ベンチシートとローダウンはふたりのための恋愛仕様?【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判「個性車編」第3回】ホンダ・S-MX

■愛称はステップ・バーン。「青春を燃やす情熱(burn)」から

80~90年代の日本車のうち、チョット変わった個性派のデザインを振り返る本シリーズ。第3回は、個性の欠如が囁かれた90年代半ばにホンダが送り込んだ、若いふたりのためのコンパクト・ワゴンです。

S-MX・メイン
分厚いバンパーがヤンチャな性格を醸し出す

●箱型ボディにヤンチャなスパイスを

個性の欠如に加え、すっかり乗り遅れたRVブームに対し、起死回生を狙うホンダは「クリエイティブムーバーシリーズ」を発表。

好評を得たオデッセイ(1994年10月)、CR-V(1995年10月)、ステップワゴン(1996年5月)に続くクリエイティブムーバーの第4弾として、1996年11月に送り出されたのがS-MXです。

「ニュートレンド・パッセンジャーカー」を商品コンセプトとしたボディは、全長3950mmに対し2500mmのロングホイールベースと、かなりのショートオーバーハングスタイル。加えて1750mmの全高は、意外にも良好な居住性を感じさせます。

フロントでは、ランプ周辺こそ素直な表情ながら、分厚いバンパーがこのクルマのイメージを決定付けています。とくにグリルを横切る太いプロテクターが、アクセントの役割とともに、このクルマの「ヤンチャさ」を強烈に打ち出します。

S-MX・サイド
シルエット自体はかなりまっとうなスタイル

サイドビューは、このクルマの上下2段構造がよくわかるところ。バンパーと一体の下半身は安定感が抜群で、さらに前後ホイールアーチのフレアが足腰の強さを表現。これがローダウンバージョンの設定を可能にしているようです。

一方の上半身には張りのある面が与えられ、極めてまっとう。そもそも、居住性を確保したサイドシルエット自体にヤンチャさは見られず、2+1ドアもあって、とくに運転席側は実にスッキリした表情を見せます。

●迷いのなかったスタイリング

S-MX・リア
スパッと切り落とされたリアパネル

リアビューはルーフ断面が意外なほどシャープで、リアパネルもスパッと切り落とされています。

ランプは相当な縦長タイプですが、その角部に沿わせることで違和感はまったくありません。極太のプロテクターが安定感を生んでいるのはフロントと同じ効果です。

S-MX・インテリア
ステップワゴンと共通のインパネは機能的
S-MX・荷室
後席背もたれまでフラットになる前後シート。リヤ右ドアがないことを活かし、後席右サイドには、荷室までおよぶトレイを配置。荷室左にもトレイを備える。

インテリアでは、インパネこそベースとなったステップワゴンに準じたものですが、フルフラットを可能にするベンチシートや後席右サイドや荷室両端のトレイはオリジナル。

シートと同じオレンジ色の空調口パーツなどを用品で用意したのも「らしい」ところです。

満を持して発表したクリエイティブムーバーシリーズは、優れたパッケージとカジュアルな性格付けが往年の「ホンダらしさ」を感じさせ、同社の業績を回復させました。

ですが、「恋愛仕様」をキャッチコピーにした4番手は、その「らしさ」が少々ズレていたようです。

たった1枚のキースケッチでスタイリングが決まったという話は、デザインの方向性にブレがなかった証。そうした場合は息の長いヒット作になることが多いのですが、それが100%でないところがカーデザインの難しさといえそうです。

■主要諸元 S-MX(4AT)
形式 E-RH1
全長3950mm×全幅1695mm×全高1750mm
ホイールベース 2500mm
車両重量 1330kg
エンジン 1972cc 直列4気筒DOHC
出力 130ps/5500rpm 18.7kg-m/4200rpm

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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