最安のアルトAタイプにも自動ハイビームを装備。果たしてその性能は?光り物を徹底検証【新車リアル試乗5-4 スズキ アルトA 夜間走行/ライト性能編】

■ベーシックモデルの安全デバイスの充実度は?

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アルトの夜間性能を見る!

新車リアル試乗「アルト」の第4回目。

いつものように、夜間走行に於けるライト性能と自動ハイビームの性能について述べていきます。

●拍手! 多くはハロゲンライト仕様

アルトのヘッドライトは2種用意されています。

ひとつは最上級ハイブリッドXに標準で、ハイブリッドSのLEDヘッドランプ装着車、Lのアップブレードパッケージ装着車に与えられるLED式。単なるハイブリッドSとL、今回の試乗車でもあるAには在来からのハロゲン式があります。

昔のクルマのカタログじゃあるまいし、いまどきハロゲンランプをクローズアップするメディアは皆無でしょうが、本「リアル試乗」ではばっちり見ていきます。

light front 1 wt
ハイブリッドS、L、Aにに標準のハロゲンヘッドランプのレイアウト構成
light 1 led ver wt
ハイブリッドXに標準、ハイブリッドSとLのパッケージオプションに含まれるLEDヘッドライト

レンズ内部は、マルチ式のリフレクターをバックに、スモール球とロー/ハイ兼用のハロゲンランプが、その下部に薄いターンシグナルランプが配置されるという、至ってシンプルなもの。これがLED式になると上下逆転し、ロー/ハイが下、ターンシグナルが上になるのがおもしろい点です。

なお、第一にはバンパー側へのランプ装着工数低減のため、2次的には見た目のすっきり感向上を目的に、すべてをランプ筐体に一体化していますが、夜間の右左折時、ロー/ハイの光に埋もれてターンシグナルの点滅が対向車からわかりにくいのと、アクリルレンズが劣化して白内障か黄疸のようになったとき、レンズが単体パーツとして部品交換できる流通になっているのかが懸念する点です。

ライトスイッチは、新オートライト規制に則った、「AUTO」ありきのポジション構成。

light switch 1 wt
ライトスイッチのポジション構成

「AUTO」を起点に、ヘッドライト消灯時、ばね仕掛けで「AUTO」に戻る、「OFF/スモール」への下まわしチョンでも保持でも、操作のたびにスモールランプが点消灯。ライト点灯時の下まわしチョンではスモールに落ち、下まわし保持でライト、スモールの順に消灯します。

まわせば従来どおり固定される、上まわし「ライト」でライト強制点灯。

「AUTO」は、昼間のエンジンONでは消灯のまま、トンネルや暗がりへの出入りのたびに点消灯し、夜間はエンジンONでいきなり点灯…国土交通省、かくもやっかいで面倒な操作を強要する規制を発令してくれたものよと筆者はいつでも腹を立てているのですが、確かに以前に比べれば無灯火のクルマが増えたように思え、退化したドライバーの増加がこの規制を生み出したということを、オートライト嫌いの筆者でさえ認めざるを得ません。ただ、同時に、国交省も警察庁もクルマばかりを悪者にしていないで、無灯火の自転車、警戒心皆無でスマートホンを見ながら移動する自転車、歩行者、横断歩道のない場での横断者も片っ端から取り締まれよ! と思っています。特に自転車。危ないを通り越して、悪質なのが増えています。

余談ともかく、筆者は前々車の日産ティーダではHIDランプ(日産名・キセノンヘッドライト)を工場オプションで選び、いま使っている旧ジムニーシエラでは自分の意思でIPFのLEDライトをつけて使っていますが、令和時代のアルトAで久しぶりにハロゲンライトを点けて見ると、あらま一転、フロントガラスに見る風景はいつもと同じなのに、光が黄色味を帯びているせいでたちまち昭和に逆戻り。白い光での景色を見慣れた目には、過去ハロゲン光がやさしい灯(ともしび)の光であったことがわかります。

それでも明るいのは魅力で、筆者は旧ジムニーのハロゲンがさすがに暗く感じたのと、レンズの劣化要因が紫外線のほか、ハロゲン球の熱にもあるのではないかと疑っているため、LEDに換えています。が、あらためてハロゲンに接すると、LEDにおける寿命を迎えたときの、バルブ交換の高額ぶり、ましてや万一の故障、損傷による筐体丸ごと交換でヘタすりゃふたケタ万円もの出費の心配を伴うくらいなら、ハロゲンでもいいじゃないかと思います。暗いのが嫌でLEDにするか、ハロゲンが切れたときに初めて安くはないLEDに手を伸ばすか、引きつづき数千円ですむハロゲンを選ぶか、そんなオーナー判断の余地が残されているのが、車両ごとに設計されたLEDライトと異なる、ハロゲンライト車の美点なのです。

