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■さまざまな車種で高性能を発揮する横浜ゴムのアイスガード7・iG7
スタッドレスタイヤが登場する以前、北国の春はひどい状況でした。せっかく春が訪れたというのに、スパイクタイヤが削った路面によって空は灰色に曇っていました。いわゆる「粉じん公害」というやつです。誰が見たって、どうにかしないといけないと思ったはずです。
そうした状況を打破すべく、1980年代中盤から日本ではスタッドレスタイヤが続々登場。横浜ゴムも1985年に「ガーデックス」という名のスタッドレスタイヤを市場投入。進化を重ねてきました。
1993年にはガーデックスK2へ進化、2002年からは現在も続くアイスガードというブランドになりました。
アイスガードシリーズの最新モデル「アイスガード7・iG70」は2021年9月より発売されています。すでに一度試乗レポートをお届けしている「アイスガード7・iG70」ですが、さらに深く知っていただけるように2度目の試乗会に参加しました。
試乗を行ったのは2022年2月、試乗場所は北海道旭川市郊外にある横浜ゴムの北海道タイヤテストセンターと、周囲の一般道でした。
●スタッドレスタイヤに求められる安心と安全
多くの人がスタッドレスタイヤに求めるのは「安心・安全」です。その「安心・安全」をしっかりと確保したうえで、さまざまな性能を上乗せしていくことが大切だと言えます。
スタッドレスタイヤの『スタッド』とは、スパイクのことを示しています。つまり、スタッドレスタイヤはスパイクがないタイヤという意味です。
スタッドレスタイヤに求められる重要な性能のひとつが、スパイクがなくても凍結路を走れる性能です。今回、その進化度を試すために前モデルであるアイスガード6・iG60との比較試乗の機会が用意されました。
●異なる温度の氷上でアイスガード6と比較
まず、室内氷盤試験場でのブレーキ比較です。スタッドレスタイヤの性能のなかでも氷上でのブレーキ性能はとくに重要で、多くのユーザーが求めている性能でもあります。
この比較試乗では、アイスガード7・iG70、アイスガード6・iG60との比較とともに、アイスガード7・iG70に使われているウルトラ吸水ゴムで作ったスリックタイヤも試乗。表面温度がマイナス10.3度の氷上と、約マイナス4度の路面の2種で試乗です。
スタート位置から加速して30km/hでアクセルオフし惰性で氷盤路に入り、指定地点でフルブレーキング、完全停止地点で自分の横に置かれたマーカーから停止距離を読み取るという方式です。テスト車両はプリウス4WD。装着タイヤサイズは195/65R15 91Qです。
表面温度が約マイナス10度程度だと乗用車の荷重が掛かっても氷はほとんど解けず水膜は発生しにくいのですが、マイナス4度程度の表面温度だと水膜が発生しやすいため、非常に滑りやすい状態となります。
マイナス3.9度の滑りやすい氷盤路ではアイスガード7はアイスガード6に比べて0.4m(補正値の平均、以下同)短く停止、マイナス10.3度の氷盤路では2.1m短く停止しています。フィーリング的にはブレーキを踏んだ瞬間の制動感が強く、すぐにABSが作動することを感じました。
興味深いのは、スリックタイヤでの結果です。アイスガード7とスリックタイヤの制動距離を比べて見ると、マイナス3.9度の路面では5m伸びたのに対し、マイナス10.3度の路面では5.5m伸びています。
普通に考えれば、条件の悪いマイナス3.9度のほうが距離が伸びそうなものですがそうではありませんでした。これは、接地面積の広さが優位に働いていることの裏付けでもあり、スタッドレスタイヤはサイプを増やせば性能が上がるという、単純なアプローチで開発できない証拠ともいえます。
この屋内氷盤路では制動距離計測後の再発進で、それぞれの路面での発進のしやすさとハンドリングの確かさをチェックしました。
