■見過ごしならない新機能が光る、CX-60の室内空間
CX-60リアル試乗、今回のユーティリティ編は星沢しおりさんとともに室内空間全体に目を向けます。
●室内空間
・前席居住性
これだけ室内幅が広ければ(1550mm)、運転席に座っても身体のどこかが内装材に触れるような座り方を余儀なくされることはなく、左を向けば助手席も左ドアミラーも「あーんなに遠い・・・」と思うほど向こうにあります。いまのひとが唯一違和感を持つとしたら、足元左の壁でしょう。CX-60の駆動ベースは、とっくに少数派になっている後2輪駆動のため、プロペラシャフトを通すトンネルのために盛り上がりが大きくなっている・・・ひとによっては左足に窮屈感を抱くかも知れません。
筆者はシート高さを最上位にして使っていましたが、その位置で頭上クリアランスは座り直しをして頭が天井にぶつからない程度。これはちょうどいいのですが、なぜか高い位置にいることを感じさせないシートでした。どのみち多くのゴンドラ駐車場には入らない全高1685mmなのだし、SUVを名乗るならもうちょい最低地上高を上げて(現状175mm)ボディごと持ち上げて見晴らしよくしてもいいんじゃないか。乗っている間じゅう、そう思いました。
・後席居住性
一般に室内の平面方向の広さはホイールベースとトレッドで決まり、4つのタイヤの間隔が長いほど室内面積が広くなる・・・ということになっています。CX-60は絶対的には広いものの、ホイールベース2870mm、前後トレッド1600mmばかりの数字から抱く印象ほどには広くはありません。235/50R20という幅広&大径サイズを収めるホイールハウスがそれなりに室内を侵食しているためです。ホイールベースやトレッド値の大小が直接室内の広さを決めるわけではないことがわかります。
したがって、後席に座ったときのフットスペースも外から見る巨体の印象ほどではありません。ただ、筆者は乗車頻度が少ない後席なら足元空間はほどほどにし、いっそ前席から振り向き、後ろに置いた荷をつかめるようにしたほうがいいという考え方をしているので、不満はありませんでした。
想像していたよりはるかに小さかったのはフロアトンネルの盛り上がり。むしろ床を上げているので小さいのでしょう。
・前席シート単体
シートサイズはたっぷりしています。表面材は合皮張りで表面に突っ張り感がありましたが、たぶんまだ新しいクルマだからで、乗り続けているうちにいくらかでも伸びればなじむでしょう。
頭部保護基準を満たすためには仕方ないのでしょうが、最近のクルマの例にもれず、「何もここまでしなくとも」と思うほどヘッドレストが大きいので、バックするのに後ろを振り向いた際はけっこう目の邪魔になります。
・パワーシート
「いつかはクラウン」じゃありませんが、この車両には、筆者がいつかほしいと常々思っているパワーシートがついていました。スライド位置にしてもバックレスト角にしても、「こことここの間がいいのに」と思うことがありますが、その点、パワー式なら無段階。故障すると修理費が高そうなのはわかっていても、ほんと、お好みドンピシャ位置で止められるので、あるほうがありがたいパワーシートです。
単なる電動化なら魅力半減。試乗車の場合は、「運転席10wayパワーシート&ドライビングポジションメモリー機能(シート位置/アクティブ・ドライビング・ディスプレイ/ドアミラー角度)」と「助手席10wayパワーシート」がついていました。
・ドライビングポジションメモリー機能
10人いれば10とおり、100人いれば100とおりとなるドライビングポジションを2名分、リモコンキーと併せてクルマに覚え込ませておくことが出来ます。
前述どおり、記憶項目は運転席シートのスライド&シートバック&高さ、アクティブ・ドライビング・ディスプレイ位置、ドアミラー角、ハンドル位置の6項目を、例えば父ちゃん用、母ちゃん用とで別個に記憶。
セット法は次のとおりです。
<セット法>
1.車両電源ON。
2.運転席シート、アクティブ・ドライビング・ディスプレイ、ドアミラー角度、ハンドル位置を好みの位置にセットする。
3.音が鳴るまで「SET」ボタンを押す。
4.音が鳴ってから5秒以内にポジションメモリースイッチ1または2、記憶させたい側を押す。リモコンキーに記憶させるときはリモコンの解錠スイッチ(アンロック)を押す。
何をどの位置に動かしていようと、1または2を押せばセットした位置に復帰します。
★ドライビングポジションメモリー機能・バカバカしいけど便利で横着な使い方