アルトはLEDライトの標準装備がハイブリッドXに限られ、いちばん安いAはもちろんのこと、「●●●装着車」ではない丸裸のLとハイブリッドSがハロゲンライトにとどまっているのは良心的です。

●ハイビームアシストは2段式。ロー状態が多いのは致し方なしか

さて、いつものように自動ハイビームの確実性を見てみます。

スズキでは自動ハイビーム機能を「ハイビームアシスト」と呼んでいますが、結論からいうと、先回のワゴンRスマイルと同世代だけに、操作性も確実性もワゴンRスマイルの回をそのまま読んでもらっても差し支えないほど、ワゴンRスマイルとおんなじでした。

操作は次のとおり。

light switch 2 side wt
ウインカーレバーの操作

1.エンジンスイッチON。
2.ライトスイッチは「AUTO」位置。
3.ライトスイッチレバーを前方に押しやる。

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「ハイビームアシスト」の、自動ハイビーム待機状態ランプ
hi-beam assist 2 indicator with hi-beam ws
自動でハイビーム照射時、青いランプが点灯する

このときにメーターに緑色のハイビームアシスト作動ランプが灯ってハイビームアシストのスタンバイ状態となり、走行中、以下の条件が揃ったときにロー/ハイを自動で切り替え、青いハイビーム作動灯が点消灯します。

【ロー → ハイ】
・車速が約30km/h以上。
・車両前方が暗い。
・前方にランプを点灯した車両がいない。
・前方の道路沿いの街路灯の光が少ない。

【ハイ → ロー】
・車速が約25km/h以下。
・車両前方が明るい。
・前方車両がランプを点灯している。
・前方の道路沿いの街路灯の光が多い。

hi-beam assist 3 at town
街乗りでは街灯光の影響で、自動でハイビームになることは少なかった

実際に使ってみると、前方にちょいとした光でも存在しようものなら、当たり障りのないロービーム照射が続くことが多いハイビームアシストでした。街乗りでは街路灯、高速道ならサービスエリアやインターチェンジ付近の照明が連なるエリア…周囲にクルマがなくてもこれらの光に遠慮してロー照射を続けます。

いっぽう、いつも試乗に使う関越自動車道下りの前橋ICを過ぎたエリア、赤城山の料金所跡からの登坂路のような、墨汁のプールに飛び込んだかのような暗闇の場では、自信満々にハイビームを放ちます。それでいて対向車が顔を出せばロービームに落とす…高速路ではるか遠方で輝く、小さな点のようなテールランプ光ないし対向車光が見えてもハイビームになることはあるものの、それを除けばその作動は完璧に近いものでした。

いまのところスズキはアダプティブ式を用いず、2段式に徹していますが、メーカー問わず、ドライバーの感覚にそぐわない働きをしてしまうことが少なくないのが2段式自動ハイビームの限界でしょう。仮にシステムが「街灯の光」「先行車の光」「対向車の光」と人間並みに把握していたとしても、他社上級版のように、ロー以上、ハイ未満の領域をシームレスに選べない2段式であるかぎり、検知した光がわずかでも無難なローしか選択肢はありません。結果的にロー走行が多くを占め、「感覚に合わない」「役立たず」と誤解してしまう…ましてや、複数の微小LED素子を個別に点消灯制御させるのではない、ただのハロゲン球ならなおのことです。

と、ここまで書いてのたったいま思いついたのですが、考えてみたらハロゲン球でもできないことはないことに気づきました。

hi-beam assist 6 leveliser
手動レベライザーのスイッチ

ヒントはレベライザー。いまや義務化されているレベライザーは、荷重バランスのリヤ偏重でフロントが上向きになったとき、ローでも上向きになってしまった光軸を8段ほどの刻みで下向きに補正するものです。いわばロービームをさらにロービームにする装置で、アルトの場合は0~4の目盛りが打たれたダイヤルを0.5刻みで調整する11段階。

