目次
■1人ひとりに合わせたような細分化はしにくい福祉車両だけに、カスタマイズで解決しちゃおうという意識は重要かも
●「オーテック オーナーズ グループ湘南里帰りミーティング2023」で見た福祉車両カスタマイズ
新型の登場、そしてマイナーチェンジが繰り返されるたびに改良が加えられていくのは、ベース車両だけではなく福祉車両も同じ。
車いすスロープ車ならば、車いすを引き上げる電動ウインチが小型になって、より固定スペースの選択肢が広がったり、作動ボタンの位置が使いやすくなったり、そんな改良が連綿と続いて、ひと昔前とは使い勝手がかなり変わっています。
そんな福祉車両ですが、それでもやはり、利用者にとってはそのまま使えるとは限らないもの。
なにしろ身体の状況も一人ひとり異なるし、使っている装具も似ているようで違う。できるだけ多くの人が使いやすく、できるだけ使えない人が減るように…、そうやって落とし所を探りながら進化して、現在に至っているだろう福祉車両。
その仕上がりに対してユーザーが思うことは、千差万別。ドハマリして、すごく使い勝手の良い1台が労せずとも手に入ったユーザーもいるかもしれませんし、ないよりはあったほうが良いけれどやっぱり毎回使いづらい…とカンジちゃうユーザーもいるかもしれません。
こればっかりは責めてもなんにもならない。
けれど、こういう車種をこういう使い方をしているユーザーがいる…というのは、知っていく価値がありそう。なので、実際に使っているユーザーの意見を訊いてみたい。そしてあわよくば、開発側のエンジニアの皆さんにも直接聞いてもらえないものか? またもしかして、想定している使い方がされてないケースがあれば、教えてもらえればうれしい。
という我が家も、車いすスロープ車を持っています。子どもに生まれつき肢体不自由があり、子ども乗せバギーという手押しの小児向け車いすを使っているからです。
そんな目線からの本記事、ゆるゆるとですが始めていきましょう。
●スロープ車と小児用車椅子を「ハヤシ」仕様にカスタムしちゃう父&ステップとリフトアップシート同時装着息子
今回お邪魔したのは、「オーテック オーナーズ グループ湘南里帰りミーティング2023」。コロナ禍の影響で3年ぶりとなった2022年に引き続き、16回目の開催となったイベントです。
そこで、参加者の中で日産の福祉車両であるライフケアビークルに乗っている皆さんを取材しました。
オーテック(現 NMC)といえば、プリンス自動車工業出身で、スカイラインの開発に長く関わっていた桜井眞一郎氏の肝いり。エルグランドやセレナなどのハイウェイスター・シリーズやライダー・シリーズ、そしてカーマニアの方々には、R31〜R33のスカイライン・オーテックバージョンや、レパードベースだったオーテック・ザガートステルビオを思い浮かべる方もいるでしょうか。
そんなNMCですが、ライフケアビークルの架装も担当しているのです。
そこで、見つけたおふたり。
1人目がキューブベースの車いすスロープ車のオーナー、lj20driverさん。2人目がエルグランドベースのリフトアップシート車のオーナー、くまちゃんさん。双方とも介護する身。御本人ではなく、ご家族の移動のサポートのために車両を選んだ方々です。
●CASE1:lj20driverさんにとってキューブは唯一無二の選択肢! ハヤシホイールの6輪仕様か?
