ホンダ「WR-V」が正式発表。リーズナブルな新型SUVが上級志向なワケ【週刊クルマのミライ】

■全長4.3mのクロスオーバーSUVが210万円~250万円

ボディサイズは全長4325mm・全幅1790mm・全高1650mm。ホイールベース2650mm、最低地上高195mmも確保。
ボディサイズは全長4325mm・全幅1790mm・全高1650mm。ホイールベース2650mm、最低地上高195mmも確保

リーズナブルな価格帯のクロスオーバーSUVという前評判で話題を集めていた、ホンダの新型SUVモデル「WR-V」が正式発表されました。

注目のメーカー希望小売価格は、209万8800円~248万9300円。発売日は2024年3月22日とアナウンスされています。

価格帯に注目すると、ホンダのSUVとしてはヴェゼルより明らかに手ごろで、ライバルとなるのはトヨタ・ヤリスクロスのガソリンエンジン車あたりになるでしょうか。

より具体的に見ていくと、ヤリスクロス(ガソリンエンジン車/FF)の価格帯は189万6000円~236万7000円となっています。プライスゾーンとしては”いい感じ”に重なりつつ、WR-Vが少々割高な印象を受けるかもしれません。

エンジンは1.5L 4気筒DOHC。最高出力87kW、最大トルク142Nm。トランスミッションはCVTとなる。
エンジンは1.5L 4気筒DOHC。最高出力87kW、最大トルク142Nm。トランスミッションはCVTとなる

しかしながら、ヤリスクロスとWR-Vを比較すると、車格としては同じとはいえないように思えます。

エンジン排気量は同じ1.5Lですが、ヤリスクロスは3気筒で、WR-Vは4気筒エンジンを積んでいます。乗り味としての上級感において、4気筒エンジンが有利なのは言うまでもありません。

また、車体サイズについてもヤリスクロスは全長4180mm・全幅1765mm・全高1550mmとコンパクトSUVの範疇ですが、WR-Vは全長4325mm・全幅1790mm・全高1650mmですから、ひと回り大きな印象を受けます。

ある意味、国内ではライバル不在、といえるかもしれません。

215/55R17 94Vのタイヤを全車に履く。5穴ホイールなのも上級感がある。
215/55R17 94Vのタイヤを履く。5穴ホイールなのも上級感がある

そんなWR-Vは、全長4.3mクラスのボディを持つ上級感のあるSUVながら、日本市場においては手の届く価格帯を実現することを重要なテーマに開発されたモデルだったりもします。

手の届く価格でイメージしたのは「250万円」。

エントリーグレード「X」の価格は約210万円ですが、これはディスプレイオーディオなど必要なアクセサリーを装着した状態で250万円になることを意識した価格設定となっています。

最上級グレード「Z+」の248万9300円という価格からも、「250万円以下でローンチするぞ」という強い意志を感じます。

●開発はタイのHRAP、生産はインドで行っている

インド仕様には6速MTが設定される関係からパーキングブレーキはハンド式となる。
インド仕様には6速MTが設定される関係からパーキングブレーキはハンド式となる

こうしたリーズナブルな価格を実現するために、WR-Vでは開発・生産体制について、これまでにないチャレンジをしています。

開発拠点はタイにあるHRAP(Honda R&D Asia Pacific)で、生産はインドで行っているのです。

これまでHRAPは、東南アジアで販売するモデルの開発ハブとして機能していましたが、このWR-Vは初めて日本向けモデルの新規開発になったということです。同様に、インドの生産拠点も日本向けを作るのは初めてということで、各地のスタッフは非常にモチベーションが高まったというエピソードを聞くとうれしくなりませんか?

一目で広さが感じられるラゲッジスペース。荷室容量は458Lとクラス最大級。
一目で広さが感じられるラゲッジスペース。荷室容量は458Lとクラス最大級

さて、スタイリングやパッケージングが新しいものですが、プラットフォームについては実績あるモデルから流用することでコストを抑えているのも注目ポイント。フロント側は東南アジアで人気のコンパクトセダン「シティ」のフロアを使い、リヤは同じく東南アジア向けの3列シート車「BR-V」のフロアを流用しています。

WR-Vに座ると、フロントはドライバーズカーとして余裕のあるポジションが取れますが、それはセダンベースだからというわけです。また、後席スペースが非常に広いのは、3列シート車の後半部分(2列目/3列目)を、後席とラゲッジに振り分けているのですから当然でしょう。

さらに後席は、あえてシンプルな背もたれを格納するだけのタイプとすることにより、座面長やクッション厚などを確保。200万円台前半のSUVとは思えないほど上級感のあるキャビンを実現しているのも、WR-Vのポイントです。

●後席が上級モデル顔負けの快適性を持つ理由

スタイリングのコンセプトは「MASCULINE&CONFIDENT(自信あふれる 逞しさ)」というもの。
スタイリングのコンセプトは「MASCULINE&CONFIDENT(自信あふれる 逞しさ)」というもの

ホンダの国内ラインナップでいうと、ZR-Vやヴェゼルという兄貴分のSUVモデルに続く末弟的位置づけのWR-Vですが、同じモデルがインドに行くとまったく立場が異なります。

インドにおいて全長4.3mクラスというのは、国産(インド製)の車としては最上級のポジショニングになるといいます。つまりWR-V(インド名はELEVATE)は、インドではミドルアッパークラスのモデルなのです。

当然、後席の乗り心地については厳しいニーズがあるわけで、それに応えるためには、こうしたクッション性に優れたシートは必須というわけです。もちろん、サイズ的にも大柄な人が乗っても不満が出ないだけの余裕が求められます。

前後ともシートはサイズ、クッション性ともに余裕がある。グローバルモデルらしいところだ。
前後ともシートはサイズ、クッション性ともに余裕がある。グローバルモデルらしいところだ

外観からもわかるようにリヤドアが長くなっていますが、ドアを開けても開口部は十分以上のサイズ感。乗降性においてもまったく不満はないでしょう。

後席のエアコン吹き出し口がWR-V全車に標準装備となっているのも、インドにおける位置づけを考えれば納得といえるでしょう。

ところで、インドで生産したから安価にできているわけではないといいます。ホンダの生産能力&開発リソースをグローバル視点で見たときに、WR-Vという商品企画を実現するのにもっとも合理的なのが、タイのHRAPで開発、インドで生産するというものであって、決して労働コストを優先したわけではないのです。

そもそもインドの生産拠点は、2014年から動き出したばかりの非常に新しい工場です。各種設備なども最新で、なおかつ日本向けWR-Vを生産するにあたって、日本の鈴鹿製作所でのノウハウを伝えるなど、ものづくりレベルも上がったといいます。

実際、目前にあるWR-Vを見ても、高い精度で作られていることがわかります。海外生産のホンダ車ということが気になる方は、ぜひ実車をチェックして、グローバル時代の海外生産モデルがどれほど高いレベルにあるのか、確認して欲しいと思います。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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