■ルノーグループのダチアからシェアリング用のコンパクトEVが登場。
ルーマニアに自動車メーカー「ダチア」は、ルノーグループに一員として比較的手頃な価格帯のモデルを担当しているブランドです。そのダチアから新しいEV(電気自動車)として「スプリング」が誕生しました。
SUV的なエクステリアは、写真で見れば立派に見えるかもしれませんが、そのボディサイズは全長3734mm・全幅1622mm・全高1516mm・ホイールベース2423mm。軽自動車よりひと回り大きいくらいで、いわゆる欧州ではAセグメントに分類されるサイズとなっています。
パワートレイン系のスペックは、モーターの最高出力33kW、バッテリー総電力量26.8kWh、最高速度は125km/hというもの。
バッテリー総電力量は小さめですが、モーター出力も抑えたことにより一充電航続距離は225km(WLTPモード)を実現しています。さらにWLTP シティモードでは295kmと発表されています。そもそもAセグメントであれば街乗りメインの用途となるでしょうから、十分な航続距離を確保しているといえます。
しかし、これは欧州ブランドのEVとしてはこれまでと異なるアプローチといえます。EVで実用性を確保するにはバッテリーをとにかく積んで航続距離を稼ぐという力技的なアプローチが、ほとんどのメーカーが選択している手段だからです。
日本におけるEVの普及を推進する象徴といえるモデル、日産リーフも初代から2代目へと進化する中で、主にバッテリー総電力量を増やしてきました。
デビュー当初は24kWhで、マイナーチェンジで30kWh仕様を追加設定、そして現行型では40kWhとなり、さらにリーフe+という62kWhと総電力量を増やしたバージョンが登場しています。こうしてユーザーの利便性を上げてきたのです。
ただし、バッテリーの搭載量を増やすというのはEVの普及に対してはネガティブな面もあります。バッテリー搭載量が増えるほど車両価格は上昇してしまいますし、バッテリーの調達量に対して生産できる車両台数も減ってしまいます。
適度にバッテリー搭載量を抑えつつ、限られた機能であっても実用性を認めるユーザーがEVを選ぶという風に市場マインドを変化させていかないと、いつまでたってもEVはプレミアムな商品というポジションにとどまってしまうのです。
とはいえ「街なかベスト」というコンセプトワードを掲げて誕生したホンダの新型EV「Honda e」は、ボディサイズをコンパクトとして、バッテリーの搭載量も総電力量でいうと約35.5kWhといった具合にシティコミューター性能を鑑みて十分な量に抑えています。
もっともメーカー希望小売価格は451万円~495万円と、身近といえる価格帯はオーバーしてしまったといえますが……。
いずれにしても航続距離におけるホンダのアプローチは、シティユースへの最適化というロジックとしては理解できても、欧州トレンドには反しているような印象もありました。しかし、欧州におけるEVリーダーであるルノーグループのダチアが提案してきたAセグメントEV「スプリング」のバッテリー総電力量や一充電航続距離を見ると、ホンダのアプローチはけっして孤軍奮闘ではなく、同様に考えるメーカーもあると感じられるのです。
ちなみに、ダチア・スプリングのターゲットユーザーは、都市部でのカーシェアリング用とラストワンマイルと呼ばれる近距離での宅配ユースということです。そのためモーター出力を33kWと抑えることができたのです。
この数字だけ見ると、日本の軽自動車(NAエンジン車)よりもパワーがないくらいですが、ある程度の性能に割り切ってモーターを小型化することでバッテリーの搭載量に対する航続距離は伸ばそうとしていることが見て取れます。
ダチア・スプリングの発売は2021年春とアナウンスされていますが、価格はまだ公開されていません。商品コンセプトからしてメインはフリートユーザーがターゲットなので一般ユーザー向けの製品群とは感覚が異なるかもしれませんが、はたしてAセグメントのEVがどのような価格帯で売り出され、それを市場がどのように受け止めるのでしょうか。
(自動車コラムニスト・山本晋也)