CX-60だろうがなかろうが、家族や友人を乗せることはあっても、運転するのはいつでも自分ひとりという愛車が多いでしょう。これじゃあもうひとり分のメモリー機能がもったいない。
というわけで、取扱説明書には載っていない(載るはずがない)、筆者が考えたメモリー機能の横着な使い方をご紹介しましょう。
自分用のポジションをふたとおり記憶させるのです。
スイッチ1には運転ポジションを記憶させる、本来の使い方の「真っ当モード」。スイッチ2には、ハンドルは最上位の高さ、テレスコピックはいちばん奥、シートは最低位置に下げ、背もたれも最大限に倒し、運転席スペースをできるだけ大きくする「仮眠モード」。
通常は「真っ当モード」で運転し、長距離運転で疲れ、サービスエリアなどでちょっとひと眠りしたいときには「仮眠モード」にする。目が覚めたらまた「真っ当モード」に。パワーシートは動作が遅く、その間スイッチを押し続けていなければならないのが欠点ですが、このようにメモリーしておけば、シートに身を委ねたまま、大きな動きを要するセッティングもボタンのワンタッチですませることができます。
筆者は借りたクルマなのにこのような使い方をしていました。そしてメモリー消去するつもりがそれを忘れたまま返してしまいました(マツダの方、ごめんなさい)。以上。
・ランバーサポート
長い距離を乗っても疲れを自覚することのないシートだったのは、基本形状が優れているからでしょう。ならば不要ではとも思うのですが、このシートには電動ランバーサポートもついていました。昔からある機能ゆえ、いまさら紹介しているメディアもないので、ここであらためてお見せします。
見た目には変化が少ないように見えますが、座った身に違いは大きく、最大膨張時は痛くなるほどに腰部を押し付けてきました。もともとのシートバックで腰部支持に不足を感じるひとは活用するといいでしょう。
・ドライバーパーソナライズ(ドライバー・パーソナライゼーション・システム)
カタログ、装備表、CX-60サイト・・・同じクルマの情報源なのにそれぞれで呼び名が異なるシステム。
こいつはすげえぞ! 上記10wayパワーシートのメモリー機能は、各部の調整とその記憶操作を自前で行うものでしたが、それらとは別に、こちらは身長と目(正確には眉間らしい)の位置からドライバーの体格を推定認識し、そのひとに適したシートポジション、ハンドル&テレスコ位置、アクティブ・ドライビング・ディスプレイ位置、ドアミラー角度をクルマのほうが調整&記憶してくれます。
ドライブポジションばかりか、車両設定や、オーディオや空調の操作からドライバー個々の好みを事前の顔認識と併せて学習、以降はドライバー乗車後のドア閉時に顔認証を行い、運転者ごとに設定を復元します。学習項目は250以上、記憶できるのは6人分までだって。
こちら、マツダのCX-60サイト、またはYoutubeのマツダオフィシャルチャンネル内「MAZDA CX-60 パーソナライゼーションシステムの自動ドライビングポジションガイドとはどういう機能ですか?」のタイトルで紹介しているので、興味のある方はごらんあれ。
<セット方法>
1.マツダコネクトから「ドライバーパーソナライズ」を呼び出す。
2.「ドライバーの新規登録」を選択。
3.身長を入力する。
4.調整各部を把握したドライバーに合わせてクルマが調整し、それでよければ「確定」を選択して完了。しっくりこなければ自分で調整する。
5.顔登録を行う。
6.必要なら記憶情報に名前やアイコンなどを設定をする。
7.すべて完了。
一連の流れを写真で見るとこのようになります。ちょっと写真数が多いですがごらんください。
体格や顔認証は、マツダコネクト画面右のドライバー・モニタリングカメラで読み取られ、このカメラはドライバー異常時対応システム(DEA)やスマート・ブレーキ・サポート(SBS)などにも用いられます。
取扱説明書に記載はありませんが、画面左の黒い部分は、夜間のドライバー姿勢の監視の補助に使う赤外線ランプでしょう。
余談ですが、人間の目に見えない赤外線の光も、デジタルカメラを通すと見えるようになります(ほんとうは目を凝らせば肉眼でも見えるんだけどね)。テレビでもエアコンでも何でも、何かのボタンを押した状態のリモコンの赤外線送信部を、カメラやスマートホンのレンズで映し、液晶で見てごらん。薄紫の光が灯っているのがわかるよ。
・後席シート単体
前席もそうですが、クッションも背もたれも分厚く、室内幅いっぱいまでびっちり詰め込んでいます。クルマのサイズほど室内が大きく感じないのは、シートがむやみに厚いのも一因だと思います。シートなんか確かな着座感が得られれば厚紙で造ってもいいとさえ思っていますが、この前後シートとも、シートバック厚みはいまの半分にすれば広さ感が増すでしょう。荷室だってもっと大きくなる。