アイスガード7はアイスガード6にくらべ、発進がしやすいのはもちろんなのですが、それ以上にステアリングを切ったあとに曲がり出すタイミングが早く、素早くコーナリングフォースが立ち上がっていることを確認できました。ステアリングインフォメーションも高く感じ、操舵のしっかり感もあります。
●雪上スラロームでもアイスガード6と比較
同じく、プリウス4WDに3種のタイヤを履かせた雪上スラローム比較では、アイスガード7の雪上ハンドリング性能の高さを感じることができました。
アイスガード6と比べると、ステアリングを切ってからタイヤが反応するまでの時間が若干短い、つまりステアリング操作に対する反応がいいのです。破綻する速度もアイスガード6より高く、マイルドにグリップが落ちるので扱いやすい印象です。
このスラロームでもスリックタイヤを試しました。発進やブレーキではそこそこの性能を発揮するスリックタイヤですが、さすがにサイプがないと横方向のグリップはかなり弱いものであることを実感しました。
雪上スラローム比較試乗は、ヴェルファイア4WD、GRヤリスRZハイパフォーマンス4WDでも行いました。
ヴェルファイアの装着タイヤは235/50R18 97Q。約2トンの車重となるヴェルファイアですが、アイスガード6、アイスガード7のどちらもしっかりとしたグリップを披露しました。アイスガード7のほうがよりしっかり感を出せている印象です。
車重が重いミニバンですが、ブレーキをしっかり踏んでステアリングを多めに転舵するという、フロントタイヤ荷重が大きく条件が悪い状態でもしっかりと反応してくれました。
一方、GRヤリスRZハイパフォーマンス4WDでは、そのポテンシャルを十分に引き出すことができるタイヤだといえるでしょう。装着サイズは225/40R18 92Q。
いかに高性能なスポーツ4WDであっても、タイヤが路面に食いついていかなければ意味をなしません。GRヤリスRZハイパフォーマンス4WDは、前後タイヤのスリップ状態に合わせてトルク配分が変化しますが、スポーツモードを選ぶともっともリヤよりの配分となります。
この状態で走らせると、リヤを軽く滑らせながらのスラロームが可能で、じつに気持ちのいい走りができます。スラロームでは飽き足らず、林間コースなどを走りたくなるフィーリングです。
●FRのGR86でも気持ちいい走りを披露
さらにプラスアルファの体験として、GR86を使った雪上スラローム走行を行いました。装着タイヤは215/45R17 87Qです。
この体験はちょっとお遊び的な要素が強かったと思いますが、FRでもアイスガード7を履いていれば、かなりしっかりと走れてしまうということが確認できました。
筆者は初代ロードスターが納車された最初のウインターシーズンに、横浜ゴムの初代スタッドレスタイヤであるガーデックスを履いて雪の軽井沢に走りに行った記憶があります。
念のためにタイヤチェーンを積んでいましたが、使うことは一度もありませんでした。FR車にスタッドレスタイヤを履いて雪道を走りに行くのは、クルマ好きなら一度はしてみたいことのひとつでしょう。アイスガード7はその想いを安全に叶えてくれるはずです。
●一般道ではウエットやドライでも安心の性能を披露
一般道試乗ではカローラツーリングの4WDを使用、タイヤサイズは205/55R16 91Qです。コースは旭川空港から旭岳近くのスキー場へ行き市内に戻るというものです。このコースだと高速道路はありませんが、それなりにペースが速いポイントもあります。
ペースが上げられるシチュエーションは、除雪がしっかりと行われて、ウェット状態になっているのですが、そのウエット状態であってもブレーキングには不安感がありません。また、たまに出現する乾いた路面でのノイズの大きさも気にならないものでした。スキー場の駐車場で新雪が乗ったふかふかなスペースにクルマを入れても、なんなく出し入れできました。
テストコースで試せた限界性能と合わせて、一般道試乗でもとくに不満は感じられません。以上のことからアイスガード7は、さまざまなシチュエーションで安心して使えるタイヤであるといえるでしょう。
(諸星 陽一)