水面のモビリティ「船」のイチバンはどれ? 第15回「2022日本ボート・オブ・ザ・イヤー」始まる

■現在の「舟遊び」に最適な1艇を選ぶ「日本ボート・オブ・ザ・イヤー」

BOAT OF THE YEAR 2022
BOAT OF THE YEAR 2022

舟遊び、墨田川、船釣り、花見舟、屋形船、宴。江戸の時代のお大尽遊び。特別な時間が流れる舟遊び、水路を使う物流とは水面を共有するが異なる水面のモビリティ、フネで遊ぶ。

プライベートの時間を海の上で楽しむボーティング。日本国内ではフィッシングにボートを使うことが一般的。カジキやツナ等大型魚を狙うトローリング主体のゲームフィッシングから、バス釣り等釣りの必須ギアとしてのボート、様々な艇種がある。アーネスト・ヘミングウエイもルール作りに参加したゲームフィッシングは、マイアミ等アメリカ東海岸からカリブ海、ハワイ、日本、オーストラリア等で行われる。そのボートは「スポーツフィッシャーマン」と呼ばれ30フィートクラスから80フィートクラスまで。

翻って避暑地のシンボル地中海を中心とした「サロンクルーザー」は、ヨーロッパの貴族たちやブルジョアジー、エスタブリッシュメント、セレブリティの避暑の道具・ギアとして発展してきた歴史がある。モナコ、カンヌ、サントロペ、ポルトフィーノに停泊する大小のクルーザーたち、スーパーヨットから50フィートクラスまで。ここ数年では日本国内でもプレジャーボートの傾向に変化が起きている。フィッシングだけではないSUV的な使い方のできる欧州製の中型マルチパーパスボートも大好評。

更にサロンクルーザーの販売艇数が増加し、また大型化の波にいる。フローティング・ビラ、浮かび走る別荘としてのボーティング。マリタイムが富裕層のラグジュアリーライフの象徴となった。

肝心のボートはカーボンニュートラルの流れの中で静かに変革を迎えている。ハイブリッド化などパワープラントの進化、ポッドドライブなどドライブシステムの進化、制御システムの進化、航海計器の進化、ボートも進化変革の真っただ中にある。ここから本題。

●2008年に始まった「日本ボート・オブ・ザ・イヤー」

我が国日本にも、2008年に第1回が始まった「日本ボート・オブ・ザ・イヤー」(BOTY)と言うコミッティがある。「日本カー・オブ・ザ・イヤー」(COTY)と同様に、その年に日本国内で市販されたエンジン付きのプレジャーボート(PWC水上バイクを含む)の中から最も優秀なボートを選定し、そのボートに「日本ボート・オブ・ザ・イヤー」のタイトルを与え、その開発・製造事業者を讃えることで、いっそうの性能・品質・安全向上を促すものだ。もちろん業界の発展に寄与することでもある。

主催者は「日本ボート・オブ・ザ・イヤー」実行委員会。事務局は一般社団法人日本マリン事業協会に置く。この「clicccar」も2022年春から実行委員会メンバーになった。実行委員会はボート専門誌、ボートを積極的に扱う一般紙・誌、放送、Web媒体などの媒体で構成される。選考委員は実行委員の推薦により、実行委員会の審査を経て選任される。

現在、実行委員会は実行委員9名、評議員2名、選考委員20名で構成される。編集者、マリンジャーナリスト、モータージャーナリスト、マリン設計者、デザイナー、作家、タレント、演出家等。ボートに触れる機会が多く、それぞれ表現の場としてのメディアを持ち、ボート所有率が高い。

「日本カー・オブ・ザ・イヤー」と異なるのは、実行委員も選考委員を兼ねること、投票権をもつ。すでに各部門賞、ベストファン、ベストバリュー、ベストフィッシングの投票、特別賞の推薦が始まっている。

2月21日(火)には部門賞の発表記者会見がある。第15回「2022日本ボート・オブ・ザ・イヤー」は本賞の開票・表彰、各部門賞の表彰を3月に行う。「2023ジャパンインターナショナルボートショー」初日の3月23日(木)パシフィコ横浜会場12時30分からメインステージにて開催する予定だ。

今年のノミネート艇は全16艇。世界9ヵ国。28フィート未満は小型艇部門、国産3艇、米国製2艇で計5艇。28~40フィート未満の中型艇部門は国産2艇、ドイツ、スゥエーデン製各1艇、計4艇。40フィート以上の大型艇部門はポーランド、フランス、イタリア、イギリス各1艇、計4艇。PWCは国産2艇、カナダ1艇の3艇。

