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■冒険心を掻き立てる「人馬一体」感が魅力
スポーティな走りや絶妙なアシスト力などで、街乗りからアウトドアのレジャーまで、幅広いシーンで楽しめるのが、ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)のe-バイク(スポーツ電動アシスト自転車)「YPJ」シリーズ。
オンロード向けはもちろん、オフロード向けにも軽快な走りを満喫できる多様なモデルをラインアップしますが、中でもシリーズのフラッグシップと呼べるのが、E-MTB(電動アシスト式MTB)の「YPJ-MTプロ(YPJ-MT Pro)」です。
モーターサイクルから着想を得たという独自のデュアル・ツインフレームや、さまざまな状況下で高い安定性とエキサイティングな走りに貢献する前後サスペンション、パワフルさと滑らかなアシスト力を持つパワーユニットなど、長年バイクを作り続けているヤマハが、その経験や技術を余すことなく投入したのがYPJ-MTプロ。
マウンテンバイクの経験やスキルを持ち、オフロードでの冒険的なライドを楽しみたいライダーに最適なモデルとして、2020年の発売から根強い人気を誇ります。
そんなYPJ-MTプロに2023年モデルが登場しました。新型では、パワーユニットやフロントサスペンション、ドライブトレインなどを刷新。オフロードでの走行性能をさらにアップしたといいます。
では、実際に、新型はどんな走りを楽しめるのか? MTB専用コースで試乗してきました。
●独自のフレーム構造で高い悪路走破性を実現
YPJ-MTプロは、前述の通り、2020年に登場したYPJシリーズのフラッグシップです。
大きな特徴は車体に独自の「ヤマハ・デュアル・ツインフレーム」を採用すること。これは、メインフレームの上下(トップチューブ/ダウンチューブ)が、それぞれ2本に分かれた構造を持つフレームです。
2本のトップチューブの間にリヤサスペンションを配置することで、シート高や地面からのトップチューブ上面の高さ(スタンドオーバーハイト)を低減し、セクション途中などでの足着き性を向上。
さらに、バッテリーを2本の閉断面のチューブで挟み込むレイアウトとしたダウンチューブなどが、車体剛性と最適な重量バランスを両立することで、操縦性や取り回し性の向上などに貢献します。
その2023年モデルでは、新型ドライブユニット「PW-X3」を採用。先代モデルで採用していた「PW-X2」と比べ、投影面積で約20%小型化、約10%の軽量化を実現しています。また、最大トルクも80N・m→85N・m(いずれもエクストラパワーモード時)にアップし、より強い走りを実現しています。
さらにフロントサスペンションには、アウターケースの剛性をさらに高めた「ROCKSHOX LYRIK SELECT」を装備。ドライブトレインには、11速から12速とさらにワイドレシオ化した「SHIMANO M8100 XT 12sp」を採用するなど、ライディング性能の向上に最適なMTBコンポーネントを装備しています。
ほかにも、コンパクトなサイズで、よりライディングに集中できる新設計のスイッチ&メーターの「ディスプレイEX」も装備。バッテリー容量とアシストモードが一目で分かるカラーLEDインジケーターの採用などで、よりライディングに集中することを可能としています。
●急坂も軽快に走れるパワフルなアシスト力
そんな新型YPJ-MTプロに早速試乗。ちなみに、このモデルには3つのサイズがありますが、身長165cm・体重59kgの筆者は、Mサイズ(全長1925mm×全幅790mm×サドル高830〜1090mm)を選択しました。
まずは、サドルの高さを調整。このモデルには乗車したままサドル高を調整できる「ドロッパーシートポスト」が付いているので、とても便利です。
たとえば、スタート時や信号などでストップ&ゴーがある街中などでは、サドルの高さを最も低くして、足着き性を最良な設定にしておきます。そして、ペダルを力強く漕ぎたいときになどには、ハンドルバーに取り付けたレバーを操作するだけで、サドルの高さを好みの位置まで上げることが可能。
なお、再びサドル高を下げたい時は、同じくレバーを操作しサドルをお尻で下げればOKと、状況などに応じた高さ調整ができるのです。
サドル位置を調整後に、コースにある登り坂へトライ。よりトルクフルになった新型ドライブユニットのPW-X3が、人力だけでは絶対に登れないような急な坂でも、力強いアシストをしてくれることで、軽快かつ楽に走ることができます。
ちなみに、このモデルは、5パターンのアシストモードを選ぶことができます。
