目次
■安価モデルによるシンプルさが活きる、使用性の高さ
リアル試乗・アルトの5回目は、駐車性能について見ていきます。
といっても、過去2回採り上げてきたN-BOX、ワゴンRスマイル同様、しょせんはサイズ枠が決まっている軽自動車ですから、駐車のしやすさなどは大差ない…と思われがちですが、しっかり見ていくぞ!
●ナリは小さく、メリットは大きく。アルトAのチビッぷりは、駐車のしやすさにも活きる!
「走行性能」「空力性能」などの言葉はあっても、「駐車性能」という言葉はなく、これは筆者が考えた言葉。クルマは前に向かって走るだけではなく、駐車時は後ろに向かっても動きます。駐車がしやすいかどうかは日常のクルマづかいでは重要な項目ゆえ、見過ごすわけにはいかぬというわけで、「駐車性能」という言葉を作り出しました。
で、アルトの駐車のしやすさですが、いま主流のハイト型ではない、昔ながらのオーソドックス型だけに、長さや幅はハイト型そのままに全高が低いため、広い車庫でなくとも上下左右前後、何の気を使うことなくスペースに収めることができます。
全高が低いといいましたが、それでも旧型に比べれば50mm高くなっているのだそうで、この形のクルマとしては背が高いほうに属します。全長×全幅×全高は3395×1475×1525mmで、ハイト型に調教された目が外観にダマされ、てっきり先代アルトとトントンだろうと思っていたのですが、先代のサイズは3395×1475×1475mmで、全高は新型のほうが50mm高くなっていたのでした。参考までに、1979年初代のサイズは3195×1395×1335mmです。
実際、うちの車庫に入れてみました。
写真はいつも掲げている「一億総中流意識時代の車庫」で、寸法は写真内に入れているとおり。
5ナンバーサイズ(全長4700mm以下、全幅1700mm以下、全高2000mm以下)の乗用セダン前提に造られた車庫なので、アルトの車庫入れがしにくいはずがありません。
サイドガラスが大きめ、ウエストラインも低めなのでまっすぐ駐車もしやすい部類。ウエストラインがほとんど直線で水平に近いので、運転席からまわりを見渡すか、窓から顔をチョイ出しし、ウエストラインが車両周囲のブロックや白線枠と平行になれば、クルマ自体、枠と平行に駐車できる道理です。このへんも意識すると、クルマの選び方も変わってくるので覚えておくといいでしょう(といっておきながら、そのメリットがわかる写真を撮り忘れました。ゴメン。)。
クオーター側にガラスを設けた、いわゆる6ライトではなく、4ライトスタイル。リヤピラー側にガラスを固定して6ライトを謳い、視界の良さをアピールするクルマもありますが、固定ガラスを設けたところでセラミック塗装部が有効視野を狭め、あってもなくても同じというクルマが高級車さえ存在します。要は設計しだいなわけで、アルトの場合は4ライトといえど、後ろを振り向いての斜め後方視界に不足は感じませんでした。
ハイト型ほどではない着座高さ、その着座高さに対してなお低めのウエストライン…バックドアガラス下端がウエストラインに合わせてあればなおよかったと思いますが、それにしても、前向き走行はもちろんのこと、バック駐車でも、優れた視界の下で行うことができます。
ガラスといえば、リヤドア&バックドアのガラスがスモークなしの素通しだったのもよかった。もともと筆者は、車内が昼でも暗くなってしまい、夜ならなおのこと暗くなってバックがしにくくなるスモークガラスが嫌いだったのですが、筆者が乗っていた前車の日産ティーダも、いま使っている旧ジムニーシエラも、中から外を見たときの様子はたまたま外から見たときの印象ほど暗いものではなく、安堵しながら使っていました。それとて素通しガラスよりは暗いのですが、久しぶりに全周クリアなガラスのクルマに乗ると、それはそれはすっきりしたもので、昼でも夜でもスッケスケ。気持ちのいいものです。
スモークガラスが嫌いと書きましたが、外から中を見えにくくすることでセキュリティの一助になっていることを教えてくれたのもティーダと旧ジムニーの2台でした。というより、セキュリティも目的のひとつだったんだっけ? この時代になるとスモークガラスも必須の時代なのかもしれません。防犯効果もわかるけど、すっきり感も捨てがたい…どちらにするか? 選択の余地を残すため、標準化は望みませんが、心配な方は、保安基準をパスする濃度のフィルムを貼るといいでしょう。
ハンドルはかなり軽く、そのために多くまわすかじ取り設計になっています。ついまわせるだけまわしてしまいがちですが、フルにまわすと最小回転半径4.4mという優秀さがここでは逆に災いし、小まわりしすぎて周囲の柵やポールに接触、ということになりかねません。ここだけが唯一の要注意点でした。
