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■1万kmの距離を超えた出会い
イタリアとイタリア車の伝道師、越湖信一さん。とりわけ、深く愛するマセラティについてのユニークなエピソードはどれも味わい深いものばかり。
今回は、10年前に出会った大切なご縁と、そこから繋がる日本とイタリア、そしてマセラティの絆について語ってくれました。
●マセラティ100周年イベントが「初対面」
私は東京とイタリアのモデナを、かなり頻繁に移動しています。すると、滅多にあるわけではないですが、自動車業界の関係者と同じフライトになったりすることもあります。そんな時は大いにハナシも弾みますね。
ところが、縁というものはあるもので、何回もそういう機会に出くわす人物もいるのです。
パリからボローニャ空港へ向かう便で一緒になった“ある”日本人は、「私はボローニャに住む指揮者なんです」と私にCDを渡してくれたのですが、その名前をみてびっくりする私でした。
そう、その人物とは、マセラティ100周年イベントのハイライトとして、京都清水寺を貸し切って開催されたオペラを指揮した、まさにその人であったのですから。その時、私は東京の増上寺をマセラティ ボーラで出発し、清水寺に奉納する茶器を運ぶという役割が与えられていました。言ってみれば、その指揮者と私はそのイベントに深く関わる二人であったのです。
あのブルーに美しくライティングされた清水の舞台で、彼の指揮の元、「蝶々夫人」を楽しんだあの瞬間が蘇ってきました。そんな二人が京都から1万kmほど離れたイタリアで、それも飛行機の中でばったりと出会うのですから。
私の数多くのモデナ詣での道程で、さらに言えば日本人に出会うことは滅多にないのですが、その彼とはこの機会のみならず、何回か出くわすことにもなりました。そしてもっと驚くような出来事が起こったのです。
●モデナ・パヴァロッティ歌劇場フィルハーモニーの音楽監督に
彼の名前は吉田裕史。東京音楽大学指揮科卒、2006年からオペラ大国イタリアを活動拠点とし、2010年に日本人として初めてイタリアのマントヴァ歌劇場の音楽監督に就任しました。続いて2014年にはボローニャ歌劇場フィルハーモニー芸術監督に就いていたのです。
彼が小澤征爾マエストロに感銘を受け、指揮者になることを決心したのは高校二年生の時であるといいます。そして、マエストロにイタリアでオーケストラの芸術監督を務めているという事を報告できたことを誇りに思っていると彼は語ります。
まさに日本とイタリアの文化を繋ぐ重要な人物であり、海外を舞台に活躍する数少ない日本人指揮者の中でも、本場のボローニャ歌劇場で指揮をするとんでもない方であったワケです。
私の第二のホームタウンたるモデナとボローニャは隣町。モデナ、ボローニャ、はたまた東京で私たちはしばしば会食をしたのですが、毎回テーマは「頑張ってくれよ、日本の若者たち」でした。自分だけしか出来ないユニークなことに挑戦すべしというマエストロ吉田のコトバは、私にとってのメンターでもある、マエストロ・ジョルジェット・ジウジアーロの語りとオーバーラップしました。
さて、そんなマエストロ吉田ですが、さらにびっくりしたのは、2022年に、なんとモデナ・パヴァロッティ歌劇場フィルハーモニーの音楽監督へ任命されたことです。
●マセラティを愛したパヴァロッティ
ルチアーノ・パヴァロッティと言えば三大テノールの一人であり、モデナの名士であります。彼はマセラティを愛し、まだ若き時代には苦労して中古のマセラティ・セブリングを手に入れ、大喜びで乗りまわしたというエピソードもあります。
歴代マセラティを愛した彼は、マセラティスタにとっての重要なアイコンなのです。その劇場をマエストロ吉田が受け持つというのですから、モデナとマセラティを愛す私にとって驚き以外の何物でもありませんでした。
●ウクライナに音楽で力を
彼の活躍は留まることを知りません。実は、ウクライナ国立オデーサ歌劇場首席客演指揮者のポジションにも強く乞われ就いていました。ところが、ご存知のようにまもなくウクライナは戦火に包まれてしまいました。
しかし、2023年には、果敢にも彼はウクライナに赴き、戦火でダメージを受けている劇場で指揮を取り、力強く演奏を行ったのです。多くの戦士たちに音楽で力を与えた彼の勇気には脱帽です。
前述した清水寺でのオペラから10年の歳月が流れました。そう、今年はマセラティ生誕110周年のアニバーサリーイヤーなのです。マセラティにとって、今年は実質的な“電動化元年”としてその存在を大きくアピールする年でもあります。マセラティのアニバーサリーイヤーをマエストロ吉田とどんな風に祝うことができるか、私はとても楽しみです。
(文&写真:越湖 信一、写真提供:hirofumi yoshida archive)
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