それでは、1人目のlj20driverさんから、伺っていきましょう。
ご同席頂けたのは、NMCの安西里奈さん。lj20driverさんの乗るキューブの当時の開発者ではありませんが、安西さんは現行シリーズについて担当しています。
lj20driverさんは、娘さんが生まれつきの脳性麻痺により、上肢・下肢・体幹ともに障害等級1級。その移動には小児用の車いす(子ども乗せバギー=ここではバギーと書きます)と車が必須。
そこで選んだのが、このキューブでした。キューブ/チェアキャブ/サイドシートタイプ。
キューブの前は、通常のセレナを購入。簡易スロープを使って、娘さんをバギーに乗せたままリアから乗せおろしをしていました。
これがしんどい。なにせ、通常のラゲッジのフロアはバンパー上。スロープがあるとはいえ、そこまでバギーを押し上げる。
そんなこんなで、バンパーも下に倒れて低い位置からスロープが出せる、スロープ車のキューブに乗り換えることに。スロープの斜度も浅くなり、これまでの乗せおろしの面倒がなんだったのか?というくらい楽になったそうです(わかります)。
これまでlj20driverさんは、サニトラやジムニー、ロードスターやサンバーなどを乗り継いできた車好き。現在もY60型日産・サファリをお持ちで、タイヤなどもカスタマイズが施されているクロカンユースのもの。2スト360ccのLJ20型スズキ・ジムニーとも長い付き合いになっているそう。
そんなlj20driverさんだけに、ハヤシのホイールをツライチなセットアップで装着、ラグーンブルー(1年くらいしかなかったレアカラー)のボディとの間に美しいフェンダーアーチを構築するなど、スロープ車であるキューブもカスタマイズ。
さらに、娘さんのバギーにもそのエッセンスを散りばめています。ベースのバギーは東京都青梅市のドリームファクトリー製、フレームカラーはキャンディレッド。
キャンディレッドはカタログカラーではあるものの、ソリッドカラーやメタリックカラーに比べて、カラークリア層がプラスされるなど、凝った仕上げだけに「それなりの差額が発生しますが良いですか?」と聞かれるくらいのもの。
lj20driverさんも当初は、娘さんの身体の成長に伴って数年で乗り換えるなら無駄かな?とも思ったものの、娘さん本人やケアする自分たちが気に入って楽しく使える方が大事だろう、と塗ってもらったといいます。
実際、バギーのフレームを見ると、深みと重量感(重いわけではなく、そういう雰囲気を持っています)のあるレッドカラーが美しく、ここにコストをかけたのは正解と思われます。
さらに、バギーのホイール、そのカバーはといえば、スロープ車のキューブと同じハヤシのデザインに!
こちらは、業者さんの「イニシャルでもイラストでもなんでも描けます」というコメントに心励まされ、ダメ元でハヤシの画像を出してみたところ「頑張ってみます…」と言ってくださったそう。納車の際には完成度の高い力作が装着されていましたが、「次回以降はちょっと無理かも」と苦笑いされたそうです。
大変でした。でもキマってます。業者さんグッジョブ!
さらに、地元エリアを代表しバイクレースで有名なヨシムラのロゴ書体をオマージュした自作「ヒノハラ」ステッカーなど散りばめつつ、ステッカーチューン。アレ? 隣の黄色いハードロック・ヘビメタ調、ないし往年のチームステッカーともとれそうなステッカーは業者さんのものではないですか!? いろいろマッチングがイイということでしょうか。
バギーは、娘さんの足の代わりであり、一番身近な道具。そして介助者である保護者や、看護師さんヘルパーさんとの橋渡しをするもの。それだけに、機能をスポイルすることがなければ、汎用なものである必要はなく、むしろ個性を表現するアイテムとしての側面を大事にしてもイイ。そんなカンジがします。
●転倒防止のウイリーバーもカスタマイズ
さらに、カスタマイズ! バギーにはスロープをのぼる際などに、後ろ荷重になりウイリー状態、さらには後転してしまうのを防ぐため、ウイリーバーのようなものを付けることが多いのですが、これがスロープ車のスロープ斜度くらいでも接地してしまい、バギーの後輪が浮いてしまうコトがあるのです。
まさに本末転倒なのですが、かといって普段遣いでは必要なものでもあり、取り外すワケにも行かない。そこで、lj20driverさんは、跳ね上げが可能なウイリーバーを作ってもらいました(写真参照)。
