スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。第7&8戦モビリティリゾートもてぎの「レース・フォーマット」

■土曜日、日曜日にそれぞれ予選・決勝を走る「週末2連戦」

●スーパーフォーミュラレース 第7戦/第8戦が8月20日ー21日、モビリティリゾートもてぎで開催

盛夏の(「ツインリンクもてぎ」改め)モビリティリゾートもてぎを舞台にしたスーパーフォーミュラのレースは、日本のモータースポーツ・ファンとレース関係者にとって、「夏の風物詩」として定着した感があります。今年もカレンダー上は旧盆休み明けの、自動車産業など製造業のメーカーの多くが設定している、ちょっと長めの夏休み最後の週末に開催。

私も含めてレース関係者はいつもより少し早く、木曜日午後〜金曜日朝には現地入りしてます。というのも、今回は土曜日、日曜日ともに、午前中に予選、午後に決勝レースを行うという「週末2連戦」のパターンが組まれているから。ここで今年の全日本スーパーフォーミュラ選手権シリーズとしては、土曜日が第7戦、日曜日が第8戦となるわけです。そのあと少し間隔があって10月29日・30日の鈴鹿戦も同じく週末2連戦でこちらが第9戦・第10戦。つまり全10戦の今季もその折り返しを過ぎ、ドライバーとチームのチャンピオンシップを争うのも残り4戦となったわけです。

スーパーフォーミュラ2021年第5戦もてぎ
もてぎを舞台にした昨年第5戦、予選最速でこのポールポジションから優勝した野尻智紀。昨季のカーナンバーは16。今年はチャンピオンナンバーの1
スーパーフォーミュラ2021年第6戦もてぎ
昨年の第6戦もてぎは決勝レースのスタート前、路面はまだウェット状態。雨は止んでいてレースが始まり周回を重ねると路面は乾いていった。

ここまでのドライバーズ・チャンピオンシップの得点獲得状況は、SFオフィシャルウェブサイトの「2022 Driver Standings」ご参照。

昨年、ここもてぎでの第6戦で、鈴鹿での最終戦を残してチャンピオンを決めた野尻智紀が、今年もここまで1勝、2位2回、3位2回と着実にポイントを積み上げて93点、2勝して64点の平川亮に29点の差を付けています。

この2人以外に今季、優勝を飾っているのは、松下信治、サッシャ・フェネストラズ、笹原右京と、いずれも「スーパーフォーミュラ初優勝」の3人。

予選最速・ポールポジションを獲得すれば3点、優勝すれば20点なので、1レースで最大23点を稼ぐことができますから、野尻のリードもけして追いつけない差ではないけれども、逆に見ればこのもてぎ週末2連戦を終わったら残りは2戦、チャンピオンの行方がグッと絞られる。ドライバーもチームもそんな緊迫感が高まりつつ戦う3日間になるはずです。

ちなみに、週末2連戦のタイムスケジュールでは、セットアップ確認などを行うフリー走行は金曜日午後に設定されています。土・日曜日にさらに調整を進める機会はほとんどない(決勝直前のウォームアップ8分間だけ)ので、とくにマシンの仕上げとタイヤ消耗の確認などは、ここで推定や予測を含めて進めることになります。

●スーパーフォーミュラ 2022年第7&8戦 モビリティリゾートもてぎ「レース・フォーマット」

モビリティリゾートもてぎ・コース図
モビリティリゾートもてぎ・ロードコースのレイアウト図。前半(左側)は短めの直線とほぼ直角ターン二つずつの組み合わせ。右上奥のヘアピンからのダウンヒルストレートはその名のとおり、とくに後半が下り坂。全般にコーナーは旋回速度が遅めで同じようなリズム感。

●レース距離 (第7戦,第8戦とも):177.651km(モビリティリゾートもてぎ 4.801379km×37周)
・最大レース時間:75分 中断時間を含む最大総レース時間:95分
・タイムスケジュール:土曜日・第7戦/午前9時05分〜公式予選、午後2時30分〜決勝レース
日曜日・第8戦/午前9時15分〜公式予選、午後2時30分〜決勝レース

●予選方式:ノックアウト予選方式(第7戦,第8戦とも)

⚫︎2グループ(A組・B組)に分かれて走行する公式予選Q1、そのそれぞれ上位6台・計12台が進出して競われる公式予選Q2の2セッションで実施される。
⚫︎公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。そこから10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行。
⚫︎公式予選Q1のグループ分けは、第7戦については第6戦決勝終了時の、第8戦については第7戦終了時のドライバーズランキングに基づいて、主催者(JRP)が決定する。ただし参加車両が複数台のエントラントについては、少なくとも1台を別の組分けとする。
⚫︎第7戦Q1の組分け(車番のみ記すと…) A組:3,6,15,18,20,37,39,50,53,65(10車) B組:1,4,5,7,12,14,19,36,38,55,64(11車)
⚫︎Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
⚫︎Q2の結果順に予選1~12位が決定する。