調整機構といえば背もたれにリクライニング機構が与えられている程度でスライドはなし。仮にこの位置から後ろにずらしても天井が下がっているので頭上クリアランスが減り、狭く感じるようになるだけでしょう。
むしろここを最後端とする前席スレスレまでのスライド機構があれば、後ろに置いた荷を前席からでもつかみやすくなっていいと思いますが、前述したとおり、CX-60は前後席間がそれほど大きいわけではないので、そう不便はありません。
・前席乗降性
フロントガラスの車室への傾きが大きい(=フロントピラーが寝ている)ため、のけぞり気味に、そして頭をかがめ気味にしての乗降となります。
だいたい、開口部の斜辺や上辺は直線の折れ線であるべきなのに、フロントピラー根元から鴨居を経てセンターピラー上端までに至るまで、1本の円弧なのが開口寸法を狭めています。このラインのオフセット形状となるドア枠に囲まれたドアガラスはなお小さくなり、「駐車時に窓から顔を出すとき(車庫入れ編)」も枠に頭をぶつけることにつながっているわけです。ピラーをもうちょい起こしてもいいんじゃないかな。
・後席乗降性
こちらは下降するルーフラインのせいで、前席の場合とは別の理由でかがみ気味での乗降となります。ただ、ちょいかがめばいいだけのことなので大した問題ではありません。
何よりも気になったのはドアの厚みです。測ればよかった。このクルマ、ドアの厚みたるや相当なもの。ことリヤドアの場合、その最後端はリヤタイヤハウスに半分載っかった位置にあり、フロントドアの場合よりも乗員のなお後ろ寄りになる・・・この最後端が、内張りも含めたドア厚みの陰に隠れて室内側からまったく見えないのです(写真も撮っときゃよかった)。
写真はひろい駐車場で撮っているのでためらうことなくドア全開にしていますが、実際は横に壁ないしクルマがある場での開閉になるでしょう。中からドアを開ける際は、隣のクルマに最初に接触する後端位置を予測する必要があります。
・アシストグリップ
アシストグリップは4つ。運転席にも備えるクルマが少しずつ増えていますが、たいへんけっこうなことです。ハンドルがあるから不要でしょ? とでもいわんばかり、運転席にはないのが普通でしたが、乗り降りや座り直しをするのにはあったほうがいいに決まっています。
いつもなら次は空調/オーディオ解説になるはずですが、シートにはすっ飛ばすには惜しい機能が盛り込まれており、シート説明に多くを割いたので、空調/オーディオ解説は分割し次回まわしとします。
(文・写真:山口尚志(身長176cm) モデル:星沢しおり(身長170cm))
【試乗車主要諸元】
■マツダCX-60 XD-HYBRID Exclusive Modern〔3CA-KH3R3P型・2022(令和4)年8月型・4WD・8AT・ロジウムホワイトプレミアムメタリック〕
★メーカーオプション
・ドライバー・パーソナライゼーション・システムパッケージ 5万5000円(消費税込み)
・パノラマサンルーフ 12万1000円(同)
・ロジウムホワイトプレミアムメタリック特別塗装色 5万5000円(同)
●全長×全幅×全高:4740×1890×1685mm ●ホイールベース:2870mm ●トレッド 前/後:1640/1645mm ●最低地上高:180mm ●車両重量:1940kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.4m ●タイヤサイズ:235/50R20 ●エンジン:T3-VPTH型(水冷直列6気筒DOHC24バルブ直噴ターボ) ●総排気量:3283cc ●圧縮比:15.2 ●最高出力:254ps/3750rpm ●最大トルク:56.1kgm/1500~2400rpm ●燃料供給装置:電子式(コモンレール) ●燃料タンク容量:58L(軽油) ●モーター:MR型 ●最高出力:16.3ps/900rpm ●最大トルク:15.6kgm/200rpm ●動力用電池(個数/容量):リチウムイオン電池 ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/21.2/22.4km/L ●JC08燃料消費率:- ●サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:505万4500円(消費税込み・除くメーカーオプション)