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■自動車に関する仕事で整備士がオススメな理由が八丈島で明らかに
●これからさらに必要とされるのが自動車の整備士です
世の中にも日常生活にもなくてはならない自動車ですが、安全に走らせるためにはきちんとした整備が必要です。これから先、電気で走ろうが、自動で動く自動車になろうが、車両の整備は必ずつきまとうのです。というより、自動化などが進めば進むほど、とっさの場合など、人間のように臨機応変な対処ができない車両だったり、普段ガソリンスタンドでちょっと診てもらうことがなくなっていく将来のほうがむしろ重要になっていくでしょう。
ところが昨今、整備士の「成り手」はどんどん減ってきているといいます。日本の少子高齢化により、整備士を引退する人も多く、若い世代から整備士になる人が少ない。また、体力勝負で暑かったり寒かったりの労働環境が悪いイメージがあったり、若者の車離れなどが原因とされています。
しかし今回、日産自動車大学校が東京都八丈島で行った「Dr.K Project おクルマ無料点検」に参加した学生さんたちを見ると、そんなに敬遠される職業ではないだろうと実感しました。
●過酷な島で使われる車両を学生が無料点検
まず、このプロジェクトについて説明しましょう。
参加しているのは日産自動車大学校の3年生の学生です。国家資格1級整備士を目指す彼らは、すでに2級整備士に合格しており、基本的な自動車の整備を行う国家資格を持っています。
その学生たちが一般の車両を無料点検します。八丈島で日常使われている車両は、海に囲まれ塩害のため錆びているものや、クネクネしたアップダウンの道路ばかりを走っていたりと、狭い島内で走行距離は増えませんが相当に過酷な条件で過ごしているのです。
学生たちは2級の国家資格を持っているものの、1級試験を受けるべく、日産自動車大学校で日夜勉強や実習、課題などにチャレンジ中で、「普通に使われている誰かの車」には触れたことがありません。
学校の実習用車両は、大体が日常的に使われたこともなければ、不具合に陥ったこともない車両です。ネジ山を舐めてしまったり、錆びつき固着したナットもまずありません。
そんな、なにが起きているかわからない車両と、それを使っている誰か知らないお客さんとともに、初めて対峙する経験値を積むことができます。
島のユーザーは、車を日常の足として使用しており、趣味で愛でていたり、特に関心があって乗っている人は少数派です。毎日の足としているので、余程の不具合が起きない限り、点検してもらったり、お金を払って修理してもらいたいと望む人も多くはありません。しかし、過酷な条件で使っている以上、整備が行き届かずに危険なシーンに出くわすことも十分に考えられるのです。
そんな状況の両者をマッチングすればきっと何かが生まれると、発案したのが自動車ジャーナリストの国沢光宏さん。学生が点検して不具合があれば地元の整備工場を紹介して整備を促す、という流れにすれば、地元業者も喜んでくれるでしょうと、親分肌ならではの国沢さんが一肌脱いでくれました。
国沢さんは、日本の自動車産業や文化を支えるひとつである整備業を絶やさないように協力しようと、町役場との交渉、地元整備工場への声がけなどを積極的にこなしてくれました。
そうして、下見やリハーサルを経て、最初の構想立案から実に1年半を過ぎた2024年2月、ついにおクルマ無料点検プロジェクトは実現したのです。
●点検を通して学生もユーザーからも笑顔が生まれた
会場となったのは八丈町役場駐車場。予約または当日参加の点検希望者が集まってきます。
日産自動車大学校の先生ももちろんお手伝いしますが、参加車両の誘導からお客さんのアテンド、点検作業はもちろん、不具合箇所の説明、お見送りなど、実際に社会に出て経験するような流れを学生たちが行っていきます。
肝心の島の人々の車両ですが、中にはホイールとナットが合っていないものを組み合わせたため、ホイールナットが緩んでる状態で走っていたもの、タイヤのサイドウォールが膨らんで今にもバーストしそうだったもの、直線走行が極端に少ないためタイヤがバイクのタイヤような形状になるまで偏摩耗したもの、エンジンオイルが空っぽで走っていたもの…などなど、点検のやりがいがあった個体がそれなりに参加してくれて、大きな成果に思えました。最終的には48台の車両を点検できたようです。
始めはぎこちなかった学生たちも、段々と笑顔でお客さんを出迎え、熱心に点検したあと、笑顔でお見送りができるようになっていました。
昼食休憩中、学生たちに聞くと、難しいとか大変とかではなく、皆さん「楽しい!」と答えていたのが印象的でした。その楽しい理由について「学校の実習ではエンジンならエンジン、足まわりなら足まわりと、どこらへんの不具合かわかっているけれど、それがまったくわからないで取り組むので、謎解きのようで楽しい」と答えてくれたのにも関心しました。
会場へ視察に訪れていた日産自動車常務執行役員であり日産・自動車大学校理事長も務める神田昌明さんは、「このプロジェクトの話を聞いたときから良い取り組みだなと思っていました。唯一心配だったのは、学生たちがちゃんと一般の人とお話ができるだろうかという点でした。が、今日見ていて、学生も来られたお客様もみんなが笑顔になっていたので安心しました。この取り組みが、整備士不足などに対しても何らかいい影響を与えるのではないかと思います。ぜひ今後も続けていきたいですね」と語ってくれました。
●意外なほど若者は車が好きなことが判明
一日のプログラムを終え、夕食をともにしましたが、ほとんどの学生が車好き。20歳くらいの若者とこんなに車の話で盛り上がれるとは思ってませんでした。漫画、アニメの影響もあるのでしょう、ドリフト好きな子も多く、「こいつが一番いい車に乗ってるんですよ」という子の愛車はS15シルビアだと言います。ミニバンでもSUVでもなく、スポーツカーを若者は好きなんですよ、自動車メーカーの皆さん!
そして、ほとんどの学生が3年生の2月時点で、自動車ディーラーなどに就職が内定しているようです。決まってない子は出来が悪い子ではなく、日産自動車をこれから受験するのだそうです。ぜひ頑張って欲しい!
これから就職先や進学を考えている人やその親御さんには、自動車の整備士という道を検討してみて欲しいです。求人倍率は高く、どの地域でも地元の最大手企業が運営する自動車ディーラーへの就職が可能で、将来の安定も抜群に高い。販売会社の中には海外進出を行っているところもありますし、完全地元志向でも家庭も築きやすい。
そして、自動車のニュースでネガティブな報道をする時に、その理由として「若者の車離れ」とかお決まりのように使っているけど、そんな事無いと思います。車好きな子もたくさんいるし、あとから車好きになる子もたくさんいます。
確かに、我々高齢大人たち世代はほっといても車好きになった人が多かった印象はありますが、じゃあ今の若い子がどんな車なら好きになるのかをもっと考えたほうが良いと思う。スポーツカーだって旧車だって若い子は好きな人多いです。旧車風デザインの車種も、スポーツカーも最近見なくなってきたジャンルですね。
まだまだ自動車を取り巻く状況はやることがたくさんある。自動車整備士の卵(2級を持ってるからひよこ?)の若い子たちと少し長く接して、自分自身がいい意味でとても刺激を受けた今回のDr.Kプロジェクトでした。
日産自動車大学校の皆さん、ありがとうございました!
(文・写真:クリッカー編集長 小林 和久)