一般的には、ボタン式でロック・アンロックし、伸縮ないし回転させて地面にあたらないようにするものが多いのですが、ちょっとした段差の場所で毎回しゃがんでパイプにあるボタンを穴に押し込むというのは、実は難儀なコト。
折り畳み傘を縮める時など、ほかのものでも経験があるかたはいらっしゃると思いますが、こういうボタンって少しかしいでいるだけでも結構力がいるので大変ですよね。
lj20driverさんの仕様なら、大きめのレバーで持ち上げることができるのでラク。ちょっとしたコトですが、かなり有効です。
●「割とマジメに新しい車に乗り替えたいというのはあります」
さて、スロープ車であるキューブ。新車から10年を経て「買い替えは?」と尋ねると……
「買い替えは常に考えているんです。新しい車は安全装備も変わってきているし。でも、このサイズが今、ないんですよね」。
病院や介護施設などの駐車場、昔から駐車枠のサイズは変わってないので、みんなが大きい車で来ると混雑時にどうにもならないときがある。そんなときにちょっと短いキューブのサイズ感が重宝するのだといいます。
けれど、いざ買い換えようとして各社の車いすスロープ車ラインアップを見ると、みんなの乗っている5ナンバーフルサイズか、軽自動車が主体となっている現状。
「軽自動車ではどうか?」と問えば、介助者が隣に座れることが大事。やっぱり移動中も何かとケアがいるので、リアスペースに単独で乗車させるのではなく、すぐ近くにいて見守れるセカンドシートは必要。
「軽自動車でも、セカンドシートがあるものも…」と、ちょっとイジワル気味に訊いてみましたが、もちろんそういった車種があることはご存知で、チェックした結果、おメガネに叶う「きちんとしたシート」がなかった模様。
特別支援学校へのスクーリングや通院などもあり、往復50kmを超える道程もあり、昔のバスの補助シートのような椅子では厳しいだろうという判断。
「日産さんの既存の車両だと、NV200にあればイイんですよね」とlj20driverさん。
実は同じ日産製でNMCが作っているNV200にもスロープ車があります。でもダメなのかしら?
さらに、キューブもNV200も入ってくる5ナンバーフルサイズと軽自動車の間のサイズでは、NV200以外にもトヨタ・シエンタとホンダ・フリードプラスにスロープ車があるのです。
が、フリードプラスはサードシートの位置に単独で乗車するタイプのみなので、リクエストに応えられず。シエンタはセカンドシート乗車が可能で、隣に介助者が座れるシートがある。
「シエンタでは?」と問えば、「次に買うなら、室内高ももう少しあったほうがいい」とのお返事。
そこでサイズを比較。
・キューブ 全長3,890mm × 全幅1,695mm × 全高1,650mm
・シエンタ 全長4,260mm × 全幅1,695mm × 全高1,695-1,715mm
・NV200 全長4,400mm × 全幅1,695mm × 全高1,850mm
・セレナ 全長4,690-4,765mm × 全幅1,695-1,715mm × 全高1,870mm
となっています。
確かにシエンタはキューブよりは高さがあるものの、NV200やセレナと比べると大きな差が。シートバックが長いことが多いバギーでは天井との距離がびみょうになることもあるかもしれませんし、乗せおろしで一緒に乗り込むときや、ケアをする際にかがむようになるので、しんどいこともあるかもしれません。
では、NV200はどうなのか。
●コンパクトさと物が置けるスペースのバランスが良いNV200は理想的
NV200は、全長は短めだけれど、車高も5ナンバーフルサイズに近い数値。
「キューブはコンパクトでイイのだけれど、コンパクトすぎて荷物置き場に悩むところもある。そのあたりを長さで補えるNV200は魅力的」。
確かに、扱いやすさと室内サイズのバランスがよいかも。加えて移動中や待ち時間に、停車してのケアなどもあるので「介助者のことを考えても室内高はあったほうが自由度が高い」とも。なるほど。
