらしたという裏話があります。それを思うと、冬の寒い日も去ることながら、夏の猛暑日でさえ、平然と必要なものを表示する性能に、いまさらながら感心させられました。

engine room
相当な熱気が中を占領しているにもかかわらず、ルーム内のあらゆるユニットは正常に作動している。
air conditioning piping
エアコンガスが循環する配管。室内から出る低温低圧がわパイプの温度は低いはずだが、高温高圧がわも含めてアツアツだった。ここまでくればどちらも一緒なのである。

エンジンルームもしかりです。今回は1時間以上停車した状態でエンジンをかけっぱなし。エンジンルーム内は走行風が入ることはなく、クーリング条件は最悪だったのですが、ボンネットを開ければ熱気が占領しているにもかかわらず、エンジンもコンプレッサーも回っていました。

いまはどうか知りませんが、夏の首都高の渋滞では、輸入車はオーバーヒートを起こしていたと聞きます。その中にあって、国産車の高温環境に対する耐久性の高さ! このあたり、普段なかなか意識しませんが、電装品設計者やエンジン技術者の長年の努力と功績をあらためて称えなければいけませんね。

●この記事を読んだ方への、真夏のクルマの扱い方の願い

最後に。

前述のように、エアコン実験は一貫して車内で行いましたが、それには理由があって、炎天下の車内に残された子どもの立場を疑似体感するためでした。「実験のためとはいえバカなことを」を思われる方もいるでしょうが、いろいろ考えさせられました。

毎年夏になると「車内に残された子どもが亡くなる事件が…」というニュースが飛び交います。先日も、保育園バスに残っているのを気づかれなかった子どもが熱中症で亡くなった事件が起きたばかりです。子どものみならず、犬や猫をも残したままという場合もあるでしょう。

sweat
写真になるとわかりにくいのだが、これでも手の甲は汗でぬれている。

すべてを停止するとその瞬間から、分単位どころか秒単位で温度計の目盛りが上昇していきます。身体中から汗が湧き出て服はぬれるわ、腕や顔からポタポタ落ちるわ…。ここで思ったのは「いざつらくなったら外に出ればいいけど、車内に残された子どもは声を挙げられないし、挙げる相手もいない。エアコンの操作法も知らなければ、自分で窓やドアを開ける方法だって知らない…。そもそもチャイルドシートに収まっているなら、身動きすらできない…」ということでした。

pocari sweat
実験では、このようなものを持ち込んだが、これさえなければ・・・

いざとなったらドアを開けられる今回の筆者と異なり、何の選択肢もない中、温度がぐんぐん上昇していくことの恐ろしさ。炎天下の車中に残された子どもにとって、その恐怖心たるや、どれほどのものでしょう。想像がつきません。これは犬や猫でも同じです。そしてこれがいかに残酷なことなのか。外から気づかれないまま、最後の最後、どんなふうに意識を失っていき、ひとり死に至ったのか…。想像していたつもりですが、この状況に身を置くことで自然と具体的に考え込んだのはよかったと思います。

このたびの保育園バスの事故の場合は周辺の大人の不備です。右も左も分からない、ものの分別がついていないうちの子どもにふりかかった災難、すなわち怪我、そして死、それらはすべて大人の責任です。これくらいの子どもは無力です。その無力の子どもを守りながらものごとの良し悪しを教えるのは、まずは大人の責任なのです。車内に子どもを残したままパチンコだなんていうのはとんでもない話で虐待と同じ。

今回この実験を行ったことで、このようなサイトではあまり見かけない締め方にしました。

皆さんは決して同じことをしないでください。その代わり、ここに書いたことを皆さんが頭の片すみにちょっと留め置き、どこか出先の駐車場で、子どもがひとり残されたクルマがないかどうか、それとなく目を配るということをしてくれるとうれしく思います。それでひとつの命が救われることになるなら、炎天下の中でひとりこの実験を行った甲斐があったというもの。

この種のニュースを見ると、テレビ画面の向こう側で起きている遠い場所でのことのように錯覚しますが、決して対岸の火事ではありません。

虐待を受けた、クルマの中で熱中症で亡くなった…。子どもの悲しい死のニュースはもうたくさんです。

なんだか趣旨とかけ離れた終わり方になってしまいましたが、以上、炎天下の中で行った、車内の熱気追い出し効果とエアコンON/OFFによる温度変化の実証実験のレポートでした!

(文・写真・グラフなど:山口尚志