ピニンファリーナがデザインした独創的過ぎるヨットの全貌。15億円超のフラッグシップとは【PRINCESS X95】

英国の名門ヨットビルダーPRINCESS Yachtsの最新モデルが日本デビューを果たした。それも95フィートのマキシヨットX95。そのアバンギャルドなフォルムが示すように、既成のプレジャーボートの概念を打ち破り、新たなステージにメガサイズのヨットを導くインパクトが秘められている。


■唯一無二の造形美を手に入れたラグジュアリーヨット

PRINCESS X95のイメージ
Pininfarinaデザインのアバンギャルドなフォルムが際立つ。乗りだしの価格は15億円を下らない

そこにいる。PRINCESS X95、写真で見るより圧倒的な存在感でそこにいる。

横浜ベイサイドマリーナメガヨットバース。全長29.11m、全幅6.77m。ブラックに近いミッドナイトブルーの船体色、メインフロアデッキとほぼ同じ長さの船首(バウトップ)から伸びる2階フロアのアッパーデッキ。

通常はメインフロアデッキの1/3程度の広さに操船席、数名用のソファで構成されるフライブリッジ。その常識を覆す発想で構成されたデッキレイアウト。逆傾斜したフロントスクリーンを持つフライブリッジ操船席(ヘルム)。

このフォルム、このスタイリング、戸惑うばかり。全てが新たな解釈で基礎構造からレイアウトまで理想を求めてチャレンジされた。

PRINCESS X95の俯瞰目イメージ
PRINCESS X95のスーパーフライブリッジ

階下のロアデッキ、メインフロアデッキ、フライブリッジのアッパーデッキ、明確な3層トライデッキ構造。メインデザインはフェラーリなどのスーパーカーデザインで有名なイタリアのカロッツエリア、Pininfarinaだ。

PRINCESS Y85とR35からPininfarinaが加わり、PRINCESSの基本デザインを長年続ける船舶デザイナーBernard Olesinskiとコラボレーションして、トラディショナルなプリンセスデザインを維持しながら新しい造形美を探求した。

その特徴は、メインデッキとその上のアッパーデッキに、ほぼ同じ長さと広さを保証したこと。「フライブリッジをスカイラウンジに」。アッパーデッキ・フライブリッジとメインデッキの内部空間はこのX95のほぼ全長をカバーし、彼らが言う「スーパーフライブリッジ」を作り出した。それを実現させたPininfarinaの解釈が他に類を見ないこのフォルムだ。

2018年PRINCESS Yachtsは追加のニューモデル6艇種の発表と共に、全く新しいコンセプトのモデル、RクラスとXクラスの発表をした。それから2年後、2020年7月にこのX95が進水したのだ。

そのデビューしたての1艇が日本にやってきた。日本のマリンシーンの成熟を見る思い、素晴らしいことだ。

●豪勢なインテリアはすべてビスポーク

PRINCESS X95のメインラウンジ
燦燦と光が差し込むメインラウンジ。左手前方にはギャレー(キッチン)がある

早速乗り込んでみる。船尾のスイミングプラットフォームはトランスフォームし、延長すると同時に水中でも岸壁からの乗りこみに合わせて高い位置でも停止できる技を持つ。

両舷から後部デッキへ。ラウンジソファにバーカウンター、右舷にはアッパーデッキへのらせん階段がある。そのままサロンへ。光あふれる大広間が展開している。

PRINCESS X95のギャレー
家庭のキッチン以上の装備が設えられたギャレー

インテリアは全てビスポーク。オーク材のフロアに真っ白な対面式ラウンジソファ、左舷のソファは半円を描いて円形のテーブルを包みこむようだ。

その前方には10脚のチェアがダイニングテーブルを囲んでいる。左舷前方にはフライブリッジへの階段がある。その右に、シンク、コンロ、オーブンレンジ、大型冷蔵庫、デッシュウオッシャーetc、フル装備のキッチンが用意されている。キッチンからは左舷のサイドデッキへ出ることもできる。

PRINCESS X95のスカイキャビン
メインデッキ前方のスカイキャビン。特別なスイートルーム。ベッドから180度大海原が見通せる

サロン前方中央にはロアデッキへの階段がある。右舷前方、ドアを開けるとそのままスカイキャビンと呼ばれるスイートルームが現れる。通常ならメインの操船室が置かれる船首部、画期的なレイアウトだ。

PRINCESS X95のVIPルーム
ロアデッキ先端のVIPルーム

それに見合う演出が施されている。クイーンサイズのアイランドベッドに、左右のウィンドウだけではなく前方にも船首デッキを見通すウィンドウがある。

180度ラップアラウンド、ベッドから水平線上に広がる大海原を望めるのだ。実に斬新な発想だ。このキャビン、シアタールームにするかディナールームにするかの選択も可能という。