ちょっと話がスライドしますが、やってやれないことはないけれど、もっとラクにできたらイイというのは、介護の現場ではとても大事。作業が3行程だったものを、工夫して2行程に減らせるだけでも、繰り返しがある場合はかなりの負担減に。車内でのちょっとした作業、ケア用品をおいてあるところから引き出して、中身を選んで引き抜いて元に戻すとか、狭いせいで持ち替えたりするとかの必要がなくなるだけで、QOKGL(クオリティオブ介護ライフ)がグッと上がります。
「割とマジメに新しい車に乗り替えたいというのはあります」。
●新しい車種だと便利になることもある。たとえばウインチベルトのあしらいかた
lj20driverさんいわく…。
「スロープ車って、乗せおろしの際に車内前方のウインチベルトを取りに行かなくちゃならないじゃないですか? あれ毎回やっていると意外と面倒なんですよね。それで、格納時はフロアの固定用フックに引っ掛けておいて、引っ張り出したらスロープ板のサイドに引っ掛けておくと、いちいち屈みながら車の奥まで入らなくてもイイのでラクなんです(写真参照)。それが、新型セレナのスロープ車ではうまい処理がされていたんですよ」
●新型セレナでは便利なホルダーがオプションになっていた
さてここで、NMCのスロープ車開発ご担当の安西さんに伺ってみました。
「今回のセレナでは、もともと標準装備でフロア上にホルダーがあって、スロープを引き出していないときはそこにフックをひっかけておけるようになっています。またオプションですが、新規でウインチフックホルダーというパーツを開発しました。こちらはスロープの端末近くにフックを新設して、一時的に引っ掛けておけるようになります。走行中などは使えないですが、ケースによってはこちらがあることで、引っ張り出したフックの扱いがスムーズになる場合もあるかと思います」。
このフックひとつ(正確には左右2箇所)で、ベルトを奥から引き出す手間が減ったり、雨天時に車外で車いす利用者を待たせておく時間が減ったり、うっかり手放してもう一度引っ張り出しに行くといったようなコトがなくなったりと、かなりストレスフリーな状況になります。
ちょっとしたことですが、大きな利便性の向上に。
「今まで自分たちが工夫しなんとかしてたことが、可能な範囲で生産車にフィードバックされて行くのは、利用者をよく見ていてくれているカンジがして、うれしいですよね」。
でも、lj20driverさん的にはもうちょっとコンパクトなベース車両に期待。
●ケアを考えるとセカンドシートは重要
そこで、 NV200に戻ります。なぜダメなのかしら。
NV200も2009年5月登場と、そろそろ新型に替わってもおかしくない時期。lj20driverさんはしばらく、まだ見ぬ新型NV200ベースのスロープ車へのラブコールが続きそう…なのでしょうか?
「いや、新型じゃなくても今のNV200にスロープ車で、セカンドシートがさっき言ったような、しっかり座れるものがあれば、それでも悩んじゃいますね」。
たしかに。
残念ながら、現行のNV200のセカンドシート位置のシートは少し簡易的なものに見えます。室内幅が狭いところにあるので、そんなスペースでもシートを入れたことは評価したいです。ただ、もちろんないよりはあったほうが良いけれど、lj20driverさんの用途としては足らないという判定になるのも仕方がありません。
となると、新型に期待か…。新型NV200が出たとしたら、おそらく先述のスロープ周りはセレナ並みの装備になるだろうし、さらにスペースユーティリティも向上しそう。きっと優れたものになるはず。
これは期待したい。
lj20driverさんはしばらく、まだ見ぬNV200ベースのスロープ車へのラブコールが続きそうです。そして、きっと、次期車両もカスタマイズもされるのでしょうね。楽しみです。
●CASE2:うっかりステップを出しちゃうと介助のときにスネに当たるお約束が展開
お2人目は、E52エルグランドベースのスライドアップシート車のオーナー、くまちゃんさん。そして、ご同席頂けたのは、ご自身がスライドアップシートの開発を担当したNMCの中川嘉信さん。
くまちゃんさんが、このエルグランドを選んだ理由は、自動車への乗り降りが辛くなったご自身の親世代のため。
所有車の正式な車名は、エルグランド アンシャンテ セカンドスライドアップシート。左側のセカンドシートが車外へ回転しスライドして降りてくるタイプです。
親御さんが脚を悪くしてしまい、乗り降りが大変になってしまったことが車両をオーダーした理由。
