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■高い膨張比に設定し、ノックを回避するため吸気弁を遅閉じにするのが一般的な手法
●燃費向上は、高い膨張比による熱効率向上と吸気弁遅閉じよるポンプ損失低減に起因
低燃費技術として、多くのエンジンで採用されているアトキンソンサイクルとミラーサイクルは、メーカーによって呼び方が違うだけで、基本的には同じ技術です。膨張比を高めて熱効率を向上させ、ノックしないように吸気弁遅閉じ(または早閉じ)によって圧縮比を低減する手法です。
アトキンソンおよびミラーサイクルについて、解説していきます。
●アトキンソンサイクルとミラーサイクルの違い
トヨタやホンダなどはアトキンソンサイクルと呼び、マツダなどはミラーサイクルと呼んでいますが、両者は基本的に同じ技術です。
どちらの呼び方が正しいということではなく、広義で表現するか、狭義で表現するかの違いだけです。ミラーサイクルは、アトキンソンサイクルを実現するひとつの手法です。
2つの違いは後述しますが、その前に関係する圧縮比と膨張比について、まず解説します。
●圧縮比と膨張比の違い
圧縮比とは、「シリンダー内の空気または混合気が、ピストン上昇によってどれくらい圧縮されるのかの割合」を示す指標で、次の式で表されます。
圧縮比=(燃焼室容積+排気量)/燃焼室容積
一方膨張比は、「燃焼ガスが、ピストン下降によってどれくらい膨張するかの割合」を示す指標で、通常は圧縮比と同じ値を示します。
熱効率は、燃焼エネルギーがピストンを押し下げる機械的エネルギーにどれだけ変換されるかの割合です。したがって熱効率は膨張比に依存しますが、一般には圧縮比=膨張比なので両者を区別せず、代表して圧縮比が使われることが多いです。
●アトキンソンサイクルとは
通常のエンジンでは、吸気、圧縮、燃焼、排気行程の各行程の長さは、同じ(圧縮比=膨張比)です。アトキンソンサイクルは、特殊な機構によって圧縮行程(圧縮比)よりも、膨張行程(膨張比)を長くした熱サイクルです。
ガソリンエンジンではノッキングが発生するため、圧縮比の上昇には限界があります。アトキンソンサイクルは、圧縮比をノッキングしない値に抑えて、膨張比だけを上げて熱効率を上げようとするコンセプトです。
ただし、アトキンソンサイクルを実現するための機構が複雑で、機械損失が大きいなどの課題が解決できなかったため、自動車用としては実用化されていません。
●ミラーサイクルとは
アトキンソンサイクルの圧縮比<膨張比(圧縮比より膨張比を大きくする)を、吸気弁の閉弁時期の調整で実現したのが、ミラーサイクルです。具体的には、高い熱効率を確保するために膨張比を高く設定した上で、吸気弁の閉時期を遅らせる(あるいは早める)ことによって実圧縮比を下げます。
吸気弁遅閉じの場合、ピストンが下死点から上昇し始めても、吸気弁は開いたままなので圧縮は始まりません。
圧縮行程は吸気弁が閉じてから始まるので、実質的な吸気行程は短くなり、圧縮行程<膨張行程という関係が成立します。
ミラーサイクルは、アトキンソンサイクルを簡易的に実現した手法なのです。
●アトキンソン/ミラーサイクルのメリットとデメリット
アトキンソン/ミラーサイクルによる燃費向上の要因は、高い膨張比による熱効率の向上と吸気弁遅閉じよるポンプ損失の減少です。
吸気弁の遅閉じは、排気量を小さくしたのと等価です。排気量が小さくなると、同じ出力を得るためには、スロットル開度を大きくする必要があるのでポンプ損失が減少します。
一方で吸気弁を遅閉じにすれば、出力が低下します。これが大きなデメリットなので、出力不足を挽回するためにターボなど過給機を組み合わせることが必須です。
アトキンソン/ミラーサイクルは、吸・排気弁の開閉時期を自在に制御できる可変動弁機構の普及とともに、ごく一般的な技術になりました。
また、ダウンサイジング直噴ターボとの組み合せも積極的に進められていますが、いずれにせよ出力挽回手法が必要です。
(Mr.ソラン)