毎月約2.6万台ペースで売れているホンダNシリーズが累計350万台達成【週刊クルマのミライ】

■ホンダの「N」シリーズは新世代軽自動車

2022年度も日本一売れた「N-BOX」。年度の新車販売台数において軽四輪車では8年連続トップの絶対王者だ
2022年度も日本一売れた「N-BOX」。年度の新車販売台数において軽四輪車では8年連続トップの絶対王者だ

2011年にホンダがN-BOXを出したときのリアルな空気を覚えている人からすると、現在のN-BOXの売れ行きを自動車業界は予想できていなかったと総括できるかもしれません。

当時、軽自動車はスズキとダイハツが二強で、ホンダの各モデルは軽自動車マーケットにおいてほとんど存在感を示せずにいました。

Nシリーズが誕生する直前のホンダ軽自動車といえば「ライフ」や「ザッツ」といったハイトワゴンになりますが、それらが同カテゴリーのワゴンRやムーヴと対等の売れ行きを示していたかといえば、正直答えはノーになります。

Nシリーズを乗り比べ、コストパフォーマンスも含めて考えると、もっともバランスが取れているのがN-WGN。ただし思ったほど売れてはいない
Nシリーズを乗り比べ、コストパフォーマンスも含めて考えると、もっともバランスが取れているのがN-WGN。ただし思ったほど売れてはいない

しかし、ここ10年でホンダの軽自動車に対する市場のイメージは一変しています。

ホンダの新世代軽自動車「N」シリーズのけん引役であるN-BOXは、2022年度(2022年4月~2023年3月)における販売台数が20万4734台であり、これは登録車を含む新車販売台数におけるナンバーワン。軽自動車だけに限れば、8年連続での年度販売トップの実績を残しています。

2011年にN-BOXが誕生したときの「キワモノ」感を覚えている人からすると隔世の感もあるでしょう。

初代N-BOXの誕生時に掲げられたキャッチコピーは「NEW、NEXT、NIPPON、NORIMONO」というものでした。日本専用の新世代の乗り物としてホンダの新世代軽自動車「N」シリーズは生まれたというわけです。

●各モデルの累計販売台数は?

というわけで、N-BOXは初代からの累計で200万台以上を販売。Nシリーズ全体としても2023年3月末時点で累計350万台を達成するほどの大ヒットシリーズとなりました。達成までにかかったのは135か月といいますから、Nシリーズは毎月約2.6万台のペースで売れてきたことになります。

Nシリーズ各モデルの累計販売台数と集計した販売期間は以下のように発表されています。

N-BOX:236万8450台(2011~2022年度合計)
N-ONE:29万6476台(2012~2022年度合計)
N-WGN:68万7812台(2013~2022年度合計)
N-VAN:17万547台(2018~2022年度合計)

2012年の誕生から、基本的に外観を変えずに進化しているN-ONEは定番モデルとなっている
2012年の誕生から、基本的に外観を変えずに進化しているN-ONEは定番モデルとなっている

大まかにいって、N-BOXが236万台、それ以外の3モデルが合計114万台で合わせて350万台といったイメージ。

販売期間の短いN-VAN(商用バン)はまだしも、Nシリーズとして2番目に登場したN-ONEが累計30万台程度しか売れていないというのは、10年以上の間、N-BOX一本足打法で、ホンダの軽自動車が売れているという状況を数字が示していると感じます。

それにしても、これほどN-BOXが売れ続けているのはなぜなのでしょうか。

●軽自動車規格が変わらない限りN-BOXのトップは不変?

Nシリーズのビジネスモデルが「N-VAN」。FFベースの低床バンは一定の支持を集めている
Nシリーズのビジネスモデルが「N-VAN」。FFベースの低床バンは一定の支持を集めている

2011年、初代N-BOXが誕生したとき、ホンダの軽自動車開発はある意味で不退転の覚悟が求められる状況だったといえます。

それまでシビックなどを生産してきた鈴鹿製作所の稼働率が落ちてきており、なんらかの手を打つ必要がありました。輸出を増やすことも厳しいといえますから、鈴鹿を復活させるアイデアとして生まれたのが、鈴鹿で軽自動車を作ること。

当然ながら、それまで鈴鹿で作ってきた台数に匹敵するボリュームが必要で、つまりホンダのNシリーズは軽自動車市場において圧倒的にシェアを拡大することが絶対条件となったわけです。

その中心となったエンジニアに共通していたのが、圧倒的なパフォーマンスで席捲した第二期ホンダF1に関わってきたという経験であり、そのうちの一人からは「(軽自動車という)レギュレーションの中での勝負ですから、モータースポーツと共通しているところがあります。レギュレーションを研究し尽くして、どうすれば勝てるのかを考えた結果が、N-BOXを生み出したのです」といった話を聞いたことがあります。

思えば、現在の軽自動車規格というのは1998年秋から変わっていません。モータースポーツであれば、圧倒的勝者が現れると興行としてのバランスをとるためにレギュレーションを変えることはありますが、軽自動車規格というのはエンターテイメントではありませんから、そうした理由で変わることは考えられません。

軽自動車規格が変わらない限り、N-BOXのアドバンテージは維持され続けるのかもしれません。

ただし、軽自動車規格が変わらないとしても、電動化トレンドが軽自動車マーケットを変えてしまう力を持っていることは確実です。はたして、軽自動車が当たり前のようにEVとなる時代においてもホンダNシリーズは他社をリードしていられるのか、それとも勢力図が変わるのか。

ユーザーとしては、競争によってリーズナブルで乗りやすく、安全な軽自動車が増えることを期待したいといったところかもしれません。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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