タイヤの偏平率とは? 薄けりゃスポーティなだけでない! 意外な影響を農業に与える⁉︎

■薄いタイヤが農業の効率をアップさせる!

●タイヤの厚み「偏平率って何?」

タイヤの偏平率ってご存知でしょうか? 偏平率とはタイヤの幅とタイヤの高さ(厚み)の比率のことで、小さいほど横から見て「薄いタイヤ」と言えばわかりやすいでしょうか。(厚み÷幅)×100で計算され、単位は%ですが、一般には70とか55とかの数字5刻みの記号で表されています。

初期のランボルギーニ・カウンタック。タイヤが分厚い
初期のランボルギーニ・カウンタック。タイヤが分厚い
現在に蘇った最新のランボルギーニ・カウンタック。タイヤがめちゃ薄い
現在に蘇った最新のランボルギーニ・カウンタック。タイヤがめちゃ薄い

205/60R15などのサイズ表記でしたら、60が偏平率で、乗用車やミニバン、SUVなどで平均的な数値といって良いのではないでしょうか。なお、この数字が小さくなると乗り心地が悪くなる傾向にあります。昔を振り返ってみると、1970年代などは偏平率70くらいが初期のランボルギーニ・カウンタックなどスーパーカーに使用されていましたが、現在では70と言うと、かなりおっとりしたクルマを思いうかべますね。

最近では、一般的にスポーツカー、スーパーカーと呼ばれる車種には30とか35といった「薄いタイヤ」が装着されます。ゴムでできているタイヤの厚みが車両の挙動のダイレクト感を損なってしまうから、というのが大きな理由ですが、ファッション的な意味でも、「薄いタイヤ」のほうがカッコいいとされているようです。

けど、「薄いタイヤ」を装着するということは、ホイールのリムが地面に近くなるとも言えるわけで、ホイールをガリッと傷付けたり、あるいは衝撃でホイールを曲げてしまう、なんてことになる可能性も高くなるのです。なので、悪路走破性を高めたクロスカントリー4WD車などが履くタイヤは扁平率が大きめの数値となっています。

というのが乗用車の常識と言って問題ないでしょう。

●偏平率が農業機械と耕作地に意外にも影響していた

ところが、農業機械向けタイヤの偏平率は、そんな常識がまったく当てはまりません。

「AGRIBIB 2」
「AGRIBIB 2」
「OMNIBIB」
「OMNIBIB」
「MULTIBIB」
「MULTIBIB」

例えば、ミシュランの農業トラクター用タイヤには、「AGRIBIB 2」、「OMNIBIB」、「MULTIBIB」などがありますが、それぞれ偏平率が違っています。

「AGRIBIB 2」
「AGRIBIB 2」
「OMNIBIB」
「OMNIBIB」
「MULTIBIB」
「MULTIBIB」

それぞれの偏平率は、「AGRIBIB 2」が偏平率85を中心に80〜90、「OMNIBIB」は偏平率70、「MULTIBIB」は偏平率65となっています。

では、この偏平率の違いは何に影響すると思いますか?

もちろん、作る作物や使う機械によって違うわけですが、基本的には接地圧を考えてのことなのです。

前回の記事でもお伝えしましたが、耕作地は柔らかくしておくことが基本。そうしないと、植物が根を張ることが難しくなったり、水はけが悪くなったり、ミミズや微生物が住めなくなったりして、収穫率が悪くなるし、固くなった土壌は、自然には元に戻らないと言います。なので、重たいトラクターで土を踏み固めたくないのです。

そのため、トラクターのタイヤの空気圧を下げ、接地面積を広くして地面への圧力を分散させる手法があります。けれど、単純に空気を抜けば、タイヤは潰れてしまうのです。

ウルトラフレックステクノロジー
ウルトラフレックステクノロジー

そこで役に立つミシュランの工夫のひとつが、前回お伝えしたウルトラフレックステクノロジーですが、偏平率を下げることでもタイヤを潰れにくくして、低い空気圧でも使用できるようにすることが可能となるのです。

スポーツカーが偏平率を下げて激しい走りに対応するのと、農業トラクターが偏平率を下げて耕作地に優しく走るのとは、対称的です。

「AGRIBIB 2」、「OMNIBIB」、「MULTIBIB」
「AGRIBIB 2」、「OMNIBIB」、「MULTIBIB」

いずれにしても、人間の叡智や経験や技術によって、タイヤを進化させていることに変わりはありません。モータースポーツ、乗用車、トラック・バス、産業用や農業機械まで、すべてのタイヤを前進させるタイヤメーカーの開発者の情熱は留まるところを知らないようですね。開発者のみなさん、大変ですががんばって下さい!

(文・写真:クリッカー編集長 小林和久

 

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
続きを見る
閉じる