LED式は知らず、HIDにしろハロゲン式にしろ、これは光源ではなく、リフレクターのほうを上下させています。この可動範囲を拡大し、ハイビーム側にも無段階で傾けるようにすれば、ハロゲン仕様でも簡易的アダプティブハイビームが実現できるのではないか。もっかのところ、アダプティブ式ハイビームはLED式に特化されていますが、ハロゲン版ではリフレクター可動式にすれば、故障時や素子切れ時の補修費が高額というLEDゆえの悩みとは無縁のアダプティブ式ができそう…そもそもレベライザーが義務化されているならすでにモーターは備わっているわけで、そのモーター可動範囲を拡大するだけですむはずだから、もしかしたらタダでできるかも知れない。

素人が思いつくことならプロはとっくに気づいていると思いますが、自動車メーカー、ランプメーカーにはぜひ実現してほしいと思います。アイデア料はいただきませんので。

夜の街乗りや住宅路走行に於いての光量に不足はありませんでした。自分の旧ジムニーシエラは、納車時のハロゲンライトが「ハロゲンはこんなに暗かったっけ?」と思うほどだったので、アルトも暗いことを覚悟していたのですが、なぜかシエラほど暗さを感じることはありませんでした。ただ、LED光での景色を見慣れた目には暗く感じるひとは多いと思います。不足を感じる向きは、予算と相談の上、市販のLEDバルブに変えるといいでしょう。

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ハロゲンゆえ、LED光を見慣れた目には暗く感じるが、ハロゲンなら光量も配光もこのようなものだろう

赤城山での山間道走行は、今回は中腹から霧に見舞われて途中で引き返したため、最低限の確認しかできませんでしたが、数か所の左右カーブを走った限りでは、ハロゲンなら配光・光量ともこんなもんでしょうという程度のもの。

それよりも、ろうそくの炎の色をしたハロゲン光が目の疲労度低減につながっていることに気づきました。暗闇の「黒」に対するビカビカの「白」い光…コントラストが究極状態となるLED光は、知らぬ間に目を疲れさせていたようです。

また、ワゴンRスマイルのときに書きましたが、夜の雨天走行では、LEDの白い光よりもハロゲン球のともしび色のほうが有利です。雨に濡れるとどす黒く沈むアスファルトに白い光は吸収されてしまうため、LEDライトをつけても自分のライトつけ忘れを疑うほど暗いままになります。ハロゲンとて晴れた日のグレー路面よりは不利になるのですが、白でないぶん、まだハロゲン式のほうが雨天時の視認性は優れています。

それにしてもハロゲンライト、いいとこ、工夫できそうなとこ、探しゃあやることはまだまだたくさんありそうで。

ただし現状から先々を俯瞰したとき、(特に筆者が)好むと好まざるとにかかわらず、全体的には白い光のLEDライトが増える側に向かうでしょう。筆者の見落としがなければ、いまの道路運送車両法の保安基準の中に「前照灯、すれ違いビームの光の色を変えてはならない。」旨の表記はありません。ならば色を変化させられるLEDであることを活かしに活かし、夜(に限らず、必要なら昼間でも)の雨天時のため、ライト光を白からハロゲン色に変えられるバイカラーLEDヘッドライトとでもいうべき照明ができればいいと思います。白と黄色を切り替えられるフォグランプもあるのだし。

注文がふたつ。

ハイビームアシストは、メーンスイッチを運転席周辺に設けるとともに、ライトのレバースイッチが中立位置で自動切替するようにしてほしい。現状、自動ロー状態のときに任意でハイビームにしたくとも、すでにレバーは向こう側にあるため、手動でハイにできません。それを嫌い、ハイビームアシストそのものをOFFにしたくとも、そのON/OFFはマルチインフォメーションディスプレイで停車中にしかできない…このへん、いまやスズキもトヨタグループの一員になったことだし、なおのこと、トヨタ車に倣ってほしい部分です。

ふたつめは新オートライトに伴う希望で、夜間のエンジンONではいきなりライトが点灯しますが、あまりに唐突に過ぎます。先に乗りこんでエンジンをかけておき、後から乗りこむひとを待つ…このようなシチュエーションを思えば、何も動いていない段階からライト点灯させる必要はないでしょう。始動時はスモール点灯にとどめ、シフトをDに入れるか、車速0km/h越えになった時点で点灯すれば充分。新オートライト規制は、「走行中にライトOFFできないこと」が本意なので、違法にはならないはずです。国土交通省にお行儀のよさをアピールしたいのか、どこのメーカーも規制に忠実になりすぎているように思います。

