日本は船のEV化も遅れる? i3用バッテリーを使ったBMWとの共同開発EVボート、TYDE「THE ICON」

Cannes Yachting festival、今年は2023年9月12日(火)~17日(日)まで開催された。1977年に初めて開催され、今年で第46回を迎える。5月のCannes映画祭に並ぶ地中海コートダジュールの海の祭典であり、Cannesに続いて開催される300フィートを超えるスーパーヨットの祭典Monaco Yacht Showと並ぶヨーロッパで最も権威のあるプレジャーボートのショーと言える。Coved-19の影響で縮小されていたショーも今年は通常開催。筆者も20年前に初めて訪れて以来、毎年欠かさずであったがさすがのコロナ禍、4年ぶりの訪問となった。


■BMW i3のバッテリーを用いて海の上でもCO2ゼロのボート

●5月のカンヌ映画祭デビューし、話題はボートショーでピークに

毎年、旧港のVieux Portとカンヌ湾東岸のマリーナPort Cantoの2会場で開催され、今年は15フィート~150フィート艇までの700艇が海上展示と陸上展示された。

セーリングヨットとモーターヨット、モノハルとカタマラン、インフレータブル、今年はEV艇ハイブリッド艇など様々なカテゴリーで時代の最新トレンドが展示され、エキサイティングなイベントになっている。来場者54,000人、参加企業610社、展示ボート数700艇、登録ジャーナリスト592名、展示ポンツーン総距離5kmと壮大である。

EVフォイルボートの可能性は無限であることを見せつける
EVフォイルボートの可能性は無限であることを見せつける

その中で話題は、EVボートのTYDE。「THE ICON」そのデビューは5月のカンヌ映画祭だが、関心はこのボートショーでピークを迎えていた。

驚くのはそのフォルム、既成のボートの概念を超えたカタチ。今回EVビレッジゾーンにそのTYDEはいた。思わず、「なんだこれは?」。モノハル楔形の船型、ガラス張りのインテリア、モダンなリビングがそのまま走るような…。一見してエッジの効いたハウスボート…。しかし、とてもボートとは思えないカタチに驚愕しながら興味津々になり、のぞき込む。

ルーフイーブスから後部デッキに垂直尾翼が!充電ポストでもある
ルーフイーブスから後部デッキに垂直尾翼が!充電ポストでもある

乗船の許可が出て後部デッキから乗り込む。イーブス(ルーフ後部ひさし)からデッキまで、飛行機の垂直尾翼のようなウイングがある。その上部に給電ポストがある。サロンに入る。

ポンツーから見る。これがボートとはとても思えないカタチ。チャレンジングであり痛快だ
ポンツーから見る。これがボートとはとても思えないカタチ。チャレンジングであり痛快だ

まるでガラス張りのモダンリビングに入りこんだようだ。とてもフネの中には思えない。フロントウインドウはなく、両サイドのガラスウインドウが先端に集まり楔形(くさびがた)に。フロアまでの広々とした両サイドのウインドウの外は海面。後部の中央部に操船席が位置している。

これがフネの中と思うか?海上の観光ゴンドラ?これで海の上を走る、それを体験してみたい。3000年のフネの歴史を変える21世紀のメッセージ
これがフネの中と思うか?海上の観光ゴンドラ?これで海の上を走る、それを体験してみたい。3000年のフネの歴史を変える21世紀のメッセージ

車のコンソールのように、32インチタッチディスプレイのマルチモニターがある。もちろん、すべてデジタル表示。ステアリングは半ヘキサゴングリップタイプ。モータースロットルは左右分離のレバー。操船シートにはシートベルトがある。

楔形の船首側には3脚のリビングソファにテーブルが横向きにセットされている。ダイアゴナルで幾何学的なデザインのサイドウインドウやルーフ形状。フネのデザイナーの発想ではない。操船シートに座ると視界は360度パノラマビューだ。乗ったことはないが「まるで宇宙船の中のよう…」な感じに襲われる。

EVドライブのユニットシステムとタンデムフォイルシステム概要
EVドライブのユニットシステムとタンデムフォイルシステム概要

パワープラントはBMW i3のバッテリーを搭載。そのうえEV水中翼システムを持つフォイルボート、つまり水中翼船だ。残念ながら試乗のタイミングを逸してしまったが貴重な内覧はできた。


●新設ボートメーカー「TYDE」とBMWの共同開発

タンデム、ツインドライブのフォイルシステムレイアウト図
タンデム、ツインドライブのフォイルシステムレイアウト図

ドイツの新設ボートメーカー「TYDE」とBMWの共同開発である。全長13.15m、全幅4.50m、重量11t、喫水1.90m、ドラフトフォイリング0.85m。そのサイズは43フィート艇だ。

メイン推進機は、2×100kW電動モーター。バッテリーキャパシティ240kWhの高電圧。チャージ時間5.5h。9年間の容量保証。通常のマリーナの陸電でのチャージ可能。2時間で50%の充電可能。