くまちゃんさん本人も、腰を悪くしているため、介助がしにくい。もちろんやってやれない事はない、けれどその結果の共倒れも望まないので、「文明の利器」に頼れるところは頼るというのが、くまちゃんさんの方針。
選んだエルグランドの名前、アンシャンテ セカンドスライドアップシート(現行名:エルグランド セカンドスライドアップシート)。
グレード名の冒頭のアンシャンテは、「はじめまして」「会えて嬉しい」という意味のフランス語。以前はLVのラインアップの中で、主に乗り降りをサポートする機構のついたモデルを「アンシャンテ」シリーズとして販売していたのです。今はアンシャンテという名称は使われていません。
そして、最後は装備を表すセカンドスライドアップシートとなります。スライドアップシートには、助手席タイプとセカンドシートタイプがあります。
●車椅子からの移乗がしやすいスライドアップシート
くまちゃんさんは、車椅子からの移乗を想定し、車体の前後のいずれからもアプローチしやすいセカンドシートタイプを選びました。
スライドアップシート、サイドリフトアップシートなどと呼ばれるこの機構。車両からのセカンドシートのせり出し量が多く、また低い位置まで降りてくるため、車椅子と座面の高さを合わせやすく、またシートも水平になるので、移乗もしやすいのです。
日産のスライドアップシートには、シートの下降する高さを好みの位置でメモリーできる機能や、シートの回転・昇降の速度を変更する機能などが装備されている車種もあって、操作自体も、標準装備の多機能ワイヤレスリモコンで変更できます。
さらに、このリモコンでリクライニングなどの調整もできるのも、ドライバーと2人で移動する際に、ちょっとした調整が手元でできるなど、便利な場合もあるかもしれません。
そして「日産の」と書いたのは、フルサイズミニバンとして直接のライバル関係になるトヨタのアルファード&ヴェルファイア(以降、アルヴェル)には、同じ仕様のリフトアップ機構を持った福祉車両がないからです。
●立ち上がりやすいサイドリフトアップチルトシート
アルヴェルの場合、サイドリフトアップチルトシートという機構が用意されています。こちらも、シートが動いて車外での乗り降りができるもの。
ただ、サイドリフトアップチルトシートはどちらかというと、降りる際に杖を使うなどしても、立ち上がる姿勢がゴール。最後に座面が前下がりにチルトし、脚が出しやすくなります。
また、斜めでストップするため、車体からのせり出し量が少ないのが特徴で、狭い駐車枠でも使用しやすく、雨天時も車のルーフ下からはみ出る量が少ないため、濡れにくいというのがあります。
加えて、立ち上がった姿勢からお尻をシートに当てるように後ろに下がると着席でき、大きくお尻を落とさなくても良いので、膝の屈伸がつらい場合には、このアルヴェル・タイプが適しているかもしれません。
反対に、外へせり出して下がりきった低い位置で座面を水平にすることはできないため、お尻を横にスライドして車椅子に移乗するような使い方は人によっては厳しいところ(座面の最低地上高がチルトしたセンター部分で520mm)。
その点、今回のような車椅子からの移乗では、座面が水平でかつより下まで降りるエルグランド・タイプのほうが、くまちゃんさんの用途には適しています(シート座面400〜600mmで調整可能)。
とはいえ、身体の状態や介助の方法、駐車スペースの都合などによって使い勝手は変わるので、ディーラーなどで相談するのがベターです。
●スライドドア連動ステップで助手席に上りやすくなった
そして、くまちゃんさんのエルグランドに追加で装備され、便利に使用しているのが、スライドドアと連動してフロア下から出てくるステップ。
その名称は、ロングステップ&ステップイルミネーション。
その名の通り全長1585mmと、助手席ドア下からスライドドアまでドッカーンとつながる長いステップです。助手席が地面から195mmで、そこからフロアまで210mm、セカンドシート部は地面から215mmで、フロアに上がる車内のステップまで200mm、そこからフロアまでがだいたい90mm~100mm。
一般的な戸建て住宅の基準寸法で、階段1段の高さが230mm以下となっているので、使い勝手の良い数値といえそう。