アシスト力の強さ順に
「EXPW(エクストラパワーモード)」
「HIGH(ハイモード)」
「STD(スタンダードモード)」
「ECO(エコモード)」
「+ECO(プラスエコモード)」
を用意。さらに、「アシストオフ」も可能です。
加えて、HIGH、STD、ECOの3モードを、状況に応じて自動選択してくれる「A(オートマチックアシストモード)」も搭載。これがなかなか秀逸で、平坦路ではアシストを抑え、急な坂道ではパワーを高めるなど、まるでライダーの心を読んでいるかのような細かいアシスト制御を自動で行ってくれるのです。
これがあれば、走行中にアシスト力を変更する手間が省け、ライディングに集中することが可能。特に、初めてのMTBコースやトレイルロードなどでは、路面の状況や曲がり方、アップダウンなどを把握するだけで精一杯。実際に、今回筆者も50分間の試乗時間のすべてをこのモードにすることで、存分にオフロードランを楽しむことがきました。
●下りのスラロームで絶妙なハンドリングを発揮
次はスラロームへ。右左に曲がっていて、コーナーにはバンクもある下りのコースを走らせてみて、特に感じたのが、サスペンションの良さ。特に、新型のフロントフォークは、ギャップを越えるときなどの安定性が高く、剛性感も満点です。
また、前後サスの硬さや設定などのマッチングも絶妙。たとえば、下りコーナーでハードな減速などをする時でも、車体が必要以上に前のめりになることがありません。さらに、コーナー立ち上がりから次のコーナーへの切り返しも軽快で、2輪車ならではの気持ちいいライディングを堪能できます。
まさに「人馬一体」。コーナーを曲がるのが楽しいオートバイなどに対し使われる言葉ですが、YPJ-MTプロの絶妙なハンドリングは、それと同じ気がします。そして、そうした扱いやすい特性は、より軽量コンパクト化した新型パワーユニットなども貢献しているのでしょう。
余談ですが、このモデルに乗っていると、よりハードなオフロード走行にも挑戦したくなります。といっても、筆者は50代後半のアラカン。ある程度の自制心も持たないと、体がついてこず、大けがをしてしまいそうですが、体力がありMTBのスキルも高い若いライダーなら、冒険心をかなり掻き立てられそうですね。
●前後ブレーキの扱いやすさも好印象
さらに、前後ブレーキのコントロール性も抜群です。特に、フロントブレーキはかなり強力な制動力を持ちますが、レバーのタッチがとってもリニア。握る度合いに応じて制動力を発揮するため、ガツンと掛けすぎて前輪がロックし転倒するといったことは皆無です。
また、リヤブレーキは、後輪をあえてロックさせ滑らせることで向き替えをするブレーキターンなども、やりやすい適度な効きを発揮してくれます。
ほかにも、シンプルな新型のメーターは、バッテリー残量やアシスト力といった、必要最低限の情報のみを表示するシンプルな構成なのも好印象。
特に、ハードなオフロードを走る際は、メーターを見ている余裕なんかほぼありませんから、ミニマムな表示で十分。そういった意味で、YPJ-MTプロは、まさに悪路走行での走破性や使い勝手に特化した装備が魅力のモデルといえるでしょう。
●30台限定の特別仕様車も登場
ちなみに、YPJ-MTプロには、30台限定の特別仕様車「YPJ-MTプロ 30thアニバーサリー(YPJ-MT Pro 30th ANNIVERSARY)」が、2023年7月31日(月)に発売されます。
これは、ヤマハが、1993年に電動アシスト自転車の初代「パス(PAS)」を、世界で初めて商品化してから2023年で30年を迎えたことを記念したモデルです。
大きな特徴は、特別限定カラーリングと記念エンブレムを備えること。ハイポリッシュシルバーの「Factory Silver」というカラーが、力強いフレームの質感を演出。ロッカーアームなどフレーム2ヵ所にはブルーのアクセントも施すことで、ヤマハ製オフロードバイクとのリレーションも感じさせる仕様になっています。
さらに、フレームのトップチューブには、30周年記念エンブレムを装備。シートチューブには「30th Power Assist System」のロゴも施すなどで、特別感を演出しています。
YPJ-MTプロの価格(税込)は、スタンダード仕様が74万8000円、YPJ-MTプロ 30thアニバーサリーは75万9000円です。
ちなみに、30thアニバーサリーは、前述の通り30台限定のため抽選販売となります。応募は2023年6月1日(木)〜6月30日(金)の期間に、全国のYPJプロショップで受け付けを行い、抽選結果は申し込んだショップから2023年7月中旬までに連絡されるそうです。
(文:平塚 直樹/写真:堤 晋一)