実はコロナ禍に襲われた2019年以来、マリンは秘かなブームを見せていた。アウトドアでのボーティング、サロン内はプライベート空間と世界中に空前のマリンブームが起きていた。2020年のノミネート艇数は世界12ヵ国から小型艇3、中型艇14、大型艇14、PWC3の計34艇。ラグジュアリーな大型艇ブームが起きていた。2021年は世界8ヵ国から小型艇4、中型艇9、大型艇10のPWC3の計26艇とマリンブームが顕在化していた。

2022年はウクライナ戦争などの影響で、海外からのデリバリーの遅れや建造計画が立てられないなどの事態に陥り、マーケットに回すボートが無い状況に。また、大型艇になればなるほど係留地、マリーナの空きスペースが無い状態が続いている。特に関東圏では顕著だ。売るものがない、置き場所もない状況となり、ブームに陰りが見え始めている。

●数百万から数十億円の船をどう評価する?

昨年夏・秋と、何度も実艇の選考委員試乗会が開かれ、内覧と共に海上での試乗と評価への貴重な体験が重ねられた。それぞれのカテゴリーで、毎年のように最新の機器の搭載やトレンドが変わる。それを見極めるのはなかなか大変だ。小型艇から大型艇迄、視点を確かにしながら投票行動に移す。

課題はある。実艇の試乗、数百万円から数十億円までものボートを海上で走らせて評価する。相当なボート経験がないと評価はできない。中型艇・大型艇になると、まさに浮かぶ別荘、評価の視点幅が広がるのだ。デザイン、イクステリア、インテリア、走行性能。わくわく感、流れる豊かな時間の予感を体感し見極める。

クルマと大きく異なるのは、何台もマーケットに出るものではなく、輸入されても1艇のみとなることも多く、また容易に試乗ができないことも課題だ。ただ喜ぶべきは、近年では欧米での最新トレンドのモデルもデビューして、時差の無いまま輸入される例が増えている。マリン文化の成熟、審美眼の増したオーナーが増えてきた証だ。

何を大切に評価するか、路面と異なりいつも同様のコンディションとは限らない海面、波、風、異なるコンディションで走行性能評価をする。サスペンションの無いボート、船型、船底形状、パワープラント、重心。試乗し、そこから走行性能を読み取る。様々な視点で評価をすることになる。選考委員は持ち点10、ノミネートの各部門カテゴリーから1艇に最大5点を入れ、残り5点を他の艇に振り分ける。最大5点を入れた艇にはその艇を選んだ理由を書かなければならない。真摯な選考をしなければならない。

今年の話題と選考の見どころ。全ノミネート艇は16艇。

小型艇部門は、1.国産のスナガEAGLE156 2.スナガBLUE SHARK 225 Premium 3.アメリカ製BOSTON WHALER230OUTRAGE 4.ヤマハ255XD 5.ヤマハYFR-27HMEXの5艇。

中型艇部門は、1.ドイツ製Hanse Ryck280 2.国産ニュージャパンマリンNSB335 3.スウェーデン製Nimbus365Coupe 4.国産リブポート RIB-Z38L の4艇。

大型艇部門は、1.ポーランド製GALEON400FLY 2.フランス製PRESTIGE460 3.イタリア製SARNICO Spider46GTS 4.イギリス製PRINCESS X95 の4艇。

PWC部門は、1.カナダ製 BRP FISHPRO Trophy 2.カワサキ ULTRA 310LX 3.ヤマハFX LIMITED SVHO 。

更にベストバリュー、ベストファン、ベストフィッシングの3つの部門がある。選考委員は持ち点10点、各部門必ず1艇に5点を入れ残りを配点していく。多くの点数を得た艇が栄誉を得、讃えられる。

さあ、どれを選ぶか悩ましい、真摯な判断力が求められる。第15回「2022日本ボート・オブ・ザ・イヤー」は、もう始まっている。

山﨑 憲治

この記事の著者

山﨑 憲治 近影

山﨑 憲治

1947年京都生まれ。子供のころから乗り物が大好き、三輪車、自転車、バイク、車、ボート。まだ空には至ってはいない悩みがある。
車とプレジャーボートに対する情熱は歳を得るとともに益々熱くなる。
日本人として最も多くのプレジャーボートのテスト経験者として評価が高い。海外のボートショーでもよく知られたマリンジャーナリストである。2000年~2006年日本カー・オブ・イヤー実行委員長。現・評議員。2008年~現在「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。パーフェクトボート誌顧問。
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