階下のロアデッキには豪華な4部屋がある。船首のVIPルーム、両舷にある2ベッドのゲストルーム、中央部のメインステートルーム。もちろん全ての部屋に専用のトイレとシャワーパウダールームが設えられている。リュクスなビスポークのスイートルーム仕様だ。

●繰船室の前方にジャクジーを設置

PRINCESS X95のヘルムステーション
ヘルムステーション。前方、左右の見通し視界は良好

アッパーデッキへ。ここは前方のパイロットハウス(操船室)と、その背後の広大なスカイラウンジが特徴だ。

オープンスペースはフリースペース、リラクゼーションゾーンが広がる。このフネでは10脚のチェアにダイニングテーブル、L字ソファにリゾートソファが置かれるとともに、デリック(小型クレーン)も用意され、テンダーボート等の搭載も可能だ。

パイロットハウス船尾側はラウンジが広がる。ソファ、テーブルにバーカウンターユニットが用意される。

PRINCESS X95のジャグジー
アッパーデッキ先端に用意されたのはなんとジャグジー。もちろん走行中も入ることができる

前方にはヘルムステーション操船席がある。2脚のキャプテンシートにブラックアウトされたコンソール。5台のタッチパネルマルチディスプレイが並ぶ。

マルチスポークのステアリングホイール、その右手にZFのエンジンコントローラ、ジョイスティック、スタビライザー操作パネルが位置する。パワートレインは環境対応エンジンMAN V12-1900×2基。

ロアヘルムを持たないこのX95、アッパーヘルムのここがメインヘルムとなる。更に特筆すべきはパイロットハウス前方のフォアデッキ。たっぷりとしたU字型ラウンジソファがあり、その前方には見晴らしのいいジャグジーが用意される。フネの前方にジャグジーがある驚き。

ジャグジーの先、メインデッキの船首部にもU字のソファが用意され、あらゆる場所がリラクゼーションゾーンとして設えられている。まさにPRINCESSが導き出す、斬新なマリタイムへのアプローチが始まる。

●ピニンファリーナが描きあげた「水上の夢」

PRINCESS X95の走行シーン
滑空をしない排水型でありながら最高速21~23ノットと高性能を誇る

PRINCESS Yachtsは、1965年に英国南西のプリマスでMarin Projectsとして設立された。世界でも有数のプロダクションボートビルダーに成長し、2008年にはLVMHグループのボートブランドとなった。

現在は6つのクラスがある。6クラス21艇種(Yクラス=Y72、Y80、Y85、Y95/Fクラス=F45、F50、F55、F65/Vクラス=V40、V50、V55、V60、V65、V78/Sクラス=S62、S66、S72、S78/Rクラス=R35/Xクラス=X80、X95)。スーパーヨットのMクラスは消滅し、Xクラスがラグジュアリーヨットの新たなトレンドリーダーとしてその役割を担うようだ。

確実な駆動を伝えながら、静寂の中で加速が繋がる。揺れの無い走行、フィンスタビライザーのもたらす安定性、造波抵抗を抑えるバルバスバウ(球状船首)採用によるスムーズな走行、滑空をしない排水型でありながら、最高速21~23ノットと高性能を誇る。

10ノット1000海里(1852km)のロングレンジクルージングを可能にする、安定感あふれる重厚な走り。そして斬新なレイアウト。

海の夢はネクストステージへ昇華する。Pininfarinaはフネではなく、アバンギャルドなフローティングドリームを見せつけたのかもしれない。

●PRINCESS X95 諸元
全長 29.11m
全幅 6.77m
喫水 2.01m
重量 104トン
エンジン 2×MAN V12‐1900
最高出力 2×1900mhp
燃料タンク 13,400L
清水タンク 1,805L
問い合わせ先
日本総輸入元 プリンセスヨットジャパン
TEL:045-441-7700
日本総販売元 ポートサイド
TEL:045-770-6141

(文:山﨑 憲治 写真:山田真人/プリンセスジャパン)

【関連リンク】

・プリンセスヨットジャパン
https://www.princessyachts-japan.com/

・ポートサイド
https://www.portside-marine.com/

この記事の著者

山﨑 憲治 近影

山﨑 憲治

1947年京都生まれ。子供のころから乗り物が大好き、三輪車、自転車、バイク、車、ボート。まだ空には至ってはいない悩みがある。
車とプレジャーボートに対する情熱は歳を得るとともに益々熱くなる。
日本人として最も多くのプレジャーボートのテスト経験者として評価が高い。海外のボートショーでもよく知られたマリンジャーナリストである。2000年~2006年日本カー・オブ・イヤー実行委員長。現・評議員。2008年~現在「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。パーフェクトボート誌顧問。
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