日産「エクストレイルFCV」国内の公道試験開始を発表。走行試験を行い、その2年後にリース販売を開始【今日は何の日?12月10日】

■高圧水素式の固体高分子型FCを搭載したエクストレイルFCV

2002(平成14)年12月10日、日産自動車が燃料電池車「エクストレイルFCV」(Fuel Cell Vehicle/水素燃料電池自動車)の国土交通省大臣認定を取得し、国内の公道試験を開始すると発表しました。

日産のFCVは、中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム2005」に基づいて開発され、トヨタとホンダが進めているFCVに対抗する狙いがありました。

2002年に国交省大臣の認定を取得した日産のエクストレイルFCV
2002年に国交省大臣の認定を取得した日産のエクストレイルFCV

●日産のFCVの始まりはエタノール改質式FCV

日産が本格的にFCVの開発を始めたのは、1990年中頃のことです。1999年には、ステーションワゴン「ルネッサ」をベースにした“メタノール改質式FCV”「ルネッサFCV」を開発し、米国で走行試験を始めました。

国内メーカーでは、1996年のトヨタ「RAV4 FCV」、1997年のマツダ「デミオFCEV」に続いて3番目、メタノール改質式FCVとしてはダイムラーに続いて世界で2番目でした。

エタノール改質FCVとは、メタノールをタンクに供給し、タンク内のリフォーマー(改質器)を用いて水素を生成して、その水素を使って発電する方式です。システムが複雑で効率も低いことから、現在は高圧水素を高圧タンクに充填する“高圧水素式FCV”が主流となっています。

●エクストレイルFCVは、認可2年後に限定販売リースを開始

FCVのベースとなったエクストレイルは、2000年にデビューして人気を獲得したライト感覚のオフロードSUVです。

エクストレイルFCVの構成、エンジンルームにモーター、床下にリチウムイオン電池、後席下に水素タンク
エクストレイルFCVの構成、エンジンルームにモーター、床下にリチウムイオン電池、後席下に水素タンク

エクストレイルFCVは、高圧水素式で燃料電池とリチウムイオン電池を組み合わせたハイブリッド方式を採用。水素は、燃料タンク位置に搭載された350気圧の水素タンクに充填、リチウムイオンバッテリーは床下に搭載。

出力85kWのモーターをエンジンルームに搭載して前輪駆動で走行し、最高速度は145km/h、航続距離350km以上が達成されました。

2004年の横浜市長への寄贈式
2004年の横浜市長への寄贈式

燃料電池スタックは、米国“UTC Fuel Cells社”製の最高出力63kWの固体高分子型を使用。国内外の公道試験で得られたデータで改良を重ね、その後2004年に神奈川県や横浜市などに納入され、限定リース販売を始めました。

なお2005年モデルでは、自社開発の燃料電池スタックに変更し、水素タンク圧力も700気圧に上げて、航続距離は500km以上に改善されています。

●日産はFCVから一時撤退、今後は不透明

2013年に日産は、ダイムラー&フォードとFCVの共同開発という新たな取り組みをスタートさせました。2016年には、高圧水素式でなくバイオエタノールを発電動力とする“e-Bio Fuel-Cell”プロトタイプを発表。車両でバイオエタノールを使って水素を生成するので、水素ステーションに頼る必要がないのがメリットです。

日産は、このFCVシステムを積極的に進めると公表していましたが、2018年に突然FCV開発計画の凍結を発表。まだFCVのコストが高い、水素スタンド不足などの当面の課題が解決されないと判断したからです。


ホンダも、2021年に「FCVクラリティ」の生産を中止、一方でトヨタ「MIRAI」は2020年12月にモデルチェンジして進化を継続しています。ホンダは一旦生産を止めていますが、2023年頃再登場するのではないかという情報があります。日産も開発は継続するとしていますが、今後については今のところまだ不透明です。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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