スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。第9&10戦鈴鹿サーキットの「レース・フォーマット」

■今季の“締め”は土曜日、日曜日にそれぞれ予選・決勝を走る「週末2連戦」

夏・8月のモビリティリゾートもてぎでの週末2連戦から2か月と、ちょっと長めのインターバルを経て、秋の気配も深まる10月末、スーパーフォーミュラが鈴鹿サーキットで、全日本選手権シリーズの最終戦を迎えます。そのファイナル・ラウンドも、土曜日、日曜日のそれぞれに午前中にノックアウト方式の予選、午後に31周・180kmのレースを行う「1ディ・フォーマット」×2連戦というスタイルでの開催。開幕戦の富士スピードウェイ、前戦(第7戦・第8戦)もてぎに続く、今季3回目の「週末2連戦」です。

●スーパーフォーミュラ今季ファイナルラウンド 第9戦・第10戦が10月29日〜30日、鈴鹿サーキットで開催

スーパーフォーミュラ第3戦鈴鹿
4月下旬にここ鈴鹿で開催された第3戦の決勝レースは雨。ウェットタイヤの摩耗が勝負を分けた。今回の2戦はドライ路面で戦えるか…(写真:JRP)

もちろん、その各戦の競争とその結果も楽しみなのはいうまでもなく、でもやはり今年のシリーズ・タイトルがこの2戦にかかっているだけに、競争する側も見る側もテンションが一段と高まります。ちなみに全日本スーパーフォーミュラ選手権としては、ドライバーと、そしてチーム(ほとんどが2台エントリー)の両方に年間のタイトルが掛けられています。

そうなると、まずドライバーのチャンピオンは誰の手に?となるわけですが、これまでの8戦で獲得したポイントからシリーズ・チャンピオンの可能性を持っているのは3人に絞られています。

トップに立つのは野尻智紀(現状合計得点113点/1勝)。2番手はS.フェネストラズ(同81点/1勝)、3番手は平川亮(同79点/2章)。なぜここまでに絞られるのかといえば、1戦で獲得できる最大得点は23点(予選最速=ポールポジション3点、決勝優勝20点)なので、2戦完全優勝で得られる46点以上、野尻との差が開いてしまっているドライバーはもはや圏外だから(ここまでのチャンピオンシップの得点獲得状況は、SFオフィシャルウェブサイトの「2022 Driver Standings」ご参照)。

ちなみに予選順位2、3番手に対して2-1点、決勝レースの順位に対しては2位以降10位まで15-11-8-6-5-4-3-2-1点の特典が与えられます。今週末の2日間、予選と決勝を追う中で、この得点積算を思い描きながら「チャンピオンの行方」を見守ることが、いつもの「レースそのものを楽しむ」に加わってくるわけです。

スーパーフォーミュラ第3戦鈴鹿
第8戦までを終えてチャンピオン最短距離にいるのは1野尻(右)。ほぼ1戦分最大得点分だけ離されている4フェネストラズ(中)と20平川の逆転は可能か?(写真:JRP)

チーム・チャンピオンに関しては、そのチームの車両が得た得点が全て加算されるのですが、8戦を終えてトップはチーム無限(132点)、これにチームIMPUL(113点)、コンドー・レーシング(91点)、チーム・ダンデライアン(70点)までが獲得可能性を残している状況です。

さて、この「決着の2日間」はどんな段取り・競技内容で進められるのか、を紹介しておきましょう。

●スーパーフォーミュラ 2022年第9&10戦 JAF鈴鹿グランプリ「レース・フォーマット」

●レース距離 (第9戦,第10戦とも):180.017km (鈴鹿サーキット 5.807km×31周)

鈴鹿サーキット
鈴鹿サーキットの計時システムでは1周5.807kmを4つのセクター(区間)に分けてそれぞれのタイムとバックストレッチほぼ終端で到達速度を計測している。ライブタイミングなどを見る時の参考に。なおF1は独自の計測システムを持ち込み設置するのでセクター区分が異なる。

・最大レース時間:75分 中断時間を含む最大総レース時間:95分
・タイムスケジュール:土曜日・第9戦/午前9時15分〜公式予選、午後2時30分〜決勝レース
日曜日・第10戦/午前9時05分〜公式予選、午後2時30分〜決勝レース

●予選方式:ノックアウト予選方式(第9戦,第10戦とも)
⚫︎2グループ(A組・B組)に分かれて走行する公式予選Q1、そのそれぞれ上位6台・計12台が進出して競われる公式予選Q2の2セッションで実施される。
⚫︎公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。そこから10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行。
⚫︎公式予選Q1のグループ分けは、第7戦については第6戦決勝終了時の、第8戦については第7戦終了時のドライバーズランキングに基づいて、主催者(JRP)が決定する。ただし参加車両が複数台のエントラントについては、少なくとも1台を別の組分けとする。
⚫︎第9戦Q1の組分け(車番のみ記すと…) A組:4,5,15,18,19,36,39,50,53,65(10車) B組:1,3,6,7,12,14,20,37,38,55,64(11車)
⚫︎Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
⚫︎Q2の結果順に予選1~12位が決定する。

