日本ミシュランタイヤ、群馬県太田市に本社移転完了。「遠くへ行くなら皆で行け」のことわざのように群馬とともに歩む決意

■メーカーの本社は研究開発、使用拠点に近くあってしかるべき!?

●日本ミシュランはなぜ太田へ?

かかあ天下と空っ風で有名な群馬県に日本ミシュランタイヤは本社を移転しました。これまでの東京都新宿区からなぜ、群馬県太田市に本社を移転したのでしょうか。

日本ミシュランタイヤ株式会社 須藤元 代表取締役社長
日本ミシュランタイヤ株式会社 須藤元 代表取締役社長

日本ミシュランタイヤ株式会社の須藤元代表取締役社長は、コスト面ではないと言いました。コストについてはトントンだとの試算だとか。それよりも、コロナ前は会社に来るのは当たり前でしたが、コロナの真っ盛りは会社に来ないのが当たり前になりました。けれど、それによって、会議ではないガヤガヤするのを失って、それが大事だったことがわかったのです。コラボすることで乗り越えられる、その発見が必要だと感じたので、(東京本社と太田の研究拠点が)一緒になるのが良いだろう、みんなで課題解決を行うのに一箇所に集まるのが良いだろう。と判断したのだそうです。

ちなみに、太田の開発拠点は、世界中の道路で走るミシュランにとってアメリカ、フランスとならぶ最大の開発拠点のひとつなんだとか。太田は日本だけでなく、世界中でバトンを回して研究開発をやっているひとつなのだそうです。これまで社員でも立入禁止の区域などもあったそうですが、これからはそういったものを除いていきシームレスとし、アイデア、意見を一緒になって出し合えるコミュニケーションが増えるようにしていくのが目的なのだそうです。

また、ミシュランはタイヤが本業ですが、乗用車ばかりではありません。飛行機、農業機械などにも幅広くラインアップしますが、もちろん、トラック用タイヤも重要な製品です。群馬は本州の中央付近に位置し、運輸業界の場があり、その実証をしながら運用していくのも、群馬に移転するきっかけになったとか。

そして、産官学が一体となった活動ができるのも魅力と言います。

東京にいたらできないかということ、そんなことはないかもしれませんが、と前置きしながら、現実には群馬県、太田市、前橋市、群馬大学とともに、さまざまな取り組みができていくと言います。

左からミシュランマン、前橋市山本龍市長、太田市清水聖義市長、須藤社長、群馬県山本一太知事、群馬大学石崎泰樹学長、一般社団法人群馬積層造形プラットフォーム鈴木宏子代表理事、ぐんまちゃん
左からミシュランマン、前橋市山本龍市長、太田市清水聖義市長、須藤社長、群馬県山本一太知事、群馬大学石崎泰樹学長、一般社団法人群馬積層造形プラットフォーム鈴木宏子代表理事、ぐんまちゃん

それを表現できたのが、群馬県太田市への本社移転完了報告会には、群馬県山本一太知事、前橋市山本龍市長、太田市清水聖義市長、群馬大学石崎泰樹学長、一般社団法人群馬積層造形プラットフォーム鈴木宏子代表理事ら、錚々たる顔ぶれの登壇でした。

太田市の清水聖義市長は、太田には御存知の通りSUBARUの本拠地やものづくりの企業が多くありますが、外国人の研究者も多い。そうなると、行政では学校を作るなどの対応をしてゆきたいと言います。

群馬大学の石崎泰樹学長は、これからは知識の伝達でなく、学生が課題を発見して解決する力を発揮するのが大事。ミシュランの課題解決型の取り組みが、グローバルな実社会で役立つコミュニケーション力を育て、次世代のイノベーションリーダーを養成できるのではないか、と言います。

現在、須藤社長をはじめ、太田サイトには東京の社員およそ150名のうち100名が異動となり、そのうち20名が既に群馬に引っ越してきているそうです。また、来春にはお子さんの入学とともに引っ越してくる社員もいるとか。また、新宿から毎日通勤用のシャトルバスが発着しており、福利厚生も十分に考えられているのだそう。

すでに太田市に住んでいる須藤社長は、いまのところ通勤時間が非常に短いのがとてもありがたいといいます。もちろん、自動車通勤だそうです。

計画中のコラボレーションスペースの模型
計画中のコラボレーションスペースの模型

今後、太田サイトには、その広い敷地の一部に、コンテナを組み上げたようなコラボレーションスペースの設置をするそうです。そこには、コーヒースペースやプレゼンができるステージがあったり、会議室ではなくみんなで話す場となり、不特定多数と話す場となることを目指していると言います。都内ではそういった良い意味での無駄なスペースを捻出するのは難しいですよね。

日本ミシュラン本社移転のニュースを見たときは日本で昔から言われる「都落ち」という言葉が失礼ながら頭に浮かびました。けれど、話を聞いているうちに納得することばかりです。群馬県には大型量販店のコストコが出店し、地元行政とコラボして話題にもなりました。

ドライブが楽しくなるようにとできたミシュランのレストランガイド
ドライブが楽しくなるようにとできたミシュランのレストランガイド

大企業であるメーカー本社が、開発拠点や製品の使用拠点近くに本社を構えるという、考えてみれば当たり前のことですが、なかなか実現する日本企業は多くありません。リクルートの意味で、いい人材を集めるには東京に本社がないと不利だという話も聞きますが、いざ、メーカーに就職して地方の開発拠点などで暮らすと、時間にも精神的にも豊かな生活ができて住めば都だという話も聞きます。

須藤社長は最後に、常日頃から社員にも伝えているアフリカのことわざ「早く行くなら一人で行け、遠くへ行くなら皆で行けという」例えを引用し、これから群馬県に根を下ろして、ここで仲間を増やしてみんなで邁進していくのが日本ミシュランの新たな旅立ちだと締めくくりました。

今回の日本ミシュランの本社移転が、いくつかの他のメーカーの考え方を変えて、ゆくゆくは日本の地方都市の発展に影響を与えることにはなるかもしれない、と思いました。

(文・写真:クリッカー編集長 小林和久)

日本ミシュランタイヤ所在地:〒373-8668 群馬県太田市植木野町880

この記事の著者

編集長 小林和久 近影

編集長 小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務める。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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