そして、せり出し量は150mm。踏み板の幅が150mm以上なので許容範囲かも。
「でも、もうちょっと幅というか奥行きがあると良いんですよね。それと、前と後ろで分割してくれるともっと良いなあ」とくまちゃんさん。つま先側に荷重をかけて階段を登れる若い人と違って、足の裏を確実に接地させて踏みしめ、ゆっくり荷重移動する高齢者の場合、できればもう少し靴底が乗るスペースが欲しいということかと。
●セレナとエルグランドの電動ステップは共用パーツ多し
このあたりどうなのかしらとNMC中川さんに伺ってみると「このステップ自体は、セレナと共用なんです」とのこと。
なるほど、諸元をチェックしてみるとセレナの同製品では、旧型の場合で有効奥行が155mm、新型では…なんと! 標準タイプでは180mm、エアロ外装のハイウェイスターVなどでも170mmを確保しています。あらすごい。
「共用ということで、エルグランドとセレナ、双方のフロア構造の違いを加味しての設計となりました。セレナのほうが張り出しがあるのはそのあたりの都合ではあります」。
とはいえ、エルグランドの奥行き150mmというのも、住宅の階段の基準寸法と照らし合わせれば、十分とも言えるかも。
ところでくまちゃんさん、もうひとつ言いたいことがあるみたいです。
●便利であるがゆえに自動で出てくるステップにスネを打つ
「スイッチがあるので、必要に応じてオン/オフすれば良いのだけれど、車椅子からリフトアップシートに移乗させたいときにステップをうっかり出してしまうと、抱きかかえる時にスネにステップが当たって痛いんですよね。スイッチがあるからオフにすれば良いんですよ。でもそういう時ってあるじゃないですか」。
助手席への乗り込みを楽にしてもらうためのステップ導入…なのですが、なまじ長いステップを付けてくれたおかげで、起きてしまう不幸。オーナーくまちゃんさんの同乗する家族への優しさが、ふたつの装備の同時装着を決意させ、そしてその結果が招いた自らの痛み。
同乗者のためだけに同情します…。
「なので、分割型にならないでしょうか? 助手席分とセカンドシート分で分けてくれれば、いつもは助手席分だけオンにしておいて、セカンドシート分は必要に応じて使うんだけれどなあ」というくまちゃんさんの問いかけに中川さんは、「ステップは2点支持なので、現状のステーを使う限り難しいところなんです」。
耐荷重が助手席側110kg、スライドドア側110kg。センターのステーを2つに分けるというのも、なかなか難しいところかもしれません。
ちなみに、ロングステップ&ステップイルミネーション、暗い場所でも足元を照らしてくれるイルミネーションも装備。そういった優しさも付属しております。
くまちゃんさんは、ステップ上面に滑り止めをプラスして優しさアップ! 優しさがあるからこそ、リクエストしたい。その気持もわかります。
●ボディカラーなどの選択肢が多い日産+NMCの福祉車両
さて、ここまで見てきた2台。「オーテック オーナーズ グループ湘南里帰りミーティング2023」に参加している車両だけに、もちろんいずれもオーテック架装なのですが、そのオーテックは、2022年4月1日にオーテックジャパンとニスモを統合した新会社日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社(NMC)となっています。
この新会社は、日産の重要な戦略的子会社として位置付けられている強力な存在。
そのメリットとして、福祉車両のグレードや色、オプションなどの選択の自由度が高いというのがあります。他社の同系統の製品とカタログページなどを比較していただくとわかりますが、架装できる幅が広いんです。
できるだけ自分好みの車を最初から作り上げたいというのであれば、日産×NMCの車種の中から選ぶのはアリという気がします。
また、1台目のスロープ車のお話の中で出てきた「ウインチフックホルダー」のように、ちょっとした改良などが細やかに施されるのもNMC。いずれまた機会があればと思いますが、歴代セレナのスロープ車の進化っぷりは豪快です。
そんなこんなで福祉車両としてカスタマイズされた車両のユーザーのお話を伺ってみました。いかがでしたでしょうか?
(古川 教夫)
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