■天候・路面状況などによっては、全車が一定の時間の中で出走し、その中の最速周回タイムで予選順位を決定する方式を採用するなど、大会運営側の判断で変更されることもある。

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック、ウエット1スペック

●決勝中のタイヤ交換義務:あり〜ただしドライ路面でのレースの場合

⚫︎スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
⚫︎先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること(もてぎロードコースの第1SCラインは、セカンド・アンダーブリッジを抜け、左コーナー直前でピットロードが分岐する所・コース路側に引かれた白線。ちなみに第2SCラインは、本コース上に引かれたピットロードの延長を示すラインが終わった先、1コーナー寄りの路側に引かれた白線)。
⚫︎タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
⚫︎レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合は、交換義務の対象として認められる。
⚫︎レースが(37周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
⚫︎決勝レースをウエットタイヤを装着してスタートした場合、およびスタート後にドライタイヤからウエットタイヤに交換した場合は、このタイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウエットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行った時に限られる。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
こちらは富士スピードウェイでの前戦のスタートシーン。さてもてぎの2連戦は…(写真:JRP)

●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて

・ピットレーン速度制限:60km/h
・ピットレーン走行+停止発進によるロスタイムは…

モビリティリゾートもてぎ、ロードコースのピットロードは、比較的低速で切り返すビクトリーコーナー手前で分岐し、約590mのメインストレート終端・1コーナー手前で合流するレイアウトのため、国内サーキットの中ではかなり短い。その結果、ピットロード走行+停止・発進のロスタイムは短めでり、約20秒と見積もることができ、実際に近年のSFのレースデータから抽出・概算した値もそのくらいに落ち着いています。これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるけれども半周、セクター3にかかるあたりまでペースが上げられずに失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で30秒、若干のマージンを見て32〜33秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間となるわけです。

●タイヤ使用制限

⚫︎ドライ(スリック)タイヤ
今回の週末2連戦では、まず金曜日のフリー走行から土曜日の第7戦については、各車に新品・3セット、前戦までに入手したものの中から「持ち越し」3セット。日曜日の第8戦については、新品2セット、第7戦までに入手したものの中からの「持ち越し」4セット、となっている。前戦、富士スピードウェイの予選日が雨だったので、各車少なくとも1セットは新品を「持ち越し」ているはずで、決勝レースをタイヤ交換する前にリタイヤした車両(平川、フェネストラズ、三宅)は2セットを残したはず。それらをうまく組み合わせて使うことで、両日とも新品タイヤは予選Q1、Q2、そして決勝スタートにそれぞれ装着が可能でしょう。予選でQ2進出を逸した車両は、決勝レース途中で交換する2セット目にも新品が残るけれども、Q2まで走った車両はこれが予選を走った「1アタック品」になる、というのが一般的です。

⚫︎ウェットタイヤ(湿潤路面用)
大会週末2日間を通して、各車6セットまで使用可。

⚫︎走行前のタイヤ加熱:禁止・決勝レース中の燃料補給:禁止

●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(120.1L/h)
燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下します。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。

●オーバーテイク・システム(OTS)
・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」

⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
⚫︎作動開始後8秒経過してからロールバー前面のLEDおよびテールランプの点滅開始。ロールバー上の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。
⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー上のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。 OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持される。概算で出力が60ps近く増える状態になる。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされる。
⚫︎今季は、予選で各車・人がアタックラップに入っていることを知らせるべく、このロールバー前面LEDを点滅させる「Qライト」が導入されている。

SF19のステアリングホイール
たまには今現在、スーパーフォーミュラで使われているステアリングホイールをお目にかけましょう。コスウォース製。これはもちろん裏側で、写真右上方向が車載時に上。「パドル」が左右に2段張り出していて、その上側・ちょっと大きめなのがギアシフト。車載時右側がアップ、左側がダウンで、指先で引くと作動。下の少し幅の狭いパドル一対が発進時クラッチ操作用で、両方をいっぱいまで引くとクラッチが切れ、片側を離すとバイトポイント、いわゆる半クラッチの所にレリーズが動き、そこからもう一方のパドルをじわっと戻して微妙なつながりをコントロールする。

これらを踏まえつつ、スーパーフォーミュラ第7戦と第8戦 モビリティリゾートもてぎの2日間を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!

(文:両角 岳彦 /写真:特記以外は筆者)

【関連リンク】

・スーパーフォーミュラ公式ウェブサイト「2022年のLIVE中継について」
https://superformula.net/sf2/headline/34862

・SF公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/superformulavideo/featured

・SF公式サイト「ライブ・タイミング」
https://superformula.net/sf2/application

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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