完全オフロード仕様のポルシェ911が標高6000m超の世界一高い火山を制覇!

■911の「タフ」な一面を明らかにする究極のプロジェクトを敢行

ポルシェ911といえばスポーツカーのアイコンですが、ロードレースだけでなく、悪路を駆け回るラリーレイドでも優れた性能を発揮して数々の栄光を獲得してきました。

●ポルシェは「植物さえ生きられない場所」でも走れるか

世界一高い火山に挑んだ特製のポルシェ911。フロント
世界一高い火山に挑んだ特製のポルシェ911

オンもオフも制する「走り」が自慢の911が、今度は山を制しました。911ベースの実験車が、世界で最も高い火山、オホス・デル・サラドでのテストに成功したのです。

オホス・デル・サラドは、チリとアルゼンチンの国境に位置する標高6800mの活火山。氷点下30度、空気中の酸素量は海抜のたった半分で、植物も生息できないという過酷な環境へ、ポルシェのチームは2台の911を持ち込みました。

実験車のベースとなったのは、992型911カレラ4S。搭載するフラット6ターボ+7速MTは、市販車そのままの仕様だったということです。プロジェクトチームには、パイクスピークのヒルクライムレースでも複数回の優勝をおさめてきたフランス人レースドライバー、ロマン・デュマが参画しています。

●最低地上高は350mmまでアップ

世界一高い火山に挑んだ特製のポルシェ911。コクピット
特製ポルシェ911は、フラットシックスターボ+7速MTのカレラ4Sがベース

2台の911には、ロールケージとカーボンファイバー製のシート、ハーネスを装備するとともに、ポータルアクスルを採用することで、最低地上高を350mmにまで引き上げています。

また、ギヤ比を下げ、310mm幅の大径オフロードタイヤを装着。ホイールアーチに十分なクリアランスを確保するために、ボディワークにも変更を施しています。さらに、フロントセクションにはウィンチを、ボディ下部には軽量かつ頑強なアラミド繊維製の特注プロテクターを配備しています。

世界一高い火山に挑んだ特製のポルシェ911。スイッチ
車内にはデフロックやウインドヒーターなどのスイッチも

「ポルシェ ワープ コネクター」と呼ばれるデバイスも追加。これは元々モータースポーツ用に考案されたもので、極限の状態でも最大限のトラクションを確保するべく、各ホイールにかかる荷重が一定になるよう制御するデバイスです。

ほかには、手動で切り替え可能なデフロックを搭載。冷却系のシステムは、万が一のダメージから保護するために上方へと再配置しています。

●世界最高峰で行った異例の走行テスト

世界一高い火山に挑んだ特製のポルシェ911。トップビュー
特製ポルシェ911の1台は来季を闘うWECマシンのカラーリングを継承

カラーリングにもこだわりが込められていて、1台は2023年のWECとIMSAに挑むLMDhマシン「963」のそれを継承。もう1台は、ヴァイザッハのスタイリングチームがデザインした「911」のロゴを主役にした意匠をまとっています。

山の厳しさを知るロマン・デュマ率いるチームは、標高6000mを超え、氷と雪の壁でこれ以上は進めないという限界の地点まで到達。“世界最高峰で行う走行テスト”を無事に成功させました。

世界一高い火山に挑んだ特製のポルシェ911。リヤビュー
実験車のボディ下部には悪路に備えて特製のプロテクターを装備

世界中の自動車メーカーは、新型車開発の際に北極圏からデスバレーまで、あらゆる環境でプロトタイプを走らせてその性能を鍛え上げています。

今回ポルシェが挑んだプロジェクトは、その中でも最大級に難易度の高いテスト走行だったといえるでしょう。今回のテストを通して、ポルシェは最新型911のタフネスを証明しただけでなく、今後の商品づくりに活かされる知見も入手したのではないでしょうか。

(三代 やよい)

この記事の著者

三代やよい 近影

三代やよい

自動車メーカー勤務後、編集・ライティング業に転身。メカ好きが高じて、クルマ、オートバイ、ロボット、船、航空機、鉄道などのライティングを生業に。乗り継いできた愛車は9割MT。ホットハッチとライトウェイトオープンスポーツに惹かれる体質。
生来の歴女ゆえ、名車のヒストリーを掘り起こすのが個人的趣味。
続きを見る
閉じる