「LEDライトの点灯は、ドア開閉時のルームランプのようにならないか」と毎回書いていますが、スイッチON・OFFの瞬間にいきなりビカッ! と点いて、パッ! と消えるのがキセノン or LEDなら、こちらハロゲンはフィラメント球ならではの動きでじわっと点消灯。「白いLED光で見慣れた目には、過去ハロゲン光がやさしい灯(ともしび)の光であったことがわかった」とさきに書きましたが、灯り方も同じで目に優しいものです。

自分のクルマがハロゲンからキセノンに変わったとき、瞬時に明るくなるのは新鮮でしたが、それも最初の1週間だけで、短時間(特にLEDは最高光度に至るまでの時間がハロゲンの1/10といわれている)の点消灯完了が人間の目の生理に合わないと思うようになりました。LEDライトもハロゲン球を再現した点消灯にしてくれ!

「すごい先進技術」もいいのですが、クルマに乗る人間、クルマの周囲にいる人間の目や肌に触れる部分にもっともっとやさしい配慮をしてほしいと願っています。

●リヤランプ

light rear 1 wt
リヤランプの構成

後ろにまわり、リヤコンビランプについても触れましょう。

後ろ姿が現行マーチを思わせる要因となっている配列のリヤランプは、上からテール&ストップ(リフレクター内包)、ターンシグナル、リバースの並び。テールとストップはダブルフィラメント球で、ストップランプはテールの5倍以上の輝度で、同じ場所で光ります。つまり面積は変わりません。

フロントランプは機種によりLED、ハロゲンと分かれますが、こちらリヤランプは、全車ハイマウントストップランプを除いて電球式なのが良心的。どれかひとつ切れたら、その電球だけ交換すればいいので維持費が安くてすみます。セルフ派はねじ止めされているランプ筐体をはずし、ランプ裏のソケットをねじるなり引き抜くなりだけで交換できるので、電球代数百円ですむでしょう。これがLED式だと、ヘッドライト同様、どれかひとつの素子切れでも筐体まるごと交換、万単位の補修費を強いられる可能性があります。ハイマウントランプも電球にすればよかったのに。

ほんと、LED式が増えたおかげで、いままであたり前だと思っていたものにありがたみを抱く時代になってしまったのがいかんともしがたいところです。

最後、車両各部の光源について。

【フロント灯火】
・ヘッドライト(ハロゲンライト車):60/55W球
★ヘッドライト(LEDライト車):LED
★ターンシグナル(フェンダー側・側面用):5W球
・ターンシグナル(前面):21Wウェッジ球
・車幅灯(ハロゲン車):5Wウェッジ球
★車幅灯(LEDライト車):LED

【リヤ灯火】
★ハイマウントストップランプ:LED
・テール&ストップ:21/5Wウェッジ球
・ターンシグナル:21Wウェッジ球
・リバースランプ:16Wウェッジ球
・ナンバープレートランプ:5Wウェッジ球

★マーク付きは、すべて非分解式で、電球のはずのサイドターンシグナルも含めて光源電球はできず、「ランプ本体の交換になる」と取扱説明書には書いてあります。だから、LEDライト装着車は、LEDヘッドライトが正常でもLEDの車幅灯が切れれば、即、本体交換…筆者の恐れていることが起こるわけです。高いぞォ~。

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夜間照明中の運転席周辺

というわけで、最後は夜間照明を点灯中の室内の様子の写真で締めくくります。

車内各部の照明色は、ワゴンRスマイルと同じく淡いオレンジ色。目が疲れないという理由からのオレンジ色なのでしょうが、筆者は好みではなく、本当はグリーン、または暗闇の黒と正反対のオーソドックスな白がすっきりして万人受けすると思うけど、流行なのかなあ。速度計のプロッティングだけでも白なのは救いでした。

ではまた次回、「駐車のしやすさ、荷室、空調編」でお逢いしましょう。

(文・写真:山口尚志

【試乗車主要諸元】

■スズキアルト A(3BA-HA37S型・2022(令和4)年型・2WD・CVT・シルキーシルバーメタリック)

●全長×全幅×全高:3395×1475×1525mm ●ホイールベース:2460mm ●トレッド 前/後:1295/1300mm ●最低地上高:150mm ●車両重量:680kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.4m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:R06A(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:658cc ●圧縮比:11.5 ●最高出力:46ps/6500rpm ●最大トルク:5.6kgm/4000rpm ●燃料供給装置:EPI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):25.2/23.0/26.0/25.8km/L ●JC08燃料消費率:29.4km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トーションビーム式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格94万3800円(消費税込み・除くディーラーオプション)