テクニカルデーター、MAX速度33ノット約61km/h、クルージング速度24ノット。航続距離レンジ50nm約100km。日常の海遊びになんの問題もない。ここまで来ている驚き。カーボンゼロ、EVボートへの動きは欧州を中心に加速度を増している。

この操船席、最先端デジタルインタラクションの集合体だ
この操船席、最先端デジタルインタラクションの集合体だ

操船席の眼前コンソールのモニターは6k解析度の32インチタッチディスプレイ、車同様音声起動システム、ドライブトレーンフォイルシステムのインフォメーション、前方ソナー、360度カメラシステム、AIベースの衝突回避システム、新しい次元の情報の可視化とデジタルインタラクションを可能に。天気予報の更新、チャートナビゲーションの詳細、オーディオ設定、照明の調整etc。車以上に最新トレンドがオンパレードだ。

そのイクステリアデザインはBMWの「Designworks」。インテリアも含めイノベーティブだ。既成概念の打破。単に話題性ではなく無限の可能性を表現する力強いメッセージがある。何といっても類似性を見せないEV艇であり水中翼フォイルボートであることの意味。2基のEVドライブ、タンデムフォイルシステムという最新のハイドロフォイルテクノロジーと電動推進のコンビネーションで、ゼロエミッションの実現と妥協のない乗り心地を実現する意気込み。荒天時の海象でもその制御能力の高さは高評価を得ている。快適なハンドリングと走破性能を発揮する。

アクティブ水中翼技術は高速フォイルを容易にし、バッテリーの航続距離を伸ばしている。タンデムフォイルシステムは、アメリカーズカップ艇のDNAに根差している。高効率なコンピューター管理の新世代のフォイルとラダーの進化は目覚ましい。航空機規格に基づいた制御システムは、海象の様々な地点を毎秒数百回スキャンし、リアルタイムの制御を実現したと。船体ハル設計はGullaume Verdier、競技用のモノハルやカタマランのプロトタイプ設定の世界的リーダーだ。フォイル技術はOceanflight Technologies、現在の水中翼技術のリーディングカンパニーである。

TYDEのファウンダーDr.Christoph Ballinは、TYDEの共同創設者でありマネージングディレクター。電動モビリティの世界的パイオニアTorqeedo Gmbhの共同創設者でもある。もうひとりTYDEの共同創設者Tobias Hoffritzマネージングディレクターは、デザインとエンジニアリングをリードする。陸、水、空での電動モビリティプロジェクトの今までの実績、さらにBMW AGのイノベーションマネージャーやBMWグループ会社Designworksの自動車部門クリエーティブデレクターなどを務めた経歴から、BMWi3のプラントの活用に至っている。

BMWのアイコンであることのアピール
BMWのアイコンであることのアピール

ゼロエミッションへの水上モビリティは、陸上のモビリティのダイナミックな発展に比べてその進化は遅れている。まだ100%化石燃料で稼働の現実。このTYDE「THE ICON」の誕生は意義深い。水中翼技術、エミッションフリーの推進力、環境対応素材へのアプローチ、海の環境保全に強力なメッセージを伝えている。

電動化されたモビリティの先頭に立つという願望に突き動かされて、BMWはTYDEと並外れたコラボレーションを実現し、画期的なボートを誕生させた訳だ。デザイン、テクノロジー、その目的において前例のないものだ。「ラグジュアリーボートの分野に革命を起こす準備ができている」と彼らは語る。

電動モビリティの先頭に立つBMWのプライド
電動モビリティの先頭に立つBMWのプライド

アカデミー賞2度受賞のハリウッドの作曲家Hans Zimmerとのパートナー契約で、モダンなドライビングサウンドが演出されている。スーパーヨットのテンダーに、非日常な水上ボートとしてこのボートの誕生は、間違いなくマリンシーンのネクストステージへの刺激的な指針となるだろう。

日本にはヤマハのHARMO、EVモーターリムドライブ駆動システムがある。出力3.7kw、駆動時間60分~90分。おーい、おいて行かれてしまうぞ。ハイブリッド、水素エンジン、実験艇はできているが、世界に見せつけるゼロエミッションボート、グリーンメッセージを日本から早く力強く発信して欲しいものだ。

山崎 憲治

この記事の著者

山﨑 憲治 近影

山﨑 憲治

1947年京都生まれ。子供のころから乗り物が大好き、三輪車、自転車、バイク、車、ボート。まだ空には至ってはいない悩みがある。
車とプレジャーボートに対する情熱は歳を得るとともに益々熱くなる。
日本人として最も多くのプレジャーボートのテスト経験者として評価が高い。海外のボートショーでもよく知られたマリンジャーナリストである。2000年~2006年日本カー・オブ・イヤー実行委員長。現・評議員。2008年~現在「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。パーフェクトボート誌顧問。
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