※天候・路面状況などによっては、全車が一定の時間の中で出走し、その中の最速周回タイムで予選順位を決定する方式を採用するなど、大会運営側の判断で変更されることもある。

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック、ウェット1スペック

●決勝中のタイヤ交換義務:あり〜ただしドライ路面でのレースの場合

⚫︎スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
⚫︎先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること(鈴鹿サーキットの第1SCラインは最終コーナーを立ち上がり、ピットロードが右に別れる分岐点に引かれた白線。ちなみに第2SCラインはピットロードが本コースに合流後、1コーナーに向かうコース幅に収束した位置に引かれた白線)。
⚫︎タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
⚫︎レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合は、交換義務の対象として認められる。
⚫︎レースが(31周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
⚫︎決勝レースをウェットタイヤを装着してスタートした場合、およびスタート後にドライタイヤからウェットタイヤに交換した場合は、このタイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行った時に限られる。

●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて
・ピットレーン速度制限:60km/h
・ピットレーン走行+停止発進によるロスタイムは…

鈴鹿の場合、最終コーナーを立ち上がった先でピットロードが分岐するが、速度制限区間が始まるのは計時ラインの30mほど手前であり、そこまではエントリーロードをほぼレーシングスピードで走ってくることもあり、ピットレーン走行による(ストレートをレーシングスピードで走行するのに対する)ロスタイムは約27〜28秒と推測されます。これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、半周ほどはペースが上がらないことで失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で35秒、若干のマージンを見て40秒ほどが、ピットストップに“消費”される時間になります。言い換えれば、ピットタイミングが異なる車両同士の差が「ミニマム35〜36秒」あるかどうかが、順位変動の目安になるわけです。

スーパーフォーミュラ第9・10戦鈴鹿
週末2連戦に向けて木曜日には各チーム、ピット設営・準備完了。チーム無限のピットでは野尻を囲んでリラックスした雰囲気。(撮影:筆者)

●タイヤ使用制限

⚫︎ドライ(スリック)タイヤ
今回の週末2連戦では、まず金曜日のフリー走行から土曜日の第9戦については、各車に新品・3セット、前戦までに入手したものの中から「持ち越し」3セット。日曜日の第10戦については、新品2セット、第9戦までに入手したものの中からの「持ち越し」4セット、となっている。

前回、モビリティリゾートもてぎの1戦目、土曜日の決勝レースがスタート直前に雨が降りだしたので、ここで各車少なくとも1セットは新品を「持ち越し」ているはず。それも含めて今回の鈴鹿に新品や走行履歴の少ないタイヤをどれだけ“持ち越し”ているかが鍵。2日間のプログラムを両日とも新品タイヤは予選Q1、Q2、そして決勝スタートにそれぞれ装着が可能でしょう。予選でQ2進出を逸した車両は、決勝レース途中で交換する2セット目にも新品が残るけれども、Q2まで走った車両はこれが予選を走った「1アタック品」になる、というのが一般的です。

⚫︎ウェットタイヤ(湿潤路面用)
大会週末2日間を通して、各車6セットまで使用可。今回は使わなくて済むかな…

⚫︎走行前のタイヤ加熱:禁止・決勝レース中の燃料補給:禁止

●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(120.7L/h)

燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下します。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。

●オーバーテイク・システム(OTS)

・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」

⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
⚫︎作動開始後8秒経過してからロールバー前面のLEDおよびテールランプの点滅開始。ロールバー上の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。
⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー上のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。
OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持される。概算で出力が60ps近く増える状態になる。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされる。
⚫︎今季は、予選で各車・人がアタックラップに入っていることを知らせるべく、このロールバー前面LEDを点滅させる「Qライト」が導入されている。

スーパーフォーミュラ第9・10戦鈴鹿
たまにはこんな場所・情景もお目にかけましょう。スーパーフォーミュラの車体各部の寸法が規定値どおりに収まっているかを計測する「車検リグ」。ほぼ完全な平面の上に車両をセットして、レーザー光(黒い遮光幕の中などに赤い光点が見えます)で規定部位を測ります。走行前にはチームがそれぞれの車両を持ち込んで任意計測。予選・決勝終了後は入賞車がここで車両検査を受け、その時は余人が立ち入ることはできません。(撮影・筆者)

これらを踏まえつつ、スーパーフォーミュラ今季最後の2連戦、鈴鹿サーキットで繰り広げられる2日間の濃密な自動車競争を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!

(文:両角 岳彦/写真:JRP、筆者)

【関連リンク】

・スーパーフォーミュラ公式ウェブサイト「2022年のLIVE中継について」
https://superformula.net/sf2/headline/34862

・SF公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/superformulavideo/featured

・SF公式サイト「ライブ・タイミング」
https://superformula.net/sf2/application

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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