●バックアイカメラ
ここまで書いたように、もともと視界に優れたクルマですから、アルトには全方位モニターもバックアイカメラも要らないのではないかと思うのですが、クルマが透明ではない鉄板で造られている以上、どのクルマにも死角は必ず存在するわけで、死角を少しでも低減したいひとは、オプションで選ぶといいでしょう。
通常、車両周囲を映し出すモニター機能は、モニターが必須のナビ付き車に限られていましたが、ディスプレイオーディオが広まる少し前から、高精細液晶を持つ2DINサイズオーディオにもつくようになっていました。
試乗車のアルトAは、正式には「バックアイカメラ付きディスプレイオーディオ装着車」であり、車両全周ではなく、リヤ側のみ映し出すものです。
丸裸状態のアルトA、税込み94万3800円に対し、バックアイカメラ付きディスプレイオーディオ装着車は5万5000円高…運転に不慣れなひとが壁などに軽くバンパーか車体をこすった際には、板金・塗装1回でこれくらいの値段がかかります。考え方しだいですが、アルトを買う段階でその1回分のお金を払っておき、接触&不用の出費が防げるなら、カメラ付き車を選んでおくのも悪くはないと思います。
カメラはバックドアのオープンハンドル部にひとつ。
全方位カメラ付き車のカメラ4つに対してずいぶんさびしく感じられ、えらくシンプル型に見えますが、実際にはリヤセンサー併用で多彩な機能と表示を持っています。
そのモニター表示は写真のとおり。
いまどきなら、やれ「ナントカワイド画面」「カントカ予想モード」といった別画面が存在し、便利だけど操作も画面も複雑になるというところですが、このディスプレイオーディオ版でリヤカメラオンリーとなるとシンプルなもので、たったこれ1種だけのもの。トップ画面もサイドビューも、なければないで別に構わなくなるものです。
過去、本「リアル試乗」で採り上げてきたクルマは、表示される線も多彩でしたが、このシンプル版は、ハンドル操舵に対して動く予想進路線すらありません。この点もシンプルです。表示されるのは、「車幅目安線」と、3種の「距離目安線」だけ。このシンプルさたるや、通常の携帯電話orスマートホンに対する「かんたんケータイ」「かんたんスマホ」を見る思いがし、なかなか好感が持てます。
ここまでシンプルに徹してくれるといいたい点はほどんどありません。たとえシンプルといっても、いつもいっているように、「バックドア開閉可能限界線」だけはほしかったこと、距離目安線は色分けに加え、赤、黄、水色、それぞれの線の横に「0.5m」「1m」「2m」と具体的な距離値を入れてほしい、この2点だけです。
写真は、後ろのクルマと、バックドアが開けられる間隔を置いて駐車したアルトの様子です。このときの間隔は、バックドアを操作する人間のスペースを入れて934mm、開閉軌跡の最大張り出し量は520mmでした(いずれも筆者実測)。
ほどほどの全高は、そのままバックドア上下寸のほどほどにつながっており、ひとのスペースを入れても1mを切るという結果になっています。
今回はここまで。
次回は「ユーティリティ編」です。
ではまた。
(文・写真:山口尚志)
【試乗車主要諸元】
■スズキアルト A(3BA-HA37S型・2022(令和4)年型・2WD・CVT・シルキーシルバーメタリック)
●全長×全幅×全高:3395×1475×1525mm ●ホイールベース:2460mm ●トレッド 前/後:1295/1300mm ●最低地上高:150mm ●車両重量:680kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.4m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:R06A(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:658cc ●圧縮比:11.5 ●最高出力:46ps/6500rpm ●最大トルク:5.6kgm/4000rpm ●燃料供給装置:EPI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):25.2/23.0/26.0/25.8km/L ●JC08燃料消費率:29.4km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トーションビーム式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:94万3800円(消費税込